第2話 お宝探しの旅へ、いざ出航――すべてはたこ焼きのために
「で、娘、お前はどこに行こうというのだ?」
こうなったら、とっとと目的地にこの小娘を連れて行ってやり、報酬の金をゲットし、たこ焼きを思う存分食べるのだ!
「たこ焼き、お気に召していただけたようで何よりです、お兄さん。まあ、そう慌てずに。まずはお互い自己紹介といこうじゃないですか。わたしは謎の美少女アンジェラ、ピッチピチの18歳でっす。一攫千金を夢見て、冒険者してます。得意な魔法は雷魔法。で、お兄さんは?」
「俺は、サミュエル」
サミュエルは困った。年齢108歳ぐらいだと思うが、そういう訳にはいかない。人間で108歳などと言ったら相当な老人だろうから。職業は、魔王の孫? いや、それは職業ではない。立場というか、身分だろう。魔法全般割といけるが、それも伝えたらまずいだろう。なんせここは人間の町だ。魔族の、しかも魔王の孫だなどと知られるわけにはいかない。たこ焼きを堪能しつくす前に、祖父のように討伐されてしまったら、元も子もないからだ。
「年齢は……アンジェラよりは確実にお兄さんだ。職業は……今はアンジェラの護衛だ。氷魔法が使える。こんなところだな」
「ほう! お兄さん、サミュエルって言うんだね。じゃあ、ミュくんだ!」
「ミュくん!?」
「ミュくんはやだった? じゃあ、ルーくんは?」
なぜ、微妙なところを切り取るのか、しかもくん付けとは……。魔王の孫の威厳も何もあったものではない。が、所詮自分は偉大だった魔王の孫に過ぎない。しかも、今は無一文で、小娘に雇われている身である。贅沢は言えない。
「お前の好きなように呼べ……」
「じゃあ、ミュくんね! わたしは謎の美少女アンでいいよ!」
(なんなんだ、先ほどから名前の前につく謎の美少女とやらは……これが噂に聞く、人間の家族の属性を表す苗字というヤツか……?)
「じゃあ、ミュくん。さっそくだけど、これから魔王城に行こうと思いまっす」
「はっ? 何だと!?」
「だから、魔王城。ミュくん、超ウルトラ級の田舎者だから知らないかなー? ここから南西に行ったところにある島にはね、約100年前まで魔王が君臨していた城があるんだよ」
「いやいやいやいや、なぜ、魔王城なんかに? 何をしに??」
「当然、お宝探しだよ! わたしは一攫千金を狙っているからねっ」
「宝……?」
魔王城に宝などない。よほどこの街の方が宝で溢れかえっているではないか! 例えば、たこ焼きとか、たこ焼きとか、たこ焼きなど。
「百年も前の話だろう? 魔王城に行ってももう宝などないと思うが……」
「えー、行ってみないとわからないじゃん。それにね、わたし、知ってるんだー。ひいおじいちゃんから聞いたから。魔王は世界中のお宝を集めて、城の宝物庫に収めていたって」
(その話ならば、俺も知っている。が、その宝は全部勇者一行が持ち去ったぞ!? もう宝物庫なんてすっからかんで、埃ぐらいしかないぞ!?)
「それに、魔王城は絶海の孤島にあるのだろう? そもそも簡単には行けないじゃないか?」
「それならば大丈夫! わたしこう見えて飛行魔法が使えるからねっ」
「いやいや、飛行魔法といってもあの島までは相当距離があるだろ? それを飛んでいくのはかなり困難だろ?」
飛行魔法自体はそれほど魔力を消費しないが、何日も飛び続けることは流石に想定されていない。人間の魔法使い程度の魔力量では、島にたどり着く前に力尽きて海に落下するのがオチだ。
「それならば大丈夫! 近くまで舟で行くから」
「いやいや、島の周りには大渦があって舟では近づけないという話だが?」
「それならば大丈夫! あの渦の正体は、魔物なんだよね。だから、ミュくんがそいつをやっつけちゃえば渦も消えるからさ。もしかしてさ、ミュくん、自信ない? やっぱり海の魔物なんてすごく怖いよね……」
「は? なめるなよ、小娘。海の魔物ごとき、この俺の相手ではない!」
「よかった! さすがはミュくん、わたしが見込んだ男なだけあるねっ。あ、ちなみにわたしは小娘じゃなくて謎の美少女アンね」
(しまった! この小娘のペースにまんまと乗せられてしまったではないか! まあ、いい、一度魔王城に行って目ぼしいものは何もないと知れば、この小娘も気が済むだろう)
その後で報酬の金をもらい、好きなだけたこ焼きを食べれば済む話ではないか。
こうしてサミュエルとアンジェラによる、魔王城へのお宝探しの旅が始まった。
アンジェラが用意していた舟は、小さな帆のついた小舟だった。
(おいおい、こんな小舟で外洋を渡ろうというのか? この小娘、イカレているんじゃないか!?)
ただ、舟が小さかろうが脆かろうが、この小娘は守らねばならない。たこ焼きのために。
「じゃあ、ミュくん、行くよ。はい、オール。がんばって漕いでね」
「えっ、俺が?」
「当然だよー。いい風でも吹かない限り、舟は思う方向に進まないからね。がんばってオールで漕ぐしかないんだよ。躍動する全身の筋肉、ほとばしる汗が照り付ける太陽にまぶしく輝く……。ああ! 恋人のためにオールを漕ぐ男性って、超そそるよねぇ」
(誰が恋人だ……)
普通に人力で漕いだとして、魔王城のある島まで3、4日ほどと言ったところか。それを今、出会ったばかりの男にさせようとするとは。しかも、その小舟に自分も同乗するのだ。そんな無謀な旅を無計画に始めるとは、やはり、この小娘正気ではない。
サミュエルは小舟に乗り込むと、密かに風魔法をかけた。一応魔王の孫である彼にとってこの程度の魔法であれば詠唱も不要、念じるだけで使えてしまうのだ。
「あ、ラッキーだね! 急にいい風が吹いてきたよー! これもすべてわたしの運の良さのお陰かなぁ。ミュくん、感謝してよねぇ」
(いやいや、確実に俺の実力のお陰だ。そこのところ勘違いするな、小娘よ)
これで、必死になってオールを漕がなくても、翌日の夕刻までには島までたどり着くだろう。
「はい、ミュくん、たこ焼き。めっちゃ気に入ってたみたいだからさ。これ、夜ご飯ね」
「もらっていいのか?」
「いいよ、わたしはパンがあるから」
「パン?」
「そう、これがパン。目玉焼きトーストだよ! せっかくだから、こっちも食べてみる?」
「目玉だと!」
見ると、アンジェラが差し出したパンなる四角い板には黄色い瞳の妙に大きな目玉が乗っていた。
サミュエルもネズミやコウモリの目玉は食べてしまったことがある。が、正直、二度と食べたいとは思えなかった。さすがのサミュエルも、動物を食べる際には、目玉を取り除くようになったぐらいだ。
(人間はもっと平和な生き物だと思っていたがどうやら違っていたようだ……。これは、一体何という魔獣の目玉だろうか……随分と平べったいから魚類だろうか? それに、でかくてグロテスクだ……。しかし、こんなものが旨いのだろうか……?)
サミュエルは渡された目玉をまじまじとさまざまな角度から眺めてみた。そして、恐る恐る、目玉焼きトーストを口に運んだ。




