第27話 魔王の孫の口説きテク レベル8――たこ焼き屋の女将さんを口説け
「ミュくん、たこ焼き屋の女将さんを口説くときに、あたしはきっと役に立つわ。なんせあたしは食のエキスパートよ」
「そういうことやったら、うちかてお役に立てるわな。なんせうちは海産物には詳しいもんでな!」
「ヒヒヒッ、私は、たこ焼き屋に『来ないと8日後にたこ焼きの中のタコがイカに変わる呪いをかけますが……』と脅すことならば出来ますケド……」
サミュエルにお姫様抱っこしてもらったジョセフィーヌ、おかきさん、ヴィクトリアの三人が協力を申し出てくれた。
最初の二人はともかく、とりあえず、不細工魔女のヴィクトリアにはご遠慮願うことにする。たこ焼きの中のタコがイカに変わるとどうなるのかはわからないが、愛するたこ焼きを守るためには、彼女に呪いをかけさせるわけにはいかない。
たこ焼きのためにいざ、出陣だ。たこ焼きをゲットすれば、芋ずる式に「チョコバナナ」やらなにやらまで手に入れることができるのだ。サミュエルは再度、自らの気持ちを引き締めていた。
サミュエルたちはジャンボイーグルに乗って、岸壁を超える。すると、そこには小さな船着き場が整備されていて、アンジェラが乗っていたいた小舟よりもかなり立派な帆船が停泊していた。サミュエルたちがドワーフを探しに南に行っている間に誰かがここを整備したのだろう。
「船やったら、海の男のわしに任せちょけっ!」
おかきさんの旦那にして、三兄弟の父でもある海蔵がすでに船で待機していた。これで、サミュエルが必死にオールを漕ぐ必要がなくなった。
海蔵が操る帆船は、想像を遥かに超える猛スピードで進んだ。よく見ると、船の下に大型の魚がいるようだ。その魚たちが泳ぎながら、帆船を運んでくれているのだ。この船があれば、人間の住む町と魔王城のある島との間を簡単に行き来ができるようになるではないか。
船に乗っている間、ジョセフィーヌとおかきさんがアドバイスをくれる。
「ミュくん、女性を口説き落とす際には最初が肝心よ。まずはミュくんのキラキラ王子様スマイルで白い歯を見せて自然な笑みを見せるの! できれば髪をかき上げながら、上目遣いにね」
「なるほど……」
「ちょっと練習であたしに向かってやってみて!」
「えっ、今ここでか?」
「そうよ、早くぅ。ぶっつけ本番で失敗したら大変でしょ?」
「……そう言われてみるとそうだな……こ、こんな感じか?」
サミュエルは上目遣いで長い髪をかき上げながら、軽く微笑んだ。
「キャアアーー!!! 完璧よ! 完璧だわ! 王子様そのものよっっ! いやーーんっ!」
「あ、あまり騒ぐな……は、恥ずかしいではないか……」
初心なサミュエルは頬を赤く染めながら照れていた。
ジョセフィーヌのそれは、アドバイスでありながらも、ただ自分がされたかったことを要求しただけだった。もっとも、魔王の孫のくせに人のいいサミュエルはその事にはまるで気が付いていない。
「ほな、次はうちやな。ミュくん、女はなぁエエ男との触れ合いに弱いんよぉ。せやから、『美しいレディ』ゆうて、うちの手をとってやな、ここにちゅっとするんやよ」
「えっ! ちゅっ!?」
「ずるいわ、おかきちゃんっ」
「あんたかて、ミュくんにキラキラ笑顔でみつめられたやろ! ほな、練習してみよかー」
「えっ……」
「たこ焼きのためやよ……愛しとるんやろ? たこ焼きを」
ジョセフィーヌよりもおかきさんのほうが人生経験豊富なだけに昔取った杵柄が生きているようだ。サミュエルに対する要求も容赦がない。
たこ焼きのため、そう言われるとやらないわけにはいかない。サミュエルは意を決した。
「美しいレディ……」
サミュエルはおかきさんを見つめると、優しく手を取り口元まで持っていくと、手の甲にちゅっとした。
「キャアアアアアアっっっ! うちもう死んでもええわーーー!」
「死ぬなー、おかきちゃーーん! カムバーーック」
舵を握る海蔵は複雑な気分だった。ばあさんとはいえ、愛する妻がうら若きイケメンに手の甲にキスをされてメロメロになっている様に……。
「じゃあ、次はあたしの番ね。いい、ミュくん、ここが一番肝心な、いわば口説き落とす際の核よ。気合入れていきましょうっ! そうねぇ、セリフは……『美しいレディ。ああ、俺はあなたの作るたこ焼きの虜なんだ。あなたなしでは生きてはいけない! あなたがほしい! どうか俺のものになってくれ!』と情熱のままに叫んじゃって! そして、熱い抱擁をするのよぉーーー!」
「いや待て、その、セリフは割とわかる。が、抱擁は本当にいるのか?」
「いるに決まっているでしょー!」
「ずるいわー、ジョディちゃん! うちかてミュくんに抱きしめられたいわー」
「おかきちゃんはさっきちゅってしてもらったでしょ! 次はあたしの番だからっ」
さすがにここまでくると、これは本当にたこ焼き屋の女将さんを落とすための訓練なのか、それとも女装男とおばあちゃんが好き放題イケメンを弄んでいるだけなのかだんだんとわからなくなってきていた。
しかも、そこまで具体的なセリフを教えてくれるとなると、今までの訓練はなんだったのだろうか、最初からそれを教えてくれればよかったのではないかとサミュエルには新たな疑問がわいていた。
女性たち――女装男とおばあちゃんがギャーギャー騒いでいると、船は町の近くにある岬についた。海蔵を船に残して、三人は陸に下り立った。
サミュエルは一目散にたこ焼き屋を目指した。
今日もたこ焼き屋は、なんとも言えないよい香りを漂わせている。まるでサミュエルを誘惑するために手招きでもしているかのようだ。
次はいよいよ本番だ。サミュエル人生初にして一世一代の、いわばプロポーズチャレンジである。
「ミュくん、頑張ってっ」
「応援しとるよー」
二人に背中を押され、サミュエルはたこ焼き屋の前までゆっくりと歩み寄った。たこ焼き屋の女将さんがこちらに気が付く。サミュエルは教えられた通り、髪をかき上げながら女将さんに微笑みかけた。
「あ、あんた……」
以前彼がここに来たときは、ボロを纏っていたというのに、今日はどうだろうか。逞しい上腕二頭筋に、襟の間からチラチラ見える分厚い胸筋。上等なセクシー衣装をまとったサミュエルはもう「金のない男」ではない。女将さんは、明らかに頬を赤く染めていた。
「美しいレディ」
教えられたとおりにサミュエルは話しかけ、たこ焼き屋の女将さんの手を取った。
「あなたのこの神のような手が作るたこ焼き、俺はその虜なんだ! あなたの作るたこ焼きのない人生なんて考えられない! どうか、この先、この俺のためにこの手でたこ焼きを作り続けてくれないだろうか?」
そして、これまた教えられた通り、女将さんの手の甲にちゅっとする。
「ひぃぃぃぃ! あんた、こんな、おお、おばさん相手に何するんだい! 惚れてまうやろーーっ!」
「ああ、そうなんだ。俺はあなたを口説きに来たのだから、惚れてもらえると嬉しい」
たこ焼き屋の女将さんは、ゆでたタコもびっくりするぐらい真っ赤になっていた。




