第29話 城の名は、町の名は、島の名は
アンジェラと会って以来、瞬く間に充実していく魔王城下の店に新しい仲間。お祭り広場に立ち並ぶ屋台の数々を目にするだけで、サミュエルは幸福を味わうことができた。
好きな食べ物が好きな時に食べられて、快適な寝床があり、活気あふれた人々の営みがある日常。サミュエルは今の暮らしが大満足だった。
「余は満足じゃー!」
いつもはサミュエルに玉座に座れと促してくるアンジェラが、今日は偉そうに玉座の上でふんぞり返りながら、ストロベリーチョコクレープを食べていた。
「じゃが、まだ足りん! 何か足りんのだよ、ミュくん!」
口の横に生クリームをつけたままアンジェラが訴えかけてきた。
「何が足りないというのか? たこ焼き屋も開店して、これだけ満ち足りているというのに。……魔王城のお宝か?」
「それもそうなんだけど、皆の者! 大事なことを忘れてないかい?」
アンジェラは口の周りのクリームを舌でぺろりと舐める。
「大事なこと? 何だ?」
ドワーフを仲間にすることだろうか? それとも、チョコバナナ実物の調理だろうか? そういえば、まだおいしい卵料理の数々も味わい尽くし切れていない。タコ同様に魅力的な食材、イカもまだ味わっていない。気が付いたら、食べ物に完全に心を支配されているサミュエルだった。
「それはだね、ミュくん。城もあり、城下町も整備され、『ミュ』という立派な通貨も流通しているというのに、この町にはまだ名前がないのだよ!」
「名前?」
「そう! 偉大なる町には名前がないといけないのだよ! ということで、これからこの旧魔王城の名前と城下町の名前、島の名前を大大大募集しちゃいます! その上で、住民投票を行い、最多得票を獲得した名前を採用したいと思います」
「おおー!」
「まあ!」
「素晴らしいです!」
ということで、ここにきて急にアンジェラの提案で城と町と島の名前の募集が始まったのだった。
一般公募した城名、町名、島名だが、予想外に多くの案が出された。ということで、まずは選考委員たちの手で、いくつかの案に絞ることになった。選考委員となったのは、最初にこの島にやってきた4人――アンジェラ、ジョセフィーヌ、ガンテツ、ナオミとサミュエルであった。
「では、一つずつ確認してまいりましょう。まずはこちらの案は……サメ城、シャチ町、クジラ島」
「ふむっ。悪くはないけど、なんちゅーかパンチが足りん気がするのぢゃが。しかも、海の生き物に偏りすぎぢゃ」
(いやいや、これはないだろう……偏りすぎというか、それしかないじゃないか……どうせサム一家の中の誰かの案だろう)
「それじゃ、こっちはどうかしら? 子ウシ城、牝ウシ町、牡ウシ島。びみょーだわぁ。なんで牛ってなるものねぇ」
(こっちは、ハム一家だな。好きだな、ウシ……)
「これはまあまあかな。えっとね、暗黒城、暗闇町、暗雲島」
「いや、もっと明るいのにした方がいいと思うが……」
サミュエルは、魔王や魔族にまつわるものが黒や闇に重ねられて語られるのが実は好きじゃないことに最近気が付いたのだ。なんだか、自分が根暗な陰キャの田舎者だと陰口を言われているような気がするからだ。
「じゃあ、これはどうですか? 明るいというか、輝きに満ち溢れていますよ。シャイニングキングキャッスル、グランドプリンスタウン、ゴールデンエンペラーアイランド」
「いやいや、さすがに盛りすぎだろう……」
「こんなんもあるぞい、ミュ城、ミュ町、ミュ島。ふむ、悪くないのぉ」
「いやいやいや、絶対に紛らわしいだろう! それにここは俺の島でもなんでもない」
「まあまあ、ミュくん。ミュくんは超絶イケメンだから、この島のマスコット的存在なのだよ、ハハハッ」
「そうですね。通貨もミュなのですから。城や町の名前もミュで問題ないのでは?」
通貨がミュというだけでもすでに微妙なのに、ミュ城、ミュ町、ミュ島。それだけは絶対にやめてくれと思うサミュエル。
「えっと、これは、絶対、ミュくんが考えたでしょ! もうバレバレなんだからね!」
アンジェラがヒラヒラさせた紙には、「たこ焼き城、たこ焼き町、たこ焼き島」とあった。
「残念だけど、ミュくん、これは却下だわ。だってここの名物はたこ焼きだけじゃないもの」
「ううっ……」
アンジェラたちは次々と名前の書かれた紙を開いていった。
「プリ城、プリプリ町、プリプリプリ島」
「お城さま、町がい捜し、ガ島ショコラ」
「かっこいい城、すてきな町、ふつうな島」
「冠城、金町、宝島」
「悪魔の城、呪いの町、牢獄の島」
「白城、落町、愛島」
「みんなの城、あなたの町、彼らの島」
「漆黒の魔王の魂が宿りし城、死者たちの宴が毎夜繰り広げられし町、深淵の闇より出でし狂気の集いし島」
妙にツッコミどころ満載な案の多いこと、多いこと……。
ほかにも様々な案が寄せられたが、あまりにも個性的なネーミングセンスの持ち主たちが集まっていることだけはよくわかった。
(それに比べて、俺の「たこ焼き城」は、確かに普通すぎるな……)
サミュエルはセンスあふれるネーミングの数々を考えだした住人たちに、少し負けた気分になった。
「これが最後だね。えっと、デモンズキャッスル、ヴィランズタウン、エビルアイランド。ふむ、結構好きかも、これ」
「なかなかいいセンスですね」
「わし、結構好きぢゃな、これ」
(なるほど、ここの住人にとって、この島は、この城は、やはり魔王のいた城であり、島なのだな)
今は魔王も、多くの魔族もいないが、島の属性を表すにはわかりやすくていいかもしれない。特にこの町の象徴となっているのは、なんだかんだ言って魔王城ではあるのだから。
ということで、いよいよ住民投票が行われることになった。




