第19話 激闘の末に
群れの先頭にいたリーダーらしき男。耳と尾を見るに、オオカミ獣人のようだ。銀色に冷たく輝く瞳でこちらを見ながら、彼は一歩前にでる。
「俺らはお宝をいただきに来た! てめえらこそ、命が惜しけりゃとっとと出しな!」
(お宝だと!? どいつもこいつも、ここには魔王が集めた宝なんてすでにないというのに……)
それに獣人たちは今までこの島にいたのに、なぜ今更、魔王城のお宝を奪いに来たのだろうか?
「残念ながら、お前たちの求めている宝はこの城にはない! 立ち去れ!」
「ヒューヒュー、ミュくん、カッコいいよ! 続けて続けて!」
アンジェラの、緊張感ある会話をへし折るような合いの手はずっと続くのだろうか……。
「嘘を付くな! 知ってるんだぞ、俺らは! 獣人の嗅覚をなめんなよ、人間ども。てめえら、やっちまえ!」
「おうよ! やっってやるぜ!」
残念ながら、獣人たちは、全く聞く耳を持たないようだ。リーダーと思しき男は、仲間たちに人間たちを攻撃するように命じた。ない宝のせいで、人間たちと町づくりをすることになり、今度はそれを巡って百年近く交流のなかった獣人たちと争いになり、無駄な血を流すことになるとは。
「そちらがその気ならば、迎え撃つのみ!」
サミュエルは腰の剣を抜き、構えた。
「よっし、みんな! こっちも見せつけちゃうよ! 人間&コボルトの驚くべきパワーを! さ、フォーメーションBFMを展開!」
「おおー!」
いざ、両軍の激突というときになって、アンジェラにリーダーを乗っ取られるサミュエル。
しかも、フォーメーションBFMとはなんぞや? 自分一人だけついて行けてないことに、少しだけ複雑な気分だった。
「コウモリ部隊はおいらにつづけだべさ! 必殺、チェリーシードボンバーだべさ!」
「ラジャー!」
ハムに促されてコウモリ部隊は持参していた小さなサクランボをいくつか口に含むと、腕を振り上げた。するとそこには羽というよりはムササビの被膜のようなものが現れる。彼らが腕をパタパタさせると、身体が上空へと舞い上がった。そして、先ほど口に含んだ実をむしゃむしゃと食べては、中の種を獣人たちに向けて吐きつけた。
「いてっ」
ハムの攻撃!
ハムは口からサクランボの種を吐き出した!
サクランボの種が獣人Cに命中した!
獣人Cは、1のダメージを受けた!
獣人Cは、強烈な不快感を覚えた!
ハムたちコウモリ部隊のチェリーシードボンバーの攻撃力は必殺という割には大したことはなかったが、それでも上空からいきなり飛んでくる小さな種が顔にぶつかるたびに、獣人たちは混乱し、苛立ちを見せる。物理的なダメージというよりは、精神的なダメージを相手に与える攻撃なのだ。
ハムたちは種がなくなると再びチェリーを食べに戻り、空中を飛びながら種飛ばしをすることを繰り返した。地上に釘付けになっている獣人たちは、彼らのチェリーシードボンバーに対して、何ら有効な策を取ることができなかった。
「よっし、次はわたしたちの番だよー! 食らえ、必殺、スーパーホップステップジャンプキック!」
「アイアイサー!」
お次はアンジェラたちカエル部隊の登場だ。
種飛ばし攻撃ですでにかなり混乱している獣人たちの中に、飛び跳ねながら乱入しては、予想外のところから飛び蹴りを食らわせる。そして、また飛び上がると別の獣人の上に着地する。
アンジェラの攻撃!
アンジェラは空高く飛び上がった!
アンジェラのキックが獣人Fに命中した!
獣人Fは、5のダメージを受けた!
ついでに獣人Fは、目が回って頭が混乱した!
こちらも攻撃力自体は大したことがないが、攻撃しようとすると対象が飛び跳ねて消え、上からのしかかられるものだから、獣人たちはなすすべもなく、さらに混乱が広がった。
「うおおおお! マッチョッチョ、ムキムキ隊出動ぢゃあああ! 100万トンバーベルぶん回し突撃ぢゃああああ!!」
「エイエイオー!!」
最後はガンテツたちマッチョ部隊が100万トンバーベルではなく、太い丸太を肩に担いで獣人たちの中に突撃していった。
上空から飛んでくる種や、頭上に飛び降りてくるアンジェラたちに気を取られていた獣人たちに、今度は横からの攻撃が襲い掛かる。
「ぐおっ」
「ぎょへっ」
ガンテツの攻撃!
ガンテツの振り回したバーベルが獣人Lに命中した!
獣人Fは100万のダメージを受けた!
獣人Fは気を失ってひっくり返った!
さすがに100万は言いすぎだが、ガンテツたちの丸太ぶん回し攻撃をモロに食らった獣人たちはほぼ一発でKOされていた。もはや、ガンテツたち以外の戦闘員はいらないんじゃないかというぐらい、彼らは強かった。
「さあ、お待ちかね! 最後、ミュくんの番だよ! アルティメットスキル、ベタベタウォールクライミングキラーアタックを見せちゃれ!」
「えっ……」
ガンテツたちによって叩き潰された獣人たちで、まともに立っているものはほとんどいなかった。
(この状況下で一体何をしろというのだろうか……? 「見よ! これぞアルティメットスキル、ベタベタウォールクライミングキラーアタックだ!」とでも言ってその辺の壁を這えばいいのだろうか……? 何の攻撃にもなっていないのだが……)
アンジェラはいつになく真剣な眼差しでこちらを見ると、ゆっくりと頷く。
(マジで何をすればいいのかわからんのだがー!)
「み、見よ! アルティメットスキル、ベタベタウォールクライミング、キ、キラーアタックを!」
サミュエルは手にしていた剣を収めると、その辺の壁に張り付くと壁を這ってみせた。
サミュエルの攻撃!
サミュエルは壁に張り付いた!
しかし、何も起こらなかった!
「な、なんだ、ありゃ……」
まだ立っていた獣人も、地面に転がっている獣人も、味方でさえも、明らかに白い目でこちらを見ている。と思ったら、彼らは一斉に大笑いしだした。
「うははははっ、ウケんなー、あいつ、何の攻撃にもなってねえじゃんかよ!」
「あははははっ、ミュくんってば、お笑いの才能ありすぎなんとちゃう!?」
(いやいや、アン、何を笑っている! お前がやれと言ったんだろうが!)
殺伐とした戦場の空気が一気に和む。
サミュエルの攻撃!
サミュエルは壁を這いまわった!
獣人たちとアンジェラたちは笑い転げて、戦闘不能となった!
「ミュくん、最高だよ! おかげで世界が平和になった! ミュくん、最強説!」
褒められても全くうれしくなかったが、死人が出ることなく、獣人たちを制圧できたのは上々だろうと思うほかなかった。
こうして激戦(?)の末、獣人たちは人間&コボルト連合軍に敗れ、その軍門に下ったのだった。




