第24話 新作グミのお味と効能
(……それにしてもよく寝るヤツらだ)
サミュエルたちが避難していた洞窟は、それほど深くないため、時折、外の風や雨が吹き込んでくる。そんな状況にもかかわらず、アンジェラたちは爆睡していた。コボルトや獣人は常に自然に晒されている環境の為、慣れているのかもしれないが、仮にもアンジェラは自称とはいえ美少女なのに、男たちに混ざってこうも無防備に寝ていていいのだろうか。
そんなことを考えながら、時が流れ、嵐が止むのをひたすら待った。
気が付くと、外に生き物の足音がする。正確には足音が聞こえるというよりは、地鳴りのような振動がするのだ。もしかすると、その生き物たちも、嵐を避けるためにこの洞窟に向かっているのかもしれない。この洞窟でかち合ってしまい、ここで争いが生じたら少々厄介である。
サミュエルは仲間を起こすべきか少し迷うが、ひとまず状況を確認するために一人外に向かった。
足音の正体は、”暴走ヤク”の名で知られるウシ型のモンスターだ。しかも、あれだけ振動がするだけあって、ざっと見て30頭近くいる。それが明らかにこちらに向かって岩場を駆けのぼってきているのだ。一頭一頭はそれほど強くはないが、さすがに数が多いし、仲間を守りながら戦うとなると少々分が悪い。
(あいつらがここに来る前に、こっちから打って出るか)
サミュエルが今いる岩場から降りようとすると、背後から声がする。
「お宝発見!」
いつの間に起きたのか、アンジェラたち全員がすでに後ろにいた。
(えっ……まるで気配がなかったのだが……)
前方に気を取られていたし、雨音が強く音が響かないとはいえ、魔王の孫が簡単に背後をとられるとは……しかも、中にはそれほど戦闘に長けているわけではないコボルトもいるのだ。いくらなんでも不覚すぎる!
(しかも、お宝だと?)
「一体、何がお宝なんだ?」
「あの暴走ヤクたちですよー」
「んだべんだべ!」
「おいしく食べられるということか?」
「ミュくんは、マジで食べ物のことしか考えてないねぇ。この食いしん坊さんめっ」
「……悪かったな」
「はい、拗ねない拗ねない。そんなミュくんもかわゆいぞ」
(美的感覚のおかしいお前に言われても全くうれしくないのだが……)
「とにかく、無駄口を叩いている場合ではないな。あいつらをどうすればいい?」
「ま、とにかく食べられるだけじゃなくていろいろ使い道があるってこと。仲間にできないかねぇ?」
「全部生け捕りにするのは相当難しいぞ」
「大丈夫だべさ、おいらにまかせるだよ」
「お、ベムの兄貴何するつもりだよ、俺に手伝えることはあるか?」
「もちろん、あるだよ。ミュくん、アン、ポンポコタン、セボも手伝ってくれだ」
30頭近い暴走ヤクを一気に生け捕りにする方法などあるのだろうか。特に目の前に迫りつつある暴走ヤクはその名の通り、暴走中なのだ。
「んじゃ、作戦を伝えるだ。まず、おいらたちはなるべくあいつらの近くまで行くだよ。したっけ、次にこのグミを食べ、暴走ヤクに向かって『おめえたち、止まれ』と叫べばいいだよ」
「それだけか? 本当にそんなであいつらは止まるのか? というかこのグミは」
「はい、ミュくん、無駄話は後でね! 行くよ、皆!」
またしても怪しげな動物グミを渡される。サミュエルは、行くよと言うだけ言って、先に行ってしまったアンたちを追いかけた。
暴走ヤクに近づくと、さすがに向こうがこちらに気が付いたようで、進路を変えてこちらに向かって暴走突撃をしてくる。
「今だべ、グミを食べるだ!」
ベムの合図でサミュエルたちはグミを口に放り込んだ。
(ちょっ! 何だこのグミは! 普通にめちゃくちゃ旨いのだが!?)
そうだ、これは、この味は、少し前に飲んだココアのような……そして、この島にアンと来て最初に食べたバナナのような……。
「これが伝説のチョコバナナかああああ!」
思わず、サミュエルは叫んでしまった。
すると、口から白くてどこまでも長い物体が勢いよく放出される。それがクモの巣のように暴走ヤクたちに絡みつく。
「ミュくん、その調子、続けてええええ!」
そう叫ぶアンジェラの口からも糸がピューーッと出る。
「うおおお、おもしれええええ!」
今度はモフオが糸を吐き出す。
サミュエル以外の5人は、「うおおおお」とか「ぐはああああ」などと叫びながら楽しそうに糸を吐き出していた。
「ほらほら、ミュくんもおおおお」
「絶対にいやだああああ」
「ミュくん、その調子いいいい」
遊びながら叫んでいる間に、暴走ヤクたちはぐるぐる巻きになっていた。
(この小娘、自称美少女なのではなかったのか? どう見てもこれ、女を捨ててるだろう……しかし、暴走ヤクを捕えたはいいが、この先どうするつもりだ?)
それを聞きたいが、しゃべると口から糸が吐き出されてしまう。「このグミの効果はどれくらい持つのか」とか、「糸を吐き出さずに話す方法はないのか」とか、「糸を吐き出しすぎて、力尽きることはないのか」とか聞きたいことがたくさんあるというのに。
「ああああ。いいいい。うううう。ええええ。おおおお!」
アンジェラはついに遊びだした。いや、実験をし出した。
最後の叫び声の母音が何かによって、放出される糸の状態が異なるようだ。「あ」は、網の密度は低いが範囲が広い、「い」は横長だ。「う」は1本しか出ない代わりに長い。「え」は太くて短く、「お」はあに比べて小さいが、網の密度が濃い。
この法則をうまく利用すれば、状況に合わせて様々な網や紐が作れて便利だ。ただ、サミュエルとしてはどうしてもビジュアルがダメだった。ほかのものが吐き出す分には構わない。が、自分は絶対に無理。魔王の孫のプライドが邪魔をする。
「ほらほらミュくんもおおおお」
アンジェラが作り出した「お」タイプの綺麗な網がサミュエルを捕らえる。
「お前、何するんだああああ!」
サミュエルが大きな「あ」タイプの網を吐き出す。すでにこの結果を予測していたアンジェラはそれを避ける。すると、後ろにいたポンポコタンが網にからめとられる。
「ひええええ!」
不意打ちを食らったポンポコタンが悲鳴を上げると、「え」型の紐が飛び出てモフオのしっぽに絡みつく。
「うううううっ!」
モフオは「う」型の1本の紐を生みだした。
「おめえさんがた、ふざけてるのかいいいい?」
ベムは、最後にまだ登場していない「い」型を編み出すべく、あえて語尾がいで終わるようにした。
「やったー! そろったじゃん」
アンジェラが最後に一言。どうも「ん」で終われば、口を開かないからか、糸が排出されないようだ。一同は、それに気が付く。
「いかんいかん」
サミュエルも「ん」で終わるように話してみた。糸は出てこなかった。予想通りの成功だ。
「おおおおおおおっ!」
感動のあまり雄叫びを上げてしまい、結局「お」を吐き出すサミュエル。その「お」型の網は油断していたアンジェラに絡みつく。
「もう! ミュくんってばああああ!」
いつまでも無駄な糸出し合戦は続くのだった。




