第32話 ドワーフたちの村発見!
ドワーフというのは見た目が武骨でありながらも、建築から鍛冶、細工まで器用にこなすことで知られている。そんな彼らの生活は、ただの魔族と異なり、非常に文化レベルが高いのだ。
洞窟を抜けた先には、ドワーフたちの村が広がっていた。岩山をくりぬいて、そこに器用に住まいを作っているのだ。
見たところ、建物は大小合わせて十数軒建っていて、奥に一際立派で大きな建物があった。おそらく、そこがこの集落の長の住む家なのだろう。
村の中央には広場があり、それを囲うように配置された数軒の石造りの建物の屋根には煙突があり、白い煙が立ち上っていた。ここは鍛冶場か、あるいは炊事場かもしれない。村に人影こそ見えなかったものの、明らかに何者かが住んでいることは確かだった。
アンジェラ、どうするつもりだと聞こうと、彼女の方を見ると、どう見ても何も考えてなさそうな顔をしている。
「やっほーーーーー!」
やっぱり、何も考えてなかったらしい。アンジェラはいきなり大声で叫んだ。岩山に囲まれた集落に、アンジェラの声が無駄に響く。
当然のことながら、建物の扉が開き、中からはドワーフたちが武器を片手に飛び出してくる。
「謎の美少女、アンジェラ姫が来ましたよおおおー!」
存在が謎なのはまぎれもない事実だが、美少女ではなくてただのアホだろうとサミュエルは頭を抱えた。アンジェラの不用意な言動で、一触即発の危機ではないか。
ドワーフたちは素早く陣形を組んで、外敵の侵入に備えているようだった。
「おい! 状況を考えて、少しは自重しろ!」
「ほへっ? なに、なにー?」
言われた意味を理解せず、首を傾げているアンジェラは真正のアホらしい。このままでは、ドワーフと戦闘になってしまう。
「ドワーフの諸君! 落ち着いてくれ! 俺たちは怪しい者じゃない! いや、実際のところすごく怪しいが、違うんだ!」
頼りにならないアンジェラに変わって、サミュエルがドワーフたちをなだめるよう声をかける。
こちらの声に耳を傾けているようではあるが、ドワーフたちの戦闘態勢は変わらない。
「特にこの小娘はただのアホだ。俺たちに害意はないことをわかってほしい」
「ぶーぶー!」
人が必死にドワーフを説得しているというのに、横にいるアンジェラがブーイングをしながら不満げな顔を向ける。
「いや、だって、実際アホだろう!」
「違います! このわたしは天才美少女ですぅ!」
「いやいや、どう考えてもアホな小娘だ!」
「ミュくん、怒るよ! たこ焼き抜きにするからね!」
アンジェラは勝ち誇った顔でそう宣言する。
が、今のサミュエルにその一言は効かない。
「フッ、今やヴィランズタウンにはたこ焼き屋があるのだ。お前に頼らずとも、俺はたこ焼きを食することができるのだ! はははっ、どうだ!」
こちらもまた勝ち誇った顔で返す。
「あーはははははっ、ミュくん、愚かなり! そういうことであれば、たこ焼き屋は撤収してもらいますんで」
が、アンジェラの方が一枚上手だった。
「お、お前という奴は! 何てあくどい小娘なんだ……!」
「あーははははっ、さ、ミュくん、謝るなら今のうちだよ。このアンジェラ様を褒め称えるのであれば許してしんぜよう!」
襲い掛かってくるのかと思ったら、急に仲間割れをする侵入者たち。ドワーフたちは少し戸惑いながらも、警戒は解かずに事の行方を見守った。
「す、すまなかった」
「えー、聞こえないなぁ。もっと大きな声で言ってくれないと! あと、アンジェラ様を称える一言がないんじゃないかなー?」
(絶対に聞こえているだろう!)
「すまなかった! 許してくれ! 偉大なる美少女にして大天才のアンジェラ様!」
サミュエルは半ばやけくそで謝罪をして、アンジェラを褒めた。
「うむ、よかろう! そのイケメンっぷりに免じて許してやろうではないか!」
とりあえず、内輪揉めが収まったようで、仲間のモフオたちだけでなく、なぜかドワーフたちまでほっとしたような様子だった。
「見苦しいところを見せた、ドワーフの諸君。我々はお前たちの敵ではない。話し合いに来たのだ。武器を収めて話だけでも聞いてはくれないだろうか?」
陣頭にいたドワーフが周囲に目配せする。
「話とはどういった要件だ? それにお前たちは何者だ?」
リーダーらしき男が問いかけてくる。
それな。と思わず言いたくなる。人間とコボルトと獣人の集団というだけでも相当怪しい。
なぜならば、歴史を振り返ってみても、人間がコボルトや獣人といった人外の存在と同等であったためしなどないからだ。それが徒党を組んで押し寄せてきたのだ。ドワーフとしても警戒しないわけにはいかないだろう。
「だーかーら、謎の美少女のアンジェラ様とその仲間たちだって! わかった、じゃあそれぞれ自己紹介をするよ。まずはわたしから。謎の美少女にして、恐るべき魔術の使い手、頭脳派のリーダー兼スーパーアイドルのアンジェラです。好きな食べ物はあんころ餅です。ミュくんと結婚したいけど、今のところ恋人募集中ですっ。はい次、どーぞ」
なんという自己紹介だろうか……。呆れているとアンジェラから自己紹介のバトンが回ってくる。
「お、俺はサミュエルだ。なぜかこいつらにはミュくんと呼ばれている。ここにいるアンジェラの護衛をしている。好きな食べ物はたこ焼きだ。今はここにいる仲間たちと、元魔王城があった場所で一緒に街づくりをしている。最近、その町に念願のたこ焼き屋をオープンさせたところだ」
サミュエルの自己紹介にドワーフが反応する。
「魔王城があった場所だと?」
「そうだ。もうそこには魔族たちはいない。そこに人間が町を作って、同じ島に住むコボルトや獣人たちも共に住んでいるのだ」
ドワーフたちはその話を聞いて驚きながらお互いの顔を見合っていた。
「おらは人間の農民、チムだっぺ。特技は畝づくりとイモの収穫だっぺ。魔王城周辺は土地が肥えていて、農業に適しているだよ。皆はおらのこと、マザコンっていうけんども、おらはマザコンじゃねえ。どちらかというとグランドマザコンだっぺ。好きな食べ物はブロッコリーとトウモロコシだっぺ」
チム。好きな食べ物、イモじゃないのか……。それに、グランドマザコン。おかきさんのことが大好きなようだ。
「俺様はオオカミ獣人で獣人たちのリーダー、聞いて驚くなよ、何と名前はモフオだ! どうだ、すげーだろ! 俺様はそこの美少女のアンジェア姐さんを大将と慕っている。姐さんと番になりてえが、ミュの兄貴にはマジで敵わねえから、俺は二人の幸せを厳しい目で見守ることにしたんだぜ。好きな食べ物はほうれん草のお浸しだぜっ」
オオカミは肉食のはずだが、ほうれん草のお浸しが好きとは意外すぎる。というか、好きな食べ物を紹介するのが、いつの間にか自己紹介のテンプレートになっていた。
「僕はコボルトのトボ。ここにはいないアンジェラさんの仲間のおかきさんの作った料理に胃袋をつかまれて、人間たちの仲間になりました。人間たちのお陰で、おいしい食事に整った住環境と、健康で文化的な最高レベルの生活ができるようになったことに感謝しています。好きな食べ物は、おかきさんの作るあら汁です。よろしくお願いします」
コボルトの自己紹介が圧倒的にまともだった。




