第40話 路線拡張計画実施中――労働の尊さに目覚めた魔王の孫は至高の枕木職人を目指す!
工場地帯であるヘルズプリズンは、いわばトロッコの線路敷設に必要な材料の供給地でもある。今度は、この拠点から、ヴィランズタウンへ向けて線路を作ることになった。
今度は、効率と、ほんの少しエンタメ要素を取り入れた敷設となった。
エンタメ要素――つまりは、あえて起伏のある所を通ってみたり、コース中にカーブを入れてみたりしたのだ。
というのも、トロッコは楽しいからだ!
サミュエルも、「起伏、カーブ」という単語を聞いただけで、胸が躍った。それはまるで、幼いころ、初めてワイバーンに乗ったときのようなワクワク感であった。
もはや多くの住人が、どうしてトロッコの線路を敷設する必要があったのか覚えていないぐらいトロッコは「エンタメ」と化していた。
当然、サミュエルもこの「ワクワク・ドキドキ・トロッコ」のために全力を尽くした。
密林を切り開いた際にできた大量の木を切って、枕木にするのだ。この作業をオーガ・レッドとバッファロー獣人のうしおの三者で一手に引き受けたのだ。
「せっかくだから、誰が一番多くの枕木を作れるか、競争しようではないか! この俺の剣さばきに勝てるかな?」
「おう、ミュの旦那、その勝負、受けて立つぜ! この前の一騎打ちには負けたが、今、俺の手元には最強の斧『Oh no!』があるのだ! 斧を振らせたら、この俺に敵うものはいないというところを見せてやろうじゃないか!」
「ミュの兄貴! わいもパワーだったら誰にも負けねえだす!」
スピードと技のサミュエル、斧使いのレッド、パワーのうしおの戦いが今始まろうとしていた。
「とりゃああああ、おりゃああああ!」
大量の丸太を相手に、サミュエルは一心不乱に斧を振り下ろした。
最初は扱い慣れない斧に戸惑いもあったが、魔王の孫なだけあって、どのような武器も瞬時にして使いこなすだけの天性の才能があった。
今は、こうして斧を振り下ろすたびに丸太が枕木へと姿を変えていく様が心地よい。次第に額には汗がにじんでくる。しかし、それもまるで不快ではないのだ。
(ああ、労働とは、なんとも尊いのだろうか!)
自らの一振りによって、モノが生み出されるこの感動。
今まで、自分は何をして生きてきたのだろうかと、百年を超える人生を振り返る。かつてこのような尊い行いをしたことがあっただろうか。
休憩時間になると渡されたタオルで汗を拭う。このタオルのふんわり感がまたたまらない。このタオル一つとっても、今までの人生の中でサミュエルの周りには存在しなかったものなのだ。
「ミュくん、おっつー!」
アンジェラがよく冷えたコーラを渡してくれた。これを一気に飲み干すときの爽快感! 今までの疲労が嘘のように吹き飛ぶのだ。
このコーラを渡してくれる女性が、変人娘ではなく淑やかな美女であったならば……などという贅沢は言ってはならない。
ここは自称美少女で我慢だ。むしろ、このアンジェラこそが――見た目や性格はともかく、彼にとっての女神なのは事実なのだ。
なぜならば、今のこの幸福な一時に身をゆだねることができているのは、すべてアンジェラのお陰なのだから。
彼女がこれまで――目的と方法はともかく――自分を、そしてこの島をより良い方向に導いてくれたからこそ、夢のような時間を享受できているのだ。
そんなことを考えながらアンジェラを見ると、先ほどまでサミュエルが汗を拭っていたタオルをスーハーしている。
「うへへっ、ミュくんの匂いがする、極上のタオル! うへへっ」
今のは、見なかったことにしよう。
(ああ、生きているって素晴らしい! お日様ありがとう! そよぐ風よありがとう! 草木をはぐくむ大地よ、感謝するぞ!)
サミュエルは世界の全てに感謝したい気持ちだった。
「俺は……俺は、枕木職人になる!」
「ミュの兄貴がそう言うならば、この俺も枕木職人になってやるぞ!」
「わいも、負けてられんだす!」
オーガや獣人もきっと同じ気持ちなのだろう。
「よし、三人で枕木職人になろう! この満ち足りた素晴らしい世界に乾杯!」
「カンパーイ!」
三人は意気投合して、コーラで乾杯をした。
「っぷはーー! 労働の後のコーラはたまらないぜ!」
「っぷはーー! その通りだすよ! ああ、これで水浴びができたらもっと最高だな!」
「キラーーーンっ、ちょいとうしお! 今、ちみは何て言ったかな!?」
アンが三人の会話に割って入ってくる。
「あ、アンの大将! 水浴びができたらもっと最高だすと。すんません、贅沢言って」
うしおは申し訳なさそうに謝罪した。
「いやいや、贅沢なものか、うしおくんよ! なければ作ればいいと思わないかな?」
「な、なんと、水浴びができる池を作ってくれるんで?」
うしおの目が輝きだす。うしおにとって水浴びは労働後のコーラに匹敵するほど魅力的なものらしい。
「その通り! そこの三人。枕木職人もいいけれども、作りたいものはほかにもたーくさんあるんだよ! それに三人には闘技場ができたら剣闘士になってもらわないといけないしね!」
「そうだった……。では、俺は枕木職人兼、剣闘士になろう。にしても、池だったら密林の中にあるだろう? それではダメなのか?」
ジャングルの中には、池もあるし川も流れている。ただ、あまり水浴びはしたくない。城にある温浴施設のほうがずっと快適だと思う。
「あそこは危ないじゃん! 毒を持った生き物やこっちを食べにかかってくる生き物が結構いるからね。命がけの水浴びなんてしなくても、プールさえあれば、だれでも安全な水遊びが楽しめるんだから!」
「なるほど。言われてみるとそうっすね」
「そう! だから、我々が次に作るのは……老若男女問わず安全、安心な水遊びができる施設。ウォータースライダー付きのプールなのだ!」
「ウォータースライダー付きのプール!?」
「ってなんだ?」
「わいもわからんだす」
三人は聞きなれない新しい言葉が登場したことに顔を見合わせると、首を傾げた。
「まあ、後はこの謎の天才美少女アンジェラ様に任せなさいな」
ポカンとした顔の三人を置いて、アンジェラは「ミュくんの腹筋見放題♪ ミュくんの二の腕見放題♪」とスキップしながら去っていった。




