第39話 男心をくすぐるアヤツがこの島に……!? 魔王の孫はトロッコに夢中
「トロッコ! ガンテツ師匠! 死んでもあんたについて行きますぜ!」
「トロッコ! ああ、わが心の故郷よ! ああ、永遠の憧れ!」
「トロッコ! わしの目が黒いうちにホンモノに出会えるとは! 寿命が百年延びたわい!」
トロッコと聞いて大はしゃぎするドワーフたち。トロッコとは、そんなにも素晴らしいものなのだろうか。
ドワーフたちによると、伝説のドワーフ王国の街は、鉱山に囲まれていて、すべての鉱山にはトロッコが敷設されていたらしい。
ドワーフたちはトロッコに乗って鉱山に赴き、トロッコに乗って掘り出した鉱物とともに街に戻る。そんな生活が、彼らの血の記憶に深く刻まれているのだ。
よくわからないながらも、説明を聞けば聞くほど、サミュエルは興奮を覚えた。
いつの時代も、機械系の乗り物は男の心を深く動かすものなのだ。
「うほほーい! トロッコを作って、ミュくんの心もゲットぢゃぞい!」
(これは、まずい。本当にそんなものを作られたら、ガンテツに惚れてしまうかもしれない……が、見たいぞ! 乗りたいぞ! トロッコに!!)
早速、トロッコ特別部隊が編制される。地質調査班と、レール製作班、レール敷設班に分かれて急ピッチで作業が進められた。
最終的には、エビルアイランドにある各拠点間をトロッコでつなぐことが目標なのだが、手始めにヴィランズタウン入り口と、トム・ハム・サム三兄弟の農場・牧場・釣り堀がある食料系生産拠点を結ぶことにした。
当初は街中に居を構えたトムたちだったが、人口が増えるに伴い、郊外を開墾し、そちらに広々とした農場を再整備していたのだ。
彼らは自分たちの拠点に「サクリファイス・ファーム」というかなり物騒な名前を付けていた。
この辺りは土地も平坦で、すでに食料運搬役の暴走ヤクが行きかっていたので、地ならしも済んでいた。トロッコを走らせるためのレールの敷設は順調に進んでいった。
そして、ドワーフたちの熱意と、未知のものに興味津々な住人たちの協力で、ついにヴィランズタウン―サクリファイスファーム間の鉄道が開通したのだった。
今日は、記念すべきトロッコの除幕式である。一応、この街のトップに君臨しているということになっているアンジェラが挨拶を行う。
「えー、今日のこの良き日を迎えられたのは、ひとえに皆様の並々ならぬ努力の賜物……ってめんどいわ! 早く乗りたいわ! トロッコに!」
「おお!」
「そうだ! 乗ろうぜ!」
サミュエル、ガンテツ、ドワーフのトロッコ部門長のロコトコがテープカットを行う。すると四両編成のトロッコが姿を現した。といっても、ただの四角い箱が四つ連なっているだけではあるのだが。
「では、いざ出陣じゃーーー!」
アンジェラは一番手前の箱に乗り込んだ。続いて、サミュエル、ガンテツ、ロコトコも乗り込む。動力は人力なので、最後はオーガの力持ち、オーガ・イエローが後ろを押すと、トロッコはほとんど自動で動き出した。
スピードは、人が走るよりも早く、地形の起伏に合わせて少しスピードが落ちたり上がったりする。特にスピードが上がったときの疾走感がたまらない。
「いえーーーい!」
「ひゃほほほのほーーい!」
四人を乗せたトロッコは、あっという間にサクリファイスファームに到着した。
「超おもしろかったー!」
「生きていてよかったー!」
(やばい、これはガンテツに惚れそうだ……)
「うほほー! ミュくん、わしに惚れちゃっていいぞーい」
今度は、収穫したばかりの食料と、トム・ハム家のちびっ子たちを乗せると、トロッコはヴィランズタウンへと帰って行った。
トロッコは実用性もさることながら、娯楽として大人気になった。だが、現状ではまだ一路線しかない。
「ガンテツ師匠! トロッコの新路線敷設を急ごうではないですか!」
「うおおお! 俺らも力の限り協力させてもらうぞ!」
ロコトコの提案で、オーガたちも気勢を上げた。
だって、あんなに楽しい乗り物、もっと乗りたいではないか! そのためには乗れる場所を増やす必要があるのだ。
少し前までオーガとドワーフは支配する側とされる側で対立していたはずなのに、トロッコは彼らの仲をも取り持ってしまったようだった。
次の路線は、工場エリアと街を結ぶことになった。
ここ工場エリアには、ナオミの紡績、織物、染物、縫製工場に、魔女たちの薬品、魔道具製造工房、そしてドワーフたちの武器防具など金属加工工房がある。
彼女たちは、トムたちの命名センスに倣って、このエリアを「ヘルズプリズン」と名付けた。
「ここは、永久に終わらない数多の苦行が待ち受けている地獄の刑務所なのだ、ふはははっ!」という意味を込めたらしい。
ちなみに、名前とは異なり、彼らの労働環境は、実際のところは超ホワイトである。
ナオミの工場では、雇い入れた人間のほか、コボルトたちがあくせく……というよりはのんびりと働いていた。
魔女たちの工房も同じような状況で、マーガレットとヴィクトリアの魔法使い仲間であるぶっとんだ魔女たちのほか、魔力のある獣人たちが働いている。彼女たちの多くは夜行性のため、昼間はほとんど寝ていて、夜に少しだけ、気が向いた時に働くのだ。
それに比べて、ドワーフたちは勤勉だった。特に今までやりたくてもできなかった仕事がここにはあるのだ。金属の精錬工房、それを囲むように武器や防具から日用品の加工工房がある。
よく働くドワーフたちだったが、彼らは彼らでこれが幸せなのだ。しかも、以前と異なり、今は衣食住が満ち足りている。生活の心配をすることなく、やりたい仕事をやりたいだけできるのだ。彼らは、今はトロッコ作りに熱中していた。
当面の目標は、街とこの工場エリアをトロッコでつなぐことだ。その次は、今度はかなりの大仕事になるが、北にあるコボルトの住居エリア&鉱山エリアの街まで線路を敷設することだった。
そして、最終目標が西のサバンナ・火山灰エリアである。
ドワーフたちは、「働いて、働いて、働いて参ります」を地で行っていた。




