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デモンズキャッスルパークへようこそ!――たこ焼きに釣られた魔王の孫は、謎の美少女(自称)たちと街づくりに励む  作者: いか墨ドルチェ


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第3話 あっという間に戻って来てしまった魔王城

「おおおおおっっ!」


(こ、これが目玉の味だと!? 何ともトロトロで苦みもなく、旨いではないか!? しかも、この下の板も思いのほかサクサクで香ばしく、美味!)


「こ、これは、何という魔物の目玉なのだ……?」


 目玉にはこれまで興味がなかったが、この目玉であれば是非ともこの先も食べたい。おそらく巨大なモンスターだろうから少々倒すのに手がかかるかもしれないが、自分の実力を持ってすればさすがに倒せないということはないだろう。


(複雑怪奇なたこ焼きを自作するのは難しいだろうが、この目玉だったら、狩って焼くだけだろ? 俺でもいける!)


「えっ、目玉焼きのこと? これは、ニワトリだけど」

「ニワトリ……?」


(ニワトリというぐらいだから、鳥なのだろうか、相当にデカい怪鳥か……。しかも、その名は初耳だ。やはり魔王城のある島には生息していない魔物か。クッ……残念だ)


「ニワトリとやらは、どのあたりに生息しているのだ?」

「田舎の農家の納屋とかかな?」

「ノウカノナヤ、それはお前のいた町の近くか?」

「まあ、あの町の近くにもあるし、遠くにもあるし、結構どこにでもあるかな?」


(あの町の近くには、それほど強そうな魔物の気配は感じなかったがな……。デカいだけで意外と弱い魔物なのか?)


「あっ、ちなみに、これ、目玉焼きって名前だけど、ニワトリの目玉じゃないよ、卵だよ」

「はあっ!? 卵だと?」

「見た目が目玉みたいだから、目玉焼きって言うけど。オムレツ、ポーチドエッグ、キッシュ、卵料理はどれも絶品なんだなぁ、これが! もしかして、ミュくん、卵料理初体験!?」

「は、初体験だ……」

「あらまあ、わたしがミュくんの初体験二つもいただいちゃったわけですかぁ。ひひひっ。じゃあ、ミュくんのために、街に戻ったらおいしー卵料理が食べられる店に案内してあげますんで。お楽しみにっ」

「それは、実に楽しみだ……」


(たこ焼き、それから目玉焼き、卵料理の数々! ああ、俺を虜にするお前たちに早く会いたいぞ!)


 それまでくすんでくすぶっていたサミュエルの世界は、二種類の料理によってバラ色に一転した。人間の食べ物の素晴らしさが彼の魂を揺さぶったのだ。


(ああ、世界とは、かくも美しいものだったのか……!)


 魔族には、おいしい食事を食べようという発想がそもそも欠けている。卵のあの固い殻の中に、このような美味しい目玉が潜んでいようとは、名だたる魔族であっても、誰も知らないだろう。


 こうなったら一刻も早く上手い卵料理にありつきたい。サミュエルは、風まかせにするだけでなく、気合を入れてオールを漕いだ。


 小舟は、ありえないスピードで魔王城のある島へと進んでいった。


「ふわああ……ミュくん、夜になったから、わたし少し寝るね。ミュくんも寝ていいからね。お休みー」

「えっ、おい!」


 止める間もなく、自称美少女のアンジェラは、ぐーすかいびきをかきながら、よだれを垂らして寝てしまった。


(なんて、無防備な小娘なんだ……俺のこと何とも思ってないのか……いくら何でも信用しすぎだろう!?)


 だが、これはチャンスだ。この娘が寝ている間に、渦を作っている魔物とやらと話をつけて、島の近くまで行ってしまおう。


 小舟には小さな明かりが一つ灯っているだけだったが、なんせサミュエルは夜目が利く。舟に吹き付ける風を少し強くし、高速で舟を進めるのだった。


 しばらくいくと、魔王城のある島が見えてくる。舟の気配を察知したのか、渦からは腕を何本も持った巨大な海洋生物が姿を現した。


「人間よ、海の藻屑と化したくないのであれば引き返すのだ。ここは何人たりとも通しはせぬ」

「おい、俺だ。人間ではない、よく見ろ」

「あ、もしかして魔王様……ではなく、魔王様の……お孫様ですか? なぜこのようなところに??」

「そうだ、魔王の孫だ! ここを通りたいのだ。しばらくの間、大人しくしていられるか? なんだったら、祖父がお前に命じた大渦を作る任務は、今日を持って解除するから、この先は自由に過ごせ」

「えっ、いいんですか? じゃあ、はい、承知しました」

「…………ところで、お前はタコだよな?」

「あ、いえ。どちらかというとイカですかね、はい。でも、なぜ?」

「いや、イカならばいいんだ……」


 タコだったら何だったのだろうかと思いながら、渦の主は海底へと姿を消した。それに伴い、大渦も姿を消した。


「イカか……残念だな……」


(いや、待てよ。卵をあれだけおいしく調理できる人間のことだ。例えイカであっても、旨い食べ方を知っているかもしれない……。こんなことだったら、腕の一本ぐらいいただいておけばよかったか?)


 気が付いたら水平線の向こう側から少しずつ明るくなりつつあった。


「おい、アン、起きろ。島に着いたぞ」

「ふへええ、もう食べらんない……あっ、もう着いたの!? さすがはミュくん! あれ、渦の魔物はどうしたの?」

「当然、退治しておいた」

「しょえー! マジで尊敬! で、魔物の死骸は?」

「死骸は、海に沈んだ……」

「ええええええ! もったいない! イカ、超おいしいのに!」

「何だと!」

「煮ても、焼いても、揚げても最高! あの食感は他では得られないのに!」

「クッ……何ということだ!」

「まあ、残念だけど、仕方がないねぇ。それよりも、魔王城に向かいますか!」

「……ああ」


 アンジェラは立ち上がると、なぜか舟のオールに跨った。


「はい、後ろに座って」

「す、座ってと言われても……これにか?」

「それならば大丈夫! 今までミュくんよりも重そーな人も運んだことあるからさ。遠慮せずにどうぞ」


 仕方がなく、サミュエルもオールに跨った。


「よっし、いくよー! お宝探しに魔王城へレッツゴー!」


 足元でふわりと風が巻き起こり、オールごと身体が宙に浮かび上がる。


(この小娘、なかなかやるではないか)


 オールに乗った二人は切り立った崖沿いを上昇した。そして、ついに、島の東側、密林に囲まれた崖の上にそびえ立つ魔王城が姿を現した。


(長旅に出たつもりが、たった1日で戻って来てしまったのか、この城に……)


 オールに跨って空を飛んでいると、島に戻っていたワイバーンが出迎えてくれる。


「ねえ、ミュくん、竜が謎の美少女の生血を啜るために襲い掛かってきそうなんだけど、倒せる?」

「えっ?」


 ワイバーンはキーキー鳴いている。主の姿をみて、喜んでいるのだ。


(来るな来るな来るな! 戻れ戻れ戻れ!!)


 サミュエルは必死に念じた。さすがに相棒のワイバーンを倒したくはないし、かといって魔王の孫であると人間に知られたくない彼は、ワイバーンと仲良さげに戯れるわけにもいかない。


 必死の形相のサミュエルを見て、ワイバーンは何かを察したのか、キーと一鳴きするとどこかへと去っていった。


(ふぅ……あっぶねー……)


「あっ、助かったね。きっとわたしからほとばしる聖なるオーラに恐れをなして逃げたのね。さすが、天才美少女アン様!」


(いや、俺の気持ちが通じただけだから)


「あそこが入り口かな。よし、下りるよ」


 アンジェラは魔王城の正面入り口の前に下り立った。


 アンジェラは、重厚な城の扉をドンドンと叩く。


「あのー、こんにちはー? 誰かいますかー? 謎の美少女アンジェラちゃんがきましたよー? いないですよね? じゃあ、入りますねー」


(この小娘、誰かいたらどうするつもりだったんだ? もし、ここに来たのが一昨日だったら、魔王の孫である俺がいたんだぞ? 怖いもの知らずすぎるだろー!)


「カギはかかってないみたい。入れるよ。失礼しまーす」


 アンジェラは、建付けが悪く完全に締まり切っていない扉を開けるとズカズカと中に入っていった。サミュエルもその後に続いた。


 魔王城の中はシーンと静まり返っていて、物音一つしなかった。

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