第35話 真の超絶イケメン参上!――不細工なオーガを撃退せよ
サミュエルたちは、山間にあるドワーフの集落の近くに来ていた。
集落に潜入していたドワーフたちの話によると、ここにいるオーガは全部で八人。ちょうどタコの脚の数と同じだ。だから、何だという感じだが、アンジェラは嬉しそうだった。
「だから、わたしが言った通り、この作戦は、『オペレーション・オクトパスボールズ』でぴったしだったでしょ?」
確かに、ヴィランタウンで売っているたこ焼きも、一舟に八個入りである。なるほどな、などと感心している場合ではない。
オーガのリーダーは赤髪の男だ。たこ焼きのゆでタコと同じ色である。報告によると、八人のオーガはすべて成人で、それぞれ髪の色が違うらしい。赤、青、黄色、緑、黒が男、白、桃色、紫が女だそうだ。
オーガたちは、ドワーフを支配して、ここに要塞を作ろうとしていた。
建設中の要塞を仰ぎ見るような位置に、一際高い台が設けられている。まるで観覧席のようだ。
そこには大型のソファーが置かれていて、リーダーの赤髪のオーガが腰を下ろしていた。見ると、顔よりも大きな杯を片手にしている。
その男には三人の女オーガが体を寄せていた。彼女たちは、赤髪のオーガが酒を飲み干すたびに、競うように大樽を抱えては、酒を注いでいた。
さすがはオーガ。ハーレムを形成する女子であっても全然か弱くはなく、随分と逞しい。
三人の女を傍に侍らせているだけあって、遠目に見ても、リーダーの男の顔は思いのほか悪くなかった。
(こんな男相手に「イケメン参上」とか言わないといけないのか……)
サミュエルは妙に気が重くなった。これから生死をかけた戦いが待っているかもしれないというのに、サミュエルの関心はこのセリフにあった。
「な、なあ、あのリーダーの男、想定よりも不細工ではないと思うのだが」
今からでもあのセリフはなしにできないかと思い、アンジェラに話を持ち掛けてみる。
「大丈夫、ミュくん。確かにあいつの顔面偏差値は58ぐらいはありそう。自称イケメンといったところね。だけど、ミュくんは75超えている超イケメンだから、自信を持って!」
励まされただけで終わった。
「そういう問題ではないと思うのだが……」
「はっ! もしや、ミュくん! ハーレムに憧れているんじゃなかろうねぇ! ダメダメ! ミュくんは謎の美少女に一途な想いを寄せて、溺愛している設定なんだから!」
「なんの設定だ……」
アンジェラに昨日もらったカッコいいセリフ集には、そのような描写は一切なかった気がする。
「わかったよ、ミュくん。少し、台本を手直ししよう」
そういうとアンジェラはどこからともなく紙とペンを取り出すと、凄まじい勢いで何かを書き綴った。
「新しい台本だから、覚えて!」
なぜ、台本通りに動かないといけないのか。しかも、その台本を考えるのがなぜアンジェラなのか。様々な疑問が募るが、とりあえずサミュエルは渡された紙に目を通した。
「…………これ、やらないとダメなのか?」
「当然! ミュくんの力でこの世界に平和をもたらしてあげて!」
妙に真剣な顔つきでサミュエルの手を握り締め、深く「うん」と頷くアンジェラ。この女を止める力などサミュエルにはない。こうなると、サミュエルも腹をくくるしかなかった。
「では、『オペレーション・オクトパスボールズ』始動! 総員配置につけ!」
アンジェラが、まるで有能な司令官のような顔つきで味方に指令を出す。
「ラジャ!」
獣人たちはそれぞれの目標を確認すると、戦いに備える。補助部隊の人間のボムたちやコボルトのツボたちも、逃げてきたドワーフを保護すべく、配置についた。
いよいよ、オペレーション・オクトパスボールズが開始される。
まずはドワーフたちにグミ摂取の合図が出される。
合図は、アンジェラが敵の標的の前に姿を現し、ある言葉「ヘルプ・ミー」と口にすることだった。
アンジェラは待機していた物陰から躍り出た。
意表を突かれたオーガのリーダーと女たちは、一瞬事態を把握できずに戸惑った。
「な、なんだ!?」
「キャーーッ」
「一体誰よあれ!」
アンジェラはオーガーのリーダーの顔を見て、不敵な笑みを浮かべる。
「あーれー、ここにいる顔面偏差値58の自称イケメン男に、謎の美少女が手籠めにされてしまうわーー! どうかわたしを助けて! イケメンの王子さまあ! ヘルプ・ミー! ヘルプ・ミーー!」
目の前に現れた謎のおかしな女がこれまた謎すぎる言葉を口走っている。
と、思ったら、労働していたドワーフたちが、女子どもも含めて、急に信じられないようなジャンプ力を発揮して、飛び跳ねながら散り散りになって消えていった。
「お、おい!」
リーダーの男が焦りと共に声を上げると、青以下のオーガ男たちが飛び跳ねながら逃げるドワーフたちを追いかけようとした。
ピカーンッ!
急に暗雲が立ち込め稲光がする。建設中の要塞の最上部が一瞬照らされる。
見ると、そこには静かにたたずみ、風に長い銀糸のような髪をなびかせた一人の男の影が!
「下劣で顔面偏差値58程度しかない自称イケメンのオーガのリーダーよ! よく聞くがよい! 貴様、よくぞこの俺の愛しのアンジェラ姫に手を出してくれたな!」
オーガのリーダーは、
(誰だ? アンジェラ姫って。まさか、目の前にいるこのクソ女か!?)
と思い、もう一度アンジェラに視線を向けた。
アンジェラは髪を振り乱しながら叫ぶ!
「来てくださったのですね! 顔面偏差値78の真の超絶イケメン、サミュエル様ああ! アンジェラは、アンジェラは、あなた様のことをずっとお待ちしておりましたわああ!」
言うまでもないが、アンジェラの演技は大根そのものだった。
「たかだか顔面偏差値58の自称イケメンのくせにモテると勘違いして、たったの三人しかいないプチハーレムを築いてヘラヘラしている、このどアホなクズ男に、サミュエル様の必殺技、愛の鉄槌――溺愛クラッシュを食らわせてくださいませっっ」
「あい分かった、謎の美少女アンジェラ姫! 顔面偏差値78の真の超絶イケメンであるサミュエル様が貴様を血祭りにあげてくれようぞ!」
目の前で急に始まった意味不明な上、人のことを「自称イケメン」と連呼する、随分と失礼な芝居に唖然とするしかないオーガたちだった。




