第34話 作戦開始――ドワーフたちを救え!
なぜか成り行きでオーガ討伐をすることになりそうなサミュエル。何を言ってもアンジェラたちはまるで聞く耳を持たない。「やったれ、やったれー!」と急かしてくる。
「はあ……で、オーガは一体何人ぐらいいるんだ? さすがに人数が多いと、俺と獣人たちだけでは厳しいぞ」
決して弱くはないドワーフを支配しているとなると、侮ることはできない。
「集落に攻め入ってきたオーガは7、8人ほどですじゃ。一方、集落に残っていたドワーフは、女子どもを含めておそらく30人~40人ほどですじゃ」
人数比を考えると、オーガは相当強そうだ。
「なるほど。オーガは力が強いが、ただの脳筋ではない。貴重な労働力となるドワーフをやたらと殺したりはしていないだろう。まずはその集落にいたドワーフ、特に力の弱い女子どもを救出することを考えよう。人質に取られでもしたら、厄介だからな」
「おおっ、作戦っぽいね!」
「っぽいではなくて作戦そのものだ」
と言っても、何の策もないまま全員を外に連れ出すのは、極めて困難だろう。
30人を超える人数が一気にいなくなれば目立つし、当然オーガにも気づかれるだろう。
また、最悪なのは逃げ切れなかった者がいた場合だ。そうなると、その者が真っ先に狙われることになる。
「どうするべきだろうか?」
「はいはーい、ここは天才軍師アンジェラ様の出番やねっ」
「何かいい作戦があるのか?」
「じゃーん、これを使えばいいじゃーん」
アンジェラは魔女が開発したグミの入った小瓶を天高く掲げた。
「これをどう使うと?」
「このグミをドワーフたちに配るでしょ。んで、みんなにいきわたったら、一斉に食べてもらう。そうすればグミパワーでオーガなんてなんのそのってわけ」
確かに、高く飛び跳ね、蜘蛛の糸が吐けるようになれば、その力を生かしてオーガからも逃げ切ることができそうだ。
「で、ドワくんたちを保護した後で、ミュくんが颯爽と登場すると。んでもって、オーガの統領に一騎打ちを挑むと。そして、そして! 激闘の末、見事うち果たすという超激熱なシナリオなわけね」
「いや、まあ、そのあたりはどうなるか、と言ったところだが……」
「ダイジョブ、ダイジョブ! ミュくんはイケメンだから、オーガなんてちょちょいのちょいの朝飯前だってばさ!」
(イケメンであることと戦闘能力はまるで関係がないと思うのだが……)
「よっし! 名付けて、『オペレーション・ドワグミヘルパー&オーガスプラッターキル』開始!」
「いや、ちょっとまて、その作戦名はいくらなんでもないだろう」
「うーん、そう? じゃあ、『オペレーション・オクトパスボールズ』は?」
「……なんだそれは……いや、もういい……」
それからは、サミュエルたちとドワーフたちは協力して、ドワーフ救出&オーガ討伐作戦の準備を進めた。
まずは状況の確認をすべく、獣人が潜入する。ドワーフたちは女子どもに至るまで、強制的に労働させられているものの、殺されたりはしていないようだった。
この作戦で行ける。ということで、ドワーフたちに配るグミ、クモ味とカエル味の大量製造を急ぐ。
サミュエルも、オーガと対峙する部隊の編成を行っていた。戦闘力に優れたモフオなど10人ほどを厳選する。
「うっし、任せておけ、ミュの兄貴!」
「久々の戦闘、腕がなるぜ!」
グミができたら、今度はドワーフたちに配布する必要がある。
ドワーフの集落に違和感なく侵入し、ドワーフたちに話を通すためには、やはりドワーフが事に当たるのが最適だろう。
ということで、数名のドワーフたちが、チーター獣人・ニャオンのくしゃみエキス入りグミを食べて気配を消し、素早く行動に移しつつ、グミを配って回った。
案の定、オーガたちはこの動きには気が付いていないようだった。
いよいよ、作戦の決行日は明日という時になって、アンジェラは分厚い手紙をサミュエルに渡してきた。
「これはなんだ?」
「これはね、わたしからミュくんに対する熱い想いを綴ったものだから、絶対に目を通して」
(ま、まさか、こここここれは、恋文か!?)
まさか、人生初の恋文をこんな時に、こんなところで、こんな小娘からもらうことになるとは。
サミュエルは少しだけ気持ちを改めて、手紙を開封した。
「カッコいいセリフ集。絶対に覚えて活用して!
その1『愚かなりオーガども! 貴様らは顔面偏差値でこの俺に圧倒的に敗北を喫しているのだ! この俺のイケメンっぷりをとくと味わうがよい!』
そう言いながら、髪をかき上げるしぐさをする。
その2『愛の使徒、超絶イケメン、サミュエル参上! 醜いオーガども、この俺の煌めきイケメンスマイルオーラにどこまで耐えられるかな』
そう言いながら、白い歯を見せてキラッと笑い、ウインクをする。
その3『はははっ、やはりこの俺様のクールなイケメンっぷりには全く敵わないようだな! これでトドメだ! ハンサムスラッシュッッ!』
長い髪をなびかせながら、剣を振り下ろし、超カッコいい決めポーズをとる」
とりあえず、残念ながら恋文ではなさそうだった……。
「な、なんだこれは?」
「だ・か・ら、明日の戦いは、またとないミュくんの見せ場でしょ? どうせだったら、ミュくんのカッコよさを存分に味わいたいなと思って」
「誰がだ?」
「もちろん、わたしが!」
アンジェラは、さも当然のように威張って答えた。
「いや、カッコよくないだろう」
「絶対にミュくんはカッコいいって! 自信もって」
「いやいや、そうじゃない。このセリフと行動は全くカッコよくない! 第一、本当にカッコいい男は自分で自分をイケメンとか言わないだろうが!」
サミュエルは力の限り訴えかけた。あんなこっぱずかしいことをできるはずがない!
「えー、そうかなぁ? ねえ、皆どー思う? ミュくんがカッコいいセリフ言うの、聞きたいよね?」
「そりゃ、絶対に聞きたいっすよ。ミュの兄貴がかっけーセリフをバッチ決めたら、俺様もマネしてえ!」
「ミュの兄貴、俺もマネしていいっすか?」
「ヤッべー、マジで楽しみすぎるぜ!」
獣人たちには、サミュエルの気持ちをまるで分かってもらえなかった。
アンジェラのせいで、戦前夜の緊迫感はまるで吹き飛んでしまった。
とにもかくにも、サミュエルたち、デモンズキャッスル軍、初の本格的で真剣な戦いが目前に迫っているのだった。




