第38話 たこ焼きとサーカス――血に飢えし人間どもは闘技場をご所望だ……
「モフオたち獣人でしょ、レッドたちオーガでしょ、ガンテツやトム一家、それになんといってもミュくん! これだけツワモノが揃ったんだから、作りたいよね?」
「何をだ?」
「作りたいわ!」
「作るべきです!」
「むしろ、作らないのは悪ぢゃろう!」
アンジェラが何かを提案すると、ジョセフィーヌとナオミ、ガンテツが大賛成する。
常々不思議なのだが、こいつらはなぜ言葉少なめでも会話が成立するのだろうか。
「何って、闘技場に決まっているじゃん! これで、毎日ミュくんの勇姿が見放題じゃん!」
「と、闘技場だと!?」
そういう突拍子もない発想はそこからやってくるのだろうか。しかも、作りたいものが何なのか言う前から四人が完全に意気投合しているのだ。
確かに、魔王軍にも似たような場所はあった。
と言っても、ただ、密林を少し切り開いただけの訓練場で、その場所も百年の間に、すでに密林に飲み込まれていた。
「パンとサーカスってやつね」
「何だ、それは?」
またしても、アンジェラがアンジェラの癖にサミュエルにはわからないことを口にする。
「だから、おいしいご飯があって、楽しい娯楽があれば、人々はそれに夢中になって、『えっ、まじでこの島に魔王の残したお宝なんてあるのかよっ』みたいなことはあまり深く追及することなく、お宝探しにいそしんでくれちゃうって感じ?」
「というか、アン、お前……お前もやっぱりお宝なんてないのかもしれないって思っているんじゃないのか……?」
サミュエルは疑念の目をアンジェラに向けた。
「何を言っているの、ミュくん! すでにこの島にはかけがえのない、貴重なお宝が山のようにあるでしょ!」
「えっ? そうなのか?」
確かに、思いのほかおいしく食べられるものがこの島にはあることがわかった。それに魔法薬を作る際の素材や、貴重な金属も見つかってはいる。
「そうよ! 共に生死を乗り越えてつながった人々の尊い絆、安心して過ごせる温かな寝床においしいスープ、こぼれんばかりの仲間の笑顔の数々……」
アンジェラは聖女のような朗らかな表情で、まるで小鳥にでも話しかけるように美辞麗句を次々と並べ立てた。
「お前がそういう言葉を口にすると、信じがたいほど胡散臭いな……」
「それはそうね」
「ですねー」
「そうぢゃな」
珍しくジョセフィーヌ以下の三名がサミュエルの意見に同意してくれる。
「いや、ひどくね、みんな! みんなもそう思うでしょ! ここでお宝という一つの見果てぬ夢に向かって共に邁進する、この輝ける日々こそがわたしたちの真のお宝だって!」
アンジェラの可憐な美少女演技は止まらない。
「いや、もうそういうのはいらんから……」
「あー、はいはい。みんながそんな冷たい感じだと仕方がない。じゃあ、本題に入るよ。闘技場こそ、魔王のお宝に匹敵する金の卵ってこと!」
「どういうことだ?」
「だって、見たいでしょ? 男同士の本気の戦い!」
「まあ、言われてみると、見たいな」
(というか、むしろ戦ってみたいな。きちんとした武器を手にしたレッドとは)
「そう思っているのは、わたしだけじゃないってこと。つまりは、闘技場での試合をエンタメとして提供することで、この島の住人のやる気を奮起するだけじゃなくて、客も呼べるってこと!」
「客だと!」
客。つまりは、この島の住人ではない、外部の者を呼ぶということか!?
そのようなことをして、勇者の末裔がやってきて、魔族の生き残りである自分を討伐するようなことにでもなったら……。
サミュエルの頭には、一瞬、不安がよぎる。
「今の世の中、平和でしょ? だからね、人々はちいとばかし、エキサイティングなイベントに飢えているんだよ」
「わかるわー。血沸き、肉躍る、男たちの熱い戦いに熱狂する気持ち!」
「ですねー! しかも、戦っているのが、人間の世界では珍しいオーガや獣人ってだけでも、『えっ、そんなの見たすぎじゃね』ってなりますね!」
「そうぢゃ、そうぢゃ! それに、何といってもこのミュくんぢゃろうて! こんなイケメンがバッサバッサと敵を倒すところなんて見せられたら、わし、惚れてまうぢゃろうて!」
(いや、ガンテツ、お前だけは俺に惚れてくれるな!)
「ということで、住民投票して、賛成多数だったら、作っちゃうからねっ、闘技場!」
「大さんせーい!」
「はあ……まあ、いいかもしれないな。そういう場所があったとしても」
ということで、さっそく闘技場建設と武術大会のエンタメ化についての議案が公示され、厳正な手続きの元に住民投票が行われた。
結果、賛成多数――というか、反対0の奇跡で、闘技場が作られることになった。
それからというもの、闘技場建設に関わる住民たちの仕事は凄まじかった。
ヴィランズタウン周辺の土地を調査し、もともと魔王軍の訓練場があった起伏の少ない土地を見つけると、そこを「闘技場の建設予定地」として整地する。
「これで、闘技場も完成か……」
きれいに整った土地を見て、サミュエルが感慨深げに口にした。
「何を言っているの、ミュくん。闘技場なんてまだ、影も形もないじゃんか」
「そうなのか?」
魔王軍の訓練場であれば、これでもう完成なのだが、人間の闘技場は違うらしい。
「じゃーん、これが設計図と完成予定図ぢゃよ!」
ガンテツが出してきた完成予定図は、円形の壁に囲まれた、まるで城のような立派な建物だった。
設計図によると、地上二階、地下一階の構造であり、観客の収容人数は軽く一万人を超える。一万人という数の大きさも、建物自体の大きさも、サミュエルには全く未知のものであった。
「これをどうやって作るのだ?」
ヴィランズタウンの周辺には良質な木材こそ多いが、それ以外の建材を調達するのはかなり難しそうだ。
「コンクリートを使って作るつもりぢゃ」
「コンクリート?」
「そうぢゃ。砂と石灰と水で作る石みたいなもんぢゃな」
岩を砕いて砂利を作るというのであればわかるが、砂から石を作るとは、まるで魔法のようだとサミュエルは強い興味を抱いた。
「しかもぢゃ。この島では石灰取り放題の上、西では良質な火山灰までゲット可能ぢゃろ?」
「いや、だが、西はかなり遠いぞ。火山灰がどれくらい必要なのだ?」
今、この島の主な輸送手段と言ったら、南の山岳地帯で捕まえた暴走ヤクたちである。が、いくらなんでも、長距離を大量の荷を持たせて移動するのは相当厳しいだろう。
「まあ、いーーっぱいぢゃな。だから、闘技場の前に作らねばならぬものがあるんぢゃ」
「何を作る必要があるのだ?」
「トロッコぢゃ!」
「?」
サミュエルや獣人、オーガはトロッコが何なのかまるで分らなかった。その横で、ドワーフと人間たちは「おおっ!」と大歓声を上げた。




