第26話 魔王の孫の口説きテク レベル5
「ところで、この空き地はどうするつもりなのだ?」
城下にはたくさんの店ができたというのに、城からみて真正面で、城下町のほぼ中央に位置する広場が妙に広くガランとしている。素人のサミュエルでさえも、この場所が立地としては一等地であることはわかるのに、そこにレストランや店を作らなかったのはなぜだろうかと疑問に思ったのだ。
「ここはお祭り広場ぢゃよ!」
ガンテツが説明をしてくれる。
「お祭り広場?」
また、いまいちわからない言葉が出てくる。祭りは祝典、あるいは大規模な宴会のようなものであることは知っているが、そんな行事を開催する予定があるのだろうか?
「そうぢゃよ、普段は市民の憩いの場で、ここには屋台が並ぶ予定ぢゃ! ミュくん、とっととたこ焼き屋の女将さんを口説いてくるのぢゃ!」
「そうよ、屋台が揃ってきたら、ここにチョコバナナ屋だって作れるわよ」
「個人的には、わたくしは団子屋さんもオープンさせたいですね」
「はい、はーい、わたしはケバブ希望!」
「うちはクレープ屋さんを作ってほしいわ」
なるほど。そう言われてみると、人間の町にも似たような場所があって、そこにはサミュエルお気に入りのたこ焼き屋やジュースバーのほか、多くの簡易的な店が並んでいたことが思い出された。
(あれが、ここにできるのか!)
しかも、たこ焼きに加えて、今だ味わっていない伝説のチョコバナナもここに登場するとは! さらに、聞いたこともない食べ物の名前がわんさか登場する。
お祭り広場とは、要するに魅惑の旨い物広場ではないか。
もう、夢の様だった。
こうなったら何が何でもたこ焼き屋の女将さんを口説き落とすしかない!
「よっし! そうなったら、明日から口説きテクの練習、再開だよー!」
「いいわね、いいわね、燃えるわ~!」
「おう! よろしく頼むぞ!」
今度こそ、口説きテクを磨き上げ、合格点を取るのだ!
そう心に固く誓うサミュエルだった。
魔王城自体も整備が進められていた。シンプルだったサミュエルの部屋はものすごく魔王の部屋っぽくなったし、玉座の間もそれっぽいデモーニッシュな雰囲気溢れる空間となっていた。
そして、城内には浴場が整備されていた。さすがにお湯は温泉ではなく、ただのお湯だったが、それでも風呂というのは実に気持ちの良いものだと思い知らされた。
アンジェラが「お風呂に入りたい」と暴れる気持ちも、今ならばよくわかる。
サミュエルは、風呂にのんびりとつかり、久しぶりに文化的な食事を口にして、フカフカのベッドで眠った。
朝、サミュエルはナオミが用意した新・衣装に袖を通した。ナオミが作る衣装は、なぜかダークな雰囲気で、かつ露出が多い。今度の衣装はなぜか腹筋が丸見えになるデザインだった。
「うひょおおおおお! これが伝説のシックスパックッッ!」
「ナオミーン、いいお仕事しちゃっているじゃない! ス・テ・キよぉ!」
「ふふふっ、これぞ伝説のお針子の仕事ですよ! ぎゃーはははっ!」
女子ども&ジョセフィーヌが妙にうるさい。筋肉だったら、ガンテツだっていつも晒しているだろうがと思う。
サミュエルはもう一度口説きテクの極意を復習する。相手が褒められたいと思っていることを大げさに褒める。一途を装い、情熱的でなければならない。そして、女性はすべからくお姫様のように扱う。壁ドンやお姫様抱っこも効果的。こんなところだろうか。
そういえば、祖父の配下でもあったダークエルフの長クロードが、女性を見るたびに「そこのかわいこちゃん、悪い男のこの俺とダークでソウルフルな夜を過ごさないかい」と声をかけまくっていたことを思い出す。
確かにあの男は、女性を口説く際に壁ドンをしていた気もする。
(適当な場所に壁がない場合、どうするのだろうか……?)
基本、この口説きテクレッスンの際、サミュエルは玉座に座っている。そしてその目の前に口説かれたい人がやってくるのだが、その人の背後はもちろんのこと、周囲3m以内に壁がない。たこ焼き屋も屋台のため、あの女将さんの背後には壁がない。となると、壁ドンはかなり限られたシチュエーションでしか使えないテクニックであることがわかる。
それに比べてお姫様だっこはずっとやりやすい。実際にやるのかどうかは別問題ではあるが。
この日は、なんとトムたち三兄弟の母であるおかきさん(御年約70歳と推定)が一番最初に登場した。
さすがに異性として口説くには少し年齢が高すぎるのではないかと一言言いたくなったが、彼女のような人生の酸いも甘いも知った熟女を落としてこその口説きテクレッスンだと思い、サミュエルは黙って口説くことにした。
彼女は温厚だが、三兄弟一家の支柱ということもあり、年齢を感じさせない元気なおばあちゃんだった。知識・経験が豊富で、冷静沈着でありつつもチャーミングなところもある。容姿に関しては、おばあちゃんなので、以下略としか言いようがないのだが……。
「おかきさん、あなたは……」
(子ザルのようなかわいらしい顔立ちだ……じゃなくて! カメのように長生きしてください……じゃなくて! クルミのように味わい深い……じゃなくて!!)
どうしてもおばあちゃんの容姿を女性が喜びそうな言葉で褒めるすべが思い浮かばない。
こうなったら、最後の手段だ。サミュエルはおかきさんを抱き上げた。
「キャーーー!」
「おひめさまだっっこおおお!」
「うらやましすぎるぅぅぅ!」
女性たちの悲鳴が聞こえる。
「あらまあ、ミュくんったら本当にええ男やなあ。うちほれぼれしてまうわー! これはもう60点やわ!」
なんと、言葉は不要だった。イケメンのお姫様だっこの力で老婆を陥落してしまった。
おかきさんはサミュエルの首に抱き着き、お姫様抱っこを存分に満喫する。
「はあ、イケメンはやっぱええわ~、癒されるわ~~。うち70歳は若返ったわ~~~」
おかきさん、70歳も若返ると限りなく赤ん坊に近づいてしまうと思うのですが……。
「ずるいわ! おかきさん、あたしのミュくんを独り占めしないでぇ!」
「そんなことを言ったら、わたくしだってお姫様抱っこ希望です! ああ、でもお姫様抱っこされるのだったら、腹筋ではなく胸筋丸見え衣装にしたかった! 直接お触りしたかった!」
「おらだって、ミュくんのような超絶イケメンにお姫様だっこされてえだよ!」
この後、女性陣は、残り2枠のお姫様抱っこの権利を巡り血で血を洗う死闘――決闘という名のジャンケン――を繰り広げた。その結果、見事勝利を収めたのが、お姉キャラのジョセフィーヌと不細工陰キャ魔女のヴィクトリアだった。
「神様ああああ! あたしもう、死んでもいいわ! まだまだ死にたくはないけどおおお!」
なぜ、男を……そんな疑問を抱きながらも、サミュエルは大人しくジョセフィーヌをお姫様抱っこした。
「オーーメン! ラーーメン! イケメーーーン!」
陰キャのはずのヴィクトリアも大興奮で大絶叫する。
こうして無事に3人の女性(?)を口説いてはいないが、落とすことに成功したサミュエルは、いよいよたこ焼き屋の女将さんを口説くために人間の町を再び目指すのだった。




