第17話 不細工で恐ろしい魔女たちの作る薬
恐ろしいかどうかはともかく、魔女――魔術を得意とする女性の知り合いはいた。といっても、もう十年以上前に彼の元を去ってしまっている。どこで何をしているのやら、今となってはまったくわからない。そして、サミュエルの部下だったその魔女は、思い起こしてみると割と美人だった気がする。
「なぜ、美人でなくて恐ろしい必要があるのだ? ただの魔女ではダメなのか?」
「絶対にダメです! 美人だと惚れてまうやろ! ミュくんが、その魔女に!」
「それだけでは惚れないとは思うが……。では恐ろしいというのは?」
「優しい魔女だと惚れてまうやろ!! ミュくんが、その魔女に!!」
「いや、それだけでは惚れないとは思うが……。それに、俺がその魔女に惚れると何か問題が?」
「はあー、これだからもう、ミュくんはわかってないなー。問題ありまくりでしょ! せっかくイイ男が側にいても、それが誰かのモノだと思うと、やる気が萎えちゃいますよ、まったく! もっとアイドルの自覚をもってください!」
ただ質問をしただけで、まだ誰かに惚れたわけでもないのに、なぜか叱られるサミュエル。
「お前のやる気が萎えるところは少し見てみたい気がするな」
「はあ!? なんですとぉぉ! そんなことこのアンジェラ様が許しませんから! したがって、不細工で超恐ろしい魔女を呼びます、このわたしが!」
サミュエルは恋人がほしいと思ったわけではなく、このバイタリティ溢れるアンジェラが、やる気を失っている姿が単純に想像できなかったのだ。アンジェラだけではない、彼女の従兄や叔父、親戚ご一同様全員、無気力とは無縁の存在に思えたからだ。
不細工で超恐ろしい魔女を呼ぶと宣言したアンジェラ。心当たりはあるのだろうか。人脈の広い彼女のことだ。それなりに目星をつけている人物がいるのだろう。だとしたら、サミュエルが下手に動いて、彼の元を去った魔女を探す必要はない。
そもそもなぜ、魔女を呼ぶのかというと、魔法薬の調合には魔女や錬金術師、魔草薬師といった職業の人々の持つ知識と技術が必要だからである。魔力のない人間が、書物を参考にして魔法薬を調合しようとしても、たいていの場合失敗に終わってしまう。
せっかくのお宝素材を本物のお宝に変えるには、専門家の技術が必要なのだ。
アンジェラとサミュエルは、魔王城に戻ってきていた。幹部メンバーを集めたアンジェラは、皆に尋ねた。
「誰か、不細工で超恐ろしい魔女の知り合いがいる人はいますかー?」
割と酷い質問だ。ここで連れてこられた魔女は、回答者に不細工で超恐ろしいと思われているということなのだから……。
「あたしの知り合いに一人いるわよ。ブスで人格破綻している魔女が。彼女だったら、もう本当にぶっさいくだから、ミュくんが惚れちゃうことはないから大丈夫よ。うふっ」
女装男のジョセフィーヌが一人の女性を推薦する。
(女装男に不細工認定されるとは、その魔女の女、どれだけ不細工なのだろうか……)
会ってみたい気もするが、見たくない気もする。
「フィちゃん、それってもしかしてマーガレットのこと!?」
「そうよ」
「うん、確かに。マーガレットならば大丈夫。よし、マーガレットを呼ぼう」
「わたくしの知り合いにも一人おりますよ。あまり見てくれがおよろしくなく、見たものに恐怖を抱かせる魔女が。彼女だったら、ミュくんが惚れることはまずないでしょう、安心そのものです」
「あ、まさかヴィクトリアのこと?」
「その通りです」
「ふむふむ。確かにヴィクトリアならば安心だわさ」
こうして、名前だけ聞くと高貴で美人っぽい魔女のマーガレットとヴィクトリアが魔王城に、新たな仲間として召喚されることになった。
そしてやってきたマーガレットは、不細工と言うか、魔女の常識を覆すような風貌であった。おそらく彼女は、見た目にはまるで無頓着な女性なのだとサミュエルは理解した。
マーガレットは、マンモスの毛皮で作った貫頭衣のような衣を着て、髪の毛はボサボサ、そして恐ろしくマッチョだった。女性とは思えないほどに。
一方のヴィクトリアは、「夜露死苦」と書かれた真っ黒なフードのついたマントを羽織り、顔には怪しげな文様を描き、古今東西の呪いのアイテムを体中に身に着けていた。こっちは魔女としての生きざまを極めすぎてしまった成れの果てのような風貌だった。
確かに、この二人に惚れることはまずなさそうではあるが、それ以前にまともなコミュニケーションが取れるのか不安になるサミュエルだった。
「てめえがミュくんか、こらああっ! ちょ、マジやっべー! おい、喜べ、ミュくん! このマーガレット様、しかたねえからよぉ、あんたの奴隷になってやろうじゃないか、ギャーハハハハッ」
「ヒヒヒッ、ミュくん、夜露死苦。なんまいだぶ、なんまいだぶ、神よ感謝します。こんなイケメンのもとで働けることを。オーメン! ヒヒヒッ」
性格破綻者とオタク臭の漂う陰キャに戸惑っていると、アンジェラに魔王城代表として挨拶するように促される。
「あ、ああ、こちらこそ、よろしく頼む」
なぜ俺が代表で挨拶をせねばならないのだと思いつつも、二人の魔女を温かく迎え入れるサミュエルだった。
この二人の魔女、性格は油と水のように真逆の上、信じられないぐらいめちゃくちゃながら、アンジェラたちの知り合いということもあって、能力だけは確かだった。
二人は、コボルト村の近くにある魔窟に赴くと、そこに生えている植物の採取だけでなく、さらにほしい素材の栽培まで始めた。もちろん、採取したものを使って、様々な薬を作り出す。
彼女たちの作り出す薬は、恐ろしく効果が高い。
例えば、マーガレット作成の「マッチョッチョパワードリンク・スーパーゴールド」これを飲むと、一時的に肉体がめっちゃマッチョになって、普段の2.9倍のパワーが出せるようになる。しかも、ほぼ副作用はない。この薬のお陰で、農作業や集落の環境を整えていくような力仕事は、さらにはかどった。
もう一人の魔女、ヴィクトリア作成の「生贄たちの生血グミ・トカゲ味、コウモリ味、カエル味全3種類」。これも秀逸だった。これを食すると、その動物の能力を発揮することができるのだ。トカゲ味を食べると、手足に細かい繊毛が生え、垂直の壁や天井にさえも自由に登れるようになる。同じくコウモリは空を飛べるようになり、カエルはジャンプ力が飛躍的に増すのだ。こちらも特に用法用量を守って摂取すれば副作用はなく、名前の割には不味くもないのだ。特にカエル味はマスカット風味で好評だった。
彼女たちの作った薬、現状では仲間たちが必要に応じて使用しているだけであるが、ゆくゆくは販売すれば大儲け間違いなしというのがアンジェラの見立てだった。




