第20話 真のリーダーは誰だ?
「すんませんでした! 人間様を舐めていました! どうかお許しを!」
リーダーらしきオオカミ獣人の男が土下座をして頭を下げる。それに続き、他の獣人たちも「すんませんでした」と続いた。
「ヒヒヒッ、獣人ども、お前たちをどうしてくれようか。ヒヒヒッ」
アンジェラがいやらしい目つきで獣人たちを見下ろす。
「ほぅ! そのほう、なかなかに良い毛並みをしとるではないか、ヒヒヒッ」
アンジェラはオオカミ獣人の男のもふもふのしっぽを撫でまわすような目つきで見つめている。アンジェラは何をしでかすかまるで読めない女である。この後、彼の身に起こるかもしれないことを想像すると、なんだか、オオカミ獣人の男が不憫に思えてくる。
「おい、お前たち、お宝がどうとか言っていたが、先ほども言ったようにそんなものはここにはない。ないからこそ、こいつらもそれを探すべくここに滞在しているだけだ。それがわかったのであれば、とっとと自分たちの縄張りに帰るがいい」
「あんたはさっきからお宝がないというが、俺の仲間が確かに見たんだ! 証拠もある……」
「証拠だと? だったら、その証拠とやらを見せてみろ」
サミュエルに、そう促されて、オオカミ獣人の男は仲間たちと目を合わせると、軽く頷きあう。
オオカミ獣人は自らの懐に手を入れ、何かを探る。暗器に注意せねばとサミュエルは気を引き締める。
と、男は何か持った手を振り上げた。
「どうか、俺たちにもお宝を分けてください! オネシャス!」
「はあっ?」
見ると、オオカミ獣人の男は、竹の筒で作った簡易茶碗を持っていた。コボルトたちを仲間にするときにその場で作ったものだ。
「俺の仲間が、狩りの最中に、コボルトたちの森に迷い込んじまって、あんたらがお宝をいただいているところを見ちまったらしいんだ。俺らも手伝えることは何でもする! どうか頼んます!」
「「オネシャス!」」
獣人たちは一斉に頭を下げた。
(えっ、何だそういうことか……全くもって拍子抜けだ……)
獣人たちのいうお宝とは、旨い飯のことだったのだ。サミュエルはため息をつくと、トカゲ化している自分の手を見つめた。
「ここのリーダーは実は俺じゃない。仕事があるのかどうか、食料を分け与えられるのかどうかはそこの小娘に尋ねるがいい」
最もアンジェラのことだ。どうせ仲間にすると言い出すに違いないだろうが。
「ミュくん、あなたは一つ間違っている! この際だから、ここではっきりさせておきましょう」
アンジェラが妙に神妙な面持ちで告げてきた。
「えっ、何がだ?」
この城のリーダーはあなたよ、とでも言われるのだろうか。
「わたし、アンジェラは、小娘ではありません! かわゆい乙女です! そこのところ、お間違いなく!」
めっちゃどうでもいいことだった。こいつは徹底して場の空気が読めない女だった……。
「オオカミくん、話はわかりました。先ほどご紹介にあずかりました、わたしアンジェラが、この城のリーダーでございます。で、お宝、つまりはおいしいご飯を分けろということですよね?」
「お、おう、そうだ。俺らにできることなら、なんでもすっからよ、旨い飯を分けてくれねえだろうか?」
「カーーーツッッ!」
アンジェラが急に大声で叫んだので、獣人たちだけでなくサミュエルやコボルトたちも驚き、戸惑った。
「お前たち、本当に何でもする覚悟はあるのかーーー!」
「お、おう、旨い飯の為だったら、戦でも何でもしてやるぜ……!」
(一体何を要求するつもりなのだろうか、このこむす……かわ……娘は。そんなに獣人たちが気に入らないのだろうか?)
「よろしい。では、お前たちの覚悟に免じて、仲間にしてやろうではないかっ!」
「お、おう、ありがてぇ」
コボルトの時とは随分と違うアンジェラの態度に、サミュエルはかなり戸惑っていた。むしろ、自分たちに挑みかかってきた獣人たちの力を重く見て、舐められないように気合を入れて話しているのだろうか。
「では、早速最初の命令を伝える!」
「おう! 何でも言ってくれ、大将!」
「そのモフモフのしっぽを我々に触らせなさい!」
「はっ?」
アンジェラは了承を取る前に、もうオオカミ獣人の男のしっぽに戯れだした。
「ひゃっほーい、モッフモフじゃーん! ねえねえ、皆も触ってみなよー。超モフモフだから。ほらほらミュくんも遠慮せず!」
「い、いや、俺はいい……」
「いやっほほのほーい! わしもモフモフしちゃうもんねぇ」
「おいらも、おいらも! なんともいい毛並みだべさー! うっとりしちまうだよー」
オオカミ獣人の男はあっけにとられ、ただ立ち尽くすことしかできなかった。
「なんというか、こんな仲間ですまない……」
「い、いや、いいっすよ、兄貴……。何でもすると言っちまったのは俺なんで……」
サミュエルは、もうアンジェラの真面目モードには決して騙されるまいと固く誓うのだった。
こうして、獣人たちが魔王城の新たな仲間に加わった。その数総勢約80人。オオカミ獣人やチーター獣人などの戦闘要員だけでなく、変身が得意なタヌキ獣人や、パワーのあるゴリラ獣人から、それこそモフモフのヒツジ獣人なども仲間になった。
「うんんめえええええ! なんじゃこりゃああああ! 人間さまさまじゃねえかよ! なあ兄弟」
「うおおおお! 兄貴、マジで旨いっす! 生きててよかったあああ」
獣人たちは、出されたクリームシチューとクロワッサンサンドに感動しきりだった。
「ところで、モフモフオオカミくん、君の名は?」
「あ、俺っすか? 俺らに名前なんてないっすよ、な、兄弟たち」
「おう、そんな高級なもんは俺らにはねえっす」
「ふむ。では、この城のリーダーにして偉大なる指導者アンジェラさまが、名を授けて進ぜよう」
(なんで、コイツこんなに偉そうなんだ……)
「じゃあ、君の名は、モフオだ!」
「おお! 俺の名は、モフオかー! かっけー!」
しっぽがモフモフだからモフオ――などという超どうでもよさそうな適当すぎる名前に歓喜するモフオ。
「大将! 俺にもオナシャス!」
「よし、このアンジェラ様に任せなさい! 君はトラさんかな?」
「いえ、先祖はチーターっす」
「よし、では、君の名はニャオンだ!」
「おおお! まじやっべー! 大将! 俺ニャオンは、一生あんたについて行くっす!」
こんな感じで、アンジェラは獣人たちに次々と適当な名前を付けていった。キツネ獣人にコンコン吉、タヌキ獣人にポンポコリンなどめちゃくちゃ適当な名前なのに、彼・彼女たちは信じられないぐらい喜んでいた。
思いがけずまた仲間が増えることになった。獣人たちは、コボルトに比べてそれぞれが祖としている動物の力を引き継いでいる分、能力が高い。アンジェラにもよくなついているので、あらゆる場面で役に立ってくれるだろう。
ほんの少し前までは淋しかった魔王城が、今はもうその面影がないぐらい賑やかな場所と化していた。




