第30話 ドキドキの投票からの開票
たくさん寄せられた案の中から、住民投票の舞台に上がってきたのは、4つだった。
第一案「デモンズキャッスル、ヴィランズタウン、エビルアイランド」
第二案「白城、落町、愛島」
第三案「みんなの城、あなたの町、彼らの島」
第四案「ミュ城、ミュ町、ミュ島」
以上である。
「どれもなかなかいい感じだべ。おいらは最初のが好きだべ。横文字でカッコいいだよ」
田舎者には人気の横文字。
「どう考えても第二案だろうが! おもろー、これ、おもろいわ!」
お笑い好きの心を揺さぶる駄洒落な当て字。
「わ、私はなんか平和な感じがする三案もありだと、お、思いますね、はい」
平和主義者に愛される第三案。若干、「彼らの島」が意味不明ではある。
「うちはミュくん推しやから、ミュ城がええなあ」
「あー、わかるぅ、あたしもミュがいい。ミュって響きが超かわいいじゃん」
サミュエルのファンである女性たちに絶大な人気を誇るミュの響き。
(頼む、ミュだけはやめてくれ!)
女性たちの声を耳にしてしまい、天に祈りを捧げるサミュエルだった。
「チッ、俺様の案の『モフ王城、モフ都、大モフオ島』は残らなかったか!」
「残念でしたね、兄貴。アッシの『ポン城、ポコ町、タン島』もダメでしたっ」
獣人のモフオとポンポコタンは自分の案が却下されたことに、明るく落ち込んでいた。
(モフオにポンポコタン、悪いが、お前たちは島の名前になるほどの大人物ではないだろうが!)
文字が書けないものも多いので、投票は、それぞれの名称が書かれた箱に、一人ずつ小石を入れることで行われた。一応秘密選挙にするために、選考委員改め、立会人となったサミュエルやアンジェラたち5人が待つ部屋に、一人ずつ入室しては、投票することとした。
「なぜ、わざわざ一人ずつ投票させるのだ?」
「ちちちっ、ミュくん、選挙の公平性を確保するためには、秘密選挙にすることが大事なのだよ。誰かの意見に左右されず、強者が弱者に自分の意見を押し付けないためにもね」
(さすがは人間だ。芸が細かい)
これが魔王軍だと有無を言わさぬ圧力で上司の意見に従わされるところだ。要するに、サミュエルがトップだったら、誰が投票しようが、この島の名前は「たこ焼き島」になっていたということだ。
こうして公平な投票が行われ、いよいよ開票となる。
開票は数を数えながら、4人同時に小石を投げ上げることで行われた。いわゆる玉入れの数を数えるときの方法である。
第一案「デモンズキャッスル」の箱をガンテツが、第二案の「白城」はナオミが、第三案「みんなの城」はジョセフィーヌが、そして最後、「ミュ・シリーズ」の第四案はサミュエルが担当する。そして、司会はアンジェラだ。
サミュエルの箱は、これが思いのほか重い。これはかなりのピンチかもしれない。サミュエルは先んじて小石を投げ捨てたい衝動に駆られたが、自分を律して何とか耐えた。
「へーい! レディース&ジェントルマン! お待たせしました。いよいよこの城の、町の、島の名前が決まっちゃいまーす! さあ、お覚悟はよろしくってっ? いっくよー、せーの1!」
住人たちは、ノリノリな司会者・アンジェラに合わせるように声を上げて数をカウントする。それに合わせて、四人は小石を投げ上げる。
「せーの7! せーの、おっと、ちょっと待った! 第二案『白城』はここまでのようだ! ダジャレを好まないのはだれじゃー! 残念! さあ、ここからは三つ巴の戦いだ! せーの8! せーの9! せーの、おっ、ついに第三案『みんなの城』も力尽きてしまったようだ! つまり、この城はみんなのものじゃねえ、ミュくんのものだ! って思っている島民が多いってことかな? さあさあ、気を取り直して、ここからは一騎打ちだ! 軍配はどちらに上がるのか! 続いていってみよう!」
ピンチ! このままだとミュ城からのミュ町、ミュ島になる可能性が!
サミュエルの心配をよそに、アンジェラは楽しそうにカウントを続けた。
今、この魔王城の町の住人と言えるものは、おおよそ180人ぐらいいる。獣人が約80名と一番大きな勢力で、コボルトと人間がだいたい同数の約50人ずついるような状況だ。男女比は、それほどかわらないもののやや男の方が多い。自らの意思を表示できない赤ん坊にはさすがに選挙権はないが、歩いて一人で投票部屋に入れるのであれば、小さな子どもにも選挙権が与えられている。
アンジェラのカウントは、すでに70番台に突入していた。
途中まではアンジェラと共に大きな声で数を数えていた住人達も、先の読めない勝負の行方に、いつの間にか固唾を飲んで見守るようになっていた。というか、獣人やコボルトは50を超える大きな数がわからないのかもしれない。
サミュエルたちの目の前に陣取っている子どもたちは、一つカウントするごとに手をグーにして力んだ後、2つの小石が投げ上げられる様を見て、いちいちふぅっと大きくため息をつく。
(まさかこんな接戦になるとは……まずい、このままだとミュ城一直線だ! さすがにミュ城は滑稽すぎるだろう! 頼む!)
もはや隠し切れないほどの焦りの色を顔に出しながら、チラチラとガンテツの様子を伺いつつ、サミュエルは小石を投げ上げていた。とりあえず、確実に箱の中の小石は減ってきている。あちらはどうなのだ?
「せーの……78!」
カウントに合わせて掴んだ小石を空高く投げ上げた。
「せーの……」
(よっしゃーーーー!!)
ついにサミュエルが箱の中に手を入れて小石を探った。が、何もつかめなかった。一方、ガンテツは79個目の小石を手に取ると、投げ上げる準備完了といった状態のようだった。
サミュエルは箱をひっくり返して、中が空であることをアピールする。
それを目にした住人たちから「わあー」「ああー」っと歓声とため息があがった。
ついに勝負は決したのだ。




