第18話 敵襲
魔女たちの作った薬の力もあって、探索の方も順調に進めることができた。当初30人ほどだったコボルトの集落も、別の小集落を2つ吸収し、約60人と倍にまで増えていた。人数が増えると人手が増えて、更に作業がはかどる。
サミュエルたちは、新たに仲間になったコボルトたちと共に洞窟をまた2つ発見した。魔王の残したお宝自体は見つからなかったものの、どちらも貴重な鉱物が採掘可能な洞窟だった。
「おおおお! 確かにお宝発見ですなぁ! ただ……」
「ただ、何だ?」
「今のままだとお宝としての価値が十分じゃないし、そもそも簡単に持って帰れないし!」
「まあ、それもそうか……」
「南にある高山地帯にはドワーフが住むという言い伝えがあるのだけど、ミュくん知ってる?」
「聞いたことがあるようなないような……」
そう言う話を聞いたことはある。が、ドワーフはそもそも魔族ではないので、交流はなかった。本当にいるのかどうかも実際のところわからない。ただ、今自分が腰に帯びている剣は、ドワーフの名匠の作だとサダムが言っていた気がする。彼らの採掘、金属加工技術が優れていることは、さすがのサミュエルもよく知っていた。
「ということは、次は南に行くことになるのだな……」
「おっ、さすがはミュくん! 話しが早い!」
やれやれと言った様子でサミュエルはため息をついた。だが、その実、面倒だとか大変だといった負の感情はあまりなかった。つかみどころのない人間たちと行動し、今まで食べたこともないようなものの味を知り、人間の文化や制度を学び、暮らしを向上させていく。その傍らで未知の世界へと足を踏み入れて、冒険に興じる。そんな今の生活に、やりがいのようなものさえ感じていた。
あるはずのないお宝が、万が一にも見つかってしまったら、あるいは、一攫千金がなった暁には、この人間たちはこの地を去ってしまうのだろうか。サミュエルにとっては、彼らとの生活が、すでに宝のように思えていた。
さあ、今度は北の山岳地帯にドワーフを探しに行こうと念入りな準備をしていると、けたたましい鐘の音が鳴り響いた。この鐘は魔王城近辺に何か異常事態が発生した時に鳴らすことにしている鐘だった。
「急報だっぺ! 急報だっぺ!」
魔王城の城下町の一番外れに住むトムが駆け込んできた。
「何があったというのだ!?」
「敵襲だっぺ!」
「敵?」
一体どんな敵が攻めてきたというのか。人間の軍か。それとも、魔族の集団か。あるいは魔物?
サミュエルは剣を片手に表に出ようとした。すると、人間やコボルトの戦士、何人かが彼に付き従ってくる。
「わしも戦うぞい」
「おいらたちも戦うだべさ! マタギの血が騒ぐだー!」
「当然、わたしも行くよー!」
ガンテツはマーガレットの作った「マッチョッチョパワードリンク・スーパーゴールド」を飲んだ。すでにムキムキのガンテツの身体はさらに風船のように膨らみスーパームキムキマッチョモードになった。
ハムは、ヴィクトリア作の「生贄たちの生血グミ」コウモリ味を食べた。パタパタと空を舞えるようになった。
アンジェラも「生贄たちの生血グミ」カエル味を食べた。ピョンピョン高く、そして遠くまで飛び跳ねることができるようになった。
付き従ってきたコボルトの戦士たちも、それぞれマッチョになったり、飛べるようになったり飛べるようになったりした。
「ミュくんも一応薬を飲むといいよ」
「俺は不要だ」
「強いからってそーいう慢心はよくないよ! はいっ」
アンジェラは手に持っていたグミを一粒、サミュエルの方に向かって投げ上げた。サミュエルは咄嗟に口で空中キャッチをしてしまった。
「おおー! これが伝説のミュくんの口パックンかいの! 燃えてきたぞーーーい!」
「見事なキャッチだべ! こりゃ、幸先いいべ!」
「んだな! 勝利間違いなしだっぺ!」
ガンテツたち戦士一同はくだらないことで大盛り上がりだった。
そして、サミュエルが口にしたグミはどうもコーラの味がする。ということはトカゲ味のグミということだ。サミュエルは、壁や天井に貼り付けるようになった!
だが、敵が姿を現したのは城下町前の田園地帯である。ハッキリ言って貼り付ける場所が思い浮かばない。
しかも、これまでの戦士たちの様子を見ると、皆そのあたりの事情が分かっているようで、誰もトカゲ味のグミは食べていない気がする。
サミュエルはトカゲの手に変化した自分の掌を見つめた。
「さあ、行くよ、皆!」
「おおー!」
勇ましいアンジェラの声を合図に、戦士たちは威勢よく城を飛び出していった。サミュエルもそれに続いた。
サミュエルたちが城下町前の城壁にたどり着く頃には、敵の姿がハッキリと見えるようになった。彼らは中央の草原地帯に住む獣人族の一団だった。ざっと見て、その数およそ30。数だけ見ると、圧倒的にこちらの方が不利だ。
魔王城が勇者たちの手に落ちたとき、生き残った獣人たちはそのまま中央の草原地帯に逃げ込み、それ以来数十年に渡って、魔王城にいたサミュエルたちとは関わることなく生きてきたのだ。それが今になって集団で攻めてくるとは。
城壁といっても、実際に敵が攻めてくることは想定外だったので、人の背の高さほどしかない。城壁が守りの役割を果たさないと判断し、サミュエルたちは、城外に出ると城壁の前で獣人族を待ち構えた。
向こうは向こうで、こちらの姿を目にすると、スピードを落として慎重に進んでくる。
「ミュくん、敵をビリビリっと痺れさせちゃうかっちょいい一言をプリーズ!」
「えっ、俺がか? お前が言えばいいんじゃないのか?」
「わたしみたいなかわゆい娘じゃだめですよぉ。こういう時は、ミュくんみたいなカッコいい男じゃないと場が締まりませんっ!」
周りを見ると、皆も目を輝かせながらこちらを見て、うんうんと頷く。
「止まれ、獣人ども。お前たち、ここには一体何のようで来た。返答次第では容赦はせぬぞ」
「ヒューヒュー、かっこいい! ヨッ、ミュくん、さすが我らのアイドル!」
「うおおおお! これぢゃ、敵さんよりもわしのハートが痺れちゃうぞいっっ!」
「さすがはミュくんだっぺええ! 色男はまるで違うだっぺええ!」
お望み通り、せっかく魔王っぽく決めたのに、それを台無しにするようなアンジェラたちの一言にサミュエルは頭を抱えたくなった。
相手のリーダーと思しき男は、若干驚いた様子だった。が、すぐに真剣な表情になって、こちらを見つめてきた。




