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デモンズキャッスルパークへようこそ!――謎の美少女にたこ焼きで釣られた魔王の孫のトンデモない街づくり  作者: いか墨ドルチェ


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第22話 魔王の孫の口説きテク レベル3

 恋愛の女神を自称するアンジェラとジョセフィーヌに教わった口説きテク。


 極意その1


 相手が褒められたいと思っていることを見極め、それを100倍位に大げさに言葉にすること。


 そう言われてみると分かりやすい。ちょっとかわいい女の子→人間界屈指の美少女のような?


(ということは、アンジェラも、超絶美少女でありたいとは思うものの、実際のところそうでもないとわかっているということか……?)


 極意その2


 とにかく今は目の前にいる相手に全力投球をしていると思わせる。


 つまりは、たこ焼きと目玉焼きトーストを天秤にかけてはいけないのだ。たこ焼きへの愛に己の全てを注ぐ必要がある。


 極意その3


 冷静であってはいけない。


 コントロールが効くうちは、それはまだ溺愛ではない! 理性を超越したところ、アンコントロールの領域に足を踏み入れていることが重要だ。少なくともそう相手に思わせなければならない。


 この3つの極意をもとに、たこ焼き屋ゲットのために口説きテクに磨きをかけるのだ。


 玉座に堂々と腰を下ろすサミュエルの前に、最初に姿を現したのは、トムの奥方だった。


(いや、この女は既婚者、しかも子持ちだよな? 一番口説いてはいけない立場の人物ではないのか……)


 想定外の人物の登場に戸惑うサミュエルに気が付いたアンジェラがささやきかける。


「ミュくん! たこ焼き屋の女将さんは絶対に子持ちの既婚者だと思うけど!」


(なるほど……。今回の対象に最も酷似したケースということか……。よし! たこ焼きのため、やってやろうではないか!)


 農家のトム夫人。彼女を一言で言うと、おおらかで家庭的でいいお母ちゃんと言ったところだ。当然、見た目もそれを体現していて、ぽっちゃりとした体形に笑うと細くて見えなくなる目に低い鼻、そばかす顔で、いわゆる”美人”とは一線を画する牧歌的な風貌だった。


 これを100倍にする。


 のか? 一体どうやって!?


 とりあえず、トム夫人は自分が美人だと思ってはいないだろうが、いいお母ちゃんだとは思っていそうではある。


 サミュエルは考えうる限りの言葉でトム夫人を口説いた。


「トム夫人、あなたは、カピバラのように素朴で穏やかで平和を愛する、慈愛に満ちた人だ。そして、あなたは食べ物に例えるならば、そう、俺の愛するたこ焼きそのものだ。丸々とした愛らしいフォルムの中に熱く複雑な味わいと意外性のある食感を秘めている。たこ焼きは見た目こそ地味だが、あの小さな球体の中にすべてが詰まった完璧なキングオブフード! 出会った瞬間、いや味わった瞬間に俺はたこ焼きの虜になったのだ。どうかたこ焼きに心を囚われてしまったこの俺に、あなたの愛の力でたこ焼きを恵んでくれないか?」


 要約すると、たこ焼きは見た目は地味だが、とにかく意外なまでにおいしい。つまりトム夫人は美人ではないが性格は素晴らしい人間だということだ。


「22点」

「28点」

「25点」


 アンジェラ、ジョセフィーヌ、そしてトム夫人が点数をつける。ちなみに、60点以上が合格で、30点以下は赤点である。


「いやいや、もう少しは高いだろう? 厳しすぎだ!」

「はあ、ミュくん、なーんにもわかってないなぁ、女心が!」

「そうよ! カピバラや茶色系の食べ物にたとえられて嬉しい女はそれほどいないわ! もっときゃわゆい動物さんか華やかなスイーツにたとえてほしいわ、そうねぇ、例えば子猫ちゃんとかオコジョとかショートケーキとかマカロンとか」


 女性二人――正確には少女と女装男――は呆れ顔で嘆いた。これでは、彼女たちが伝授した極意が生かされていないではないかと。


(いや、だってどっからどう見ても子猫でもオコジョでもないだろう! 豚や牛に例えなかっただけ誉めてもらいたいものだ)


「んだんだ! おらもイケメンに容姿さほめられてえだよ。『ヘイ、そこのかわゆいベイベー。おらはお前に一目惚れしたっぺ! もうおらのもんになっちまえよ』って壁ドンされてゴーインに口説かれたいだよ!」


 トム夫人は細い目を命一杯見開き、丸々とした体を震わせながら真剣に抗議をした。


(いやいやいや、ベイビー、赤子って感じじゃないだろう! どっからどうみても母ちゃんそのものだろう!)


「それにミュくん、その言い方だとトム夫人よりも圧倒的にたこ焼きの方が好きじゃんかよ!」

「ううっ、それは言い訳がしがたい……」

「そうよ! たこ焼きのためにたこ焼きへの想いを秘めないと!」

「んだんだ! おらがたこ焼きだっつーならば、たこ焼きのように味わって食ってもらいてーだよ!」

「いや、それはさすがにダメだろう……」


 次に登場したのは、ハム夫人だった。やはり、既婚で子持ちであろうたこ焼き屋の女将さんを口説くことが想定されているだけあって、似たような立場の人を優先しているのだろう。


 ハム夫人は、トム夫人とは随分と雰囲気が異なっている。酪農家の妻ではあるが、狩猟家の妻でもある。牧歌的なトム夫人に比べて、随分とワイルドでパワフルだった。


 女性とは思えないほど鍛えられた逞しい肉体、だいぶシミも濃いのだがそれもわからないほどに日焼けした健康的な肌、雄々しい眉に分厚い唇、そして猛獣のような光を宿した瞳。


 ぶった切って塩振って焼く。彼女が作る料理も随分と大雑把だった。


 趣味はおそらく、弱々しい人間をより雄々しい人間に鍛え上げることだ。


 これを100倍にして褒める。


 のだが、すでにサミュエルはトム夫人で学習をしている。女性はとにかく容姿を褒められたいのだ。ハム夫人に対して、「あなたは戦士を育てるのが得意だ」と褒めても喜ばないだろう。


 しかし、この生命力あふれる夫人を食物連鎖の下層に位置する小動物に例えるのも違う気がする。


 女豹とか女狐という言葉があるくらいだ。女性をそのあたりの動物に例えるのはありなのだろう。


 彼女は、罠をしかけて狩る系の狩人ではない。どちらかというと武器を振り回して接近戦で挑むことを好むようだ。


 となると、クマとか、ライオンとか、トラあたりが想定される。


「あなたはライオンのように気高く華やかで、クマのように雄々しい体躯を持ち、トラのように眼光鋭い孤高な美しさを秘めた女性だ。霊長類最強の女子ハンターと言っても過言ではないだろう。あなたであれば、たこ焼きの材料でもあるタコも素手で倒せるに違いない!」


 サミュエルは、今度こそ割と自信があった。


「29点」

「33点」

「29点」


 ジョセフィーヌの評価が、僅差で赤点を回避したがまだ一歩及ばないらしい。


「だーかーらー、ミュくん! 女の子はねぇ、みんなお姫様なんだよっ!」

「最強のハンターもか?」

「そうだべ! それはそれ、これはこれだべ! イケメン男子には『いつも強がんじゃねぇだ、お前だって女だべ? めんこいやつめ、俺がお前を守ってやるだべさ!』って言われ、軽々とお姫様抱っこされてぇだよ!」

「な、なるほど……」


 本気で抗議するハム夫人は、サミュエルが取って食われるのではないかと心配になるぐらい恐ろしかった。


 サミュエルの、カリスマホストへの道は遠かった。

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