第33話 魔王の孫、ドワーフのおっさんたちを美貌で落とす
闖入者たちによる自己紹介を黙って聞いていたドワーフたち。彼らの珍妙な自己紹介を聞く限りでは、悪意はなさそうだと悟り、武器を握り締める手が少しずつ緩む。
「お前たちの好きな食べ物についてはおおむね理解した。して、我らにどんな話があってここにやって来たのじゃ?」
「そういや、俺も知らねえわ、それ。なあ、大将、なんで俺らここに来たんだ? お宝がどうとか言ってたのは知ってるんだけどよ」
モフオが不用意な発言をして、再びドワーフは警戒を強める。自分たちの財産を奪いに来たと勘違いされてもおかしくないような内容だったからだ。
「我々は今この地で慎ましやかに暮らしているというのに……。そんな我々からこれ以上何を奪おうというんじゃ!」
「待ってくれ! お前たちから何かを奪おうなど考えてはいない。ただ、協力をしてもらいたいのだ」
警戒心を強めたドワーフたちに、サミュエルは冷静に話しかけた。
「協力だと? 一体何を?」
「ああ、島の北部にある山脈地帯、コボルトの居住地近くに、鉱山を見つけたんだ。だが、俺たちにはそれを掘り出すだけの技術がない。お前たちにそれを採掘する協力をしてもらいたいのだ。もちろん、報酬は山分けすると約束しよう」
「鉱山だって? 本当にそんなもんがあるのか? そこでは何が掘れるんだ?」
幸い、ドワーフたちは鉱山に興味を持ってくれたようだ。
「金銀銅鉄に、水晶、魔鉱石もありそうだったぞ。俺は鉱石には詳しくないから、それ以上はわからん」
「ふむ、それが本当であれば、悪くない話じゃな」
「ちょっと待ったー!」
せっかく話が先に進みそうなところで、またしてもアンジェラが横槍を入れる。
「おい、お前、一体どういうつもりだ! 俺がせっかくこうしてドワーフたちと交渉しているというのに! まさか、掘り出した鉱石を独り占めしたいとかいいだすわけじゃないよな?」
サミュエルは歯ぎしりしながら文句を言う。またしても仲間割れの危機か……?
「違うけど?」
「じゃあ、何だ? 何が言いたいんだ!」
「わたしはだね、ミュくんのそのへりくだった態度が気に入らんのだよ!」
アンジェラはサミュエルを指さしながら、堂々と文句を垂れた。
「はあ、何だって?」
この小娘の言うことは、全くもって訳が分からない……。
「だってさ、ミュくんはこんな超ときめいちゃうようなイケメンなんだよ? 『お前たち、黙ってこの俺についてこい!』ぐらいカッコいいこと言えないかなー? その美貌の無駄遣いをやめてほしいわけ」
ふぅっと息を吐くサミュエル。
「そうは言うが、たこ焼き屋の女将さんとはわけが違うんだぞ。相手はドワーフのおっさんたちだぞ。彼らにしてみればイケメンが何だって感じだろうが! なあ、そうだよな? ドワーフの諸君よ!」
まためちゃくちゃくだらないことで仲間割れをするどうしようもない闖入者にドワーフたちは再び戸惑った。
「……そちらのお嬢さん」
「えっ、今、謎の天才美少女アンジェラ様を呼んだ?」
「呼びましたぞ」
「えっ、なになにー? やっぱりドワ君たちもこの超絶イケメンモテ男のミュくんについて行きたいよね?」
「その通りですぞ! お嬢さん!」
「えっ……」
(今、このドワーフのリーダーなんて言った?)
「お嬢さんの言う通り! リーダーたるもの、時には強気の交渉力を発揮する必要があると、わしらも思うぞ! 王者の風格のあるツワモノにこそ従いたいと思うは自然の摂理じゃ」
ドワーフのリーダーは意外な言葉を口にした。
ここに住むドワーフたちが強いものを求めるのには、実は理由があった。
彼らは元々、別の場所でもっと大人数で暮らしていたというのだ。
しかし、鉱山も掘りつくし、次第に集落は寂れていったそうだ。その上、この辺りの食糧事情はかなり厳しい。また、南部山岳地帯には魔物も多く出没する。
そのような状況を踏まえて、ドワーフたちはその行く末を巡っ仲間内で大論争になった。
結果、ドワーフたちはいくつかの集団に分裂することになった。
もともとの町に残り細々と保守的な生活を続けようとする一派、新たな場所を開拓して農耕に力を注ぐべきと主張する者たちに、新天地を目指そうとするもの、それこそお宝探しをしようとするもの。そして、今いるこの集団の者たちは、狩猟と採集に力を入れているようだった。
各々の道を行くだけであればまだよかった。
が、ドワーフの集団がいくつかに別れて弱体化したところで、オーガの一団が襲い掛かって来たのだ。
それまでは数の力で勝っていたのが、数的優位を失った途端、あっけなくオーガに元々いた町を占拠されてしまう。
ここにいるドワーフたちも、狩猟と採集をしながらなんとか命をつなぎ、オーガから隠れ住むようにここに身を寄せているのだ。ほかの仲間たちがどうなっているのか、今となっては知る術さえない。
とにかく生き抜くこと。そして、生き残るためには強くなければならない。それが彼らの信念だった。
都合のいい話ではあるが、上から支配するのではなく、彼らの生活を守りつつも、外敵の脅威から庇護してくれるのであれば、同盟を望むということだ。
「なるほど」
魔王軍も同じようなものだった。強いものに従えば、その者の権威を理由にわが身を守ることができる。そう思い付き従ったものが多かったのだ。結局は、勇者たちに軍のトップが負けてしまい、軍そのものも瓦解してしまったのだが。
「ということは、ドワくんたちは、うちのミュくんに、そのオーガを退治しろって言いたいんだね!」
アンジェラが得意の勘違いでの突っ走りを発動する。
「いや、違うだろう! どうしたらそうなるんだ!」
「おう、ミュの兄貴、こいつらのために、やったろうじゃねえか! 俺様も手を貸すぜ!」
それに便乗するモフオ。
「いやいや、モフオ、突っ走るな!」
「おお! まさか、憎きオーガを退治してくださるのですか!」
彼らの突っ走りを真に受けるドワーフたち。
「いやいやいや、そんなことは一言も言ってないが!」
「鬼退治じゃーーー! エイエイオー!」
「エイエイオー!」
サミュエルの言葉をまるで聴かずに、アンジェラたちの話がどんどん進んでいく。
「よっし、ばっちし作戦を立てちゃうよー!」
「人の話を聞けー!」
討伐する当事者であるサミュエルの意向はまるで無視される。
「ノンノン、ミュくん! 君、これはものすごくおいしい展開なのだよ! 今までこの島に来て以来、戦闘らしい戦闘はなかったよね? 今度こそ、イケメン戦士、ミュくんの腕の見せ所じゃん! ミュくん、このままだと君は、ただの顔の良いたこ焼き好きな男のまま終わってしまうんだよ。本当にそれでもいいのか!?」
アンジェラは力説した。
「いや、構わないが」
「ダメでしょうが! せっかくイケメンなんだから、顔、金、力の三拍子そろったスパダリ目指そう?」
「ははーっ、お願いしますじゃ、ミュくん!」
なぜかドワーフたちにまでミュくん呼ばわりされるサミュエルだった。




