第16話 新たな仲間たち。と、苦節一か月でのお宝発見か!?
コボルトたちも、だるまさんが転んだの魅力に夢中になっていた。子どもたちは鬼ごっこやかくれんぼ程度の遊びはしたことはあるが、このような複雑怪奇なルールのある遊びは初めてだった。
もうこれは人間たちと協力関係を築いてしまってもいいんじゃないかという空気が流れる。もともと、断固として反対という態度の者はほぼいなかったのだから。
だるまさんが転んだに興じていると、狩りにでたポムとおかきさんが戻ってきて、早速調理を始める。
おかきさんは、鮭のバター焼きを作る。あたり一帯に何とも言えない香りが漂い、自然と口の中に唾液が湧いてくる。コボルトたちにとっても未知の香りである。
一方のポムは、イノシシを解体し、森で採ってきたキノコと一緒に煮込み、鍋にする。汁物を入れる器は簡易的に竹を切って作る。コボルトたちは、見たこともない料理と食べ方に驚きを隠せなかった。
気が付けば、コボルトたちはすっかりアンジェラたちに馴染んでいた。
「さて、そろそろ多数決しますか? では、人間と手を組んでもいいと思う人、手を挙げてください」
子どもや若者は躊躇せずに手を挙げる。それを見て、迷っていた大人たちも少しずつ手を挙げた。
「はい! ということで、全会一致で、コボルトさんたちはわたしたちの仲間になることが決まりました! 拍手!」
アンジェラに促されて、コボルトたちは嬉しそうに手を叩いた。
「で、アンちゃん、具体的に協力ってどないするん?」
「そうですねぇ、交換留学なんてどうでしょ?」
「交換留学とは何だ?」
またしても聞きなれない新しい言葉が登場する。アンジェラの提案はこうだった。
コボルトの若者の一部がまずは魔王城に行って、衣食住に関する技術を学ぶ。その間、魔王城側からも人を派遣して、この集落の環境を整えつつ、コボルトと共に周辺環境の調査を行う。
「なるほど、お互いに人質を取ると言うことか……それで離反を防ぐということだな」
「もうミュくんってば、人質だなんて物騒だなぁ! 交換留学はただの合理的なおべんきょー方法で、人質と違ってお互いウィンウィンの関係なわけ」
こうして、コボルトの中からまずは五人の若者が魔王城で技術習得に励む。一方、ポムとおかきさんはここに残ると言う。ついでに、農業技術を持っているトム一家の三男トモがここに来た。
アンジェラとサミュエルはこの集落を拠点にしつつ、しばらくは周辺の探索に精を出す。
コボルトの集落は、みるみる間に発展していった。
食生活が豊かになり、ガンテツの指導の元、漆喰を使った丈夫でカラフルなキノコ型の家が次々と完成した。
「やっばっっ、超かわいいぃぃ。めっちゃドリーミングぅぅ!!」
「お前はデモーニッシュな雰囲気のものが好きなんじゃなかったのか?」
「はっ、んなわけあるかい! このキュートプリティな美少女アンジェラちゃんがきゃわゆいものを愛さないわけないじゃないですかーー!」
コボルトたちの村の外には、森林の一部を開墾して畑を作った。
「ここでは、野菜を作っぺ! んで、こっちは麦な」
こうすることで、食料供給も安定した。しかも、魔王城のあるエリアとはまた違った自然環境のため、お互いに作ったものを交換しあうことで、さらに食の幅が広がった。
魔王城から運ばれてきたパステルカラーの布を使って、各自の服も作った。
「なあ、俺の服とは随分と雰囲気が違うぞ? この服には袖もあるし、前の留め具もある」
「ミュくんはかっこいいけど、コボちゃんたちはきゃわゆいからね! デザインとはそういうものなのさ。妖精さんみたいー!」
子どもも大人も、長老たちでさえも、今コボルトの集落に、人間を恐れ、妬み、彼らと距離を置こうと思っているものはもはや誰もいなかった。
一方、探索隊のほうは、広大な平原から森林地帯を、地図を作りながら進んでいた。洞窟や、岩肌がむき出しになった山をいくつか発見したものの、お宝自体は案の定見つけられずにいた。
「ねえ、ミュくん! この洞窟、今度こそ、お宝の匂いがするよぉ! 期待大ですな」
「アン、お前、毎回それを言っているぞ……」
そして、それらしきお宝が見つかったことはない。洞窟の中を進む二人とコボルトの探検部隊たち。
「ねえ、ミュくん! なんかあれ、キラキラしてない? もしかしてお宝なんじゃない!?」
ここは自然にできた洞窟のようだが、確かに光が当たらないはずの洞窟の奥の方がぼんやりと光っているように見える。何かあるのは確実なようだ。どんな危険があるかわからないので、サミュエルが先頭を進む。
近くに来て光の正体が判明する。残念ながら、魔王が隠したお宝ではない。地底湖の近くに生えたキラキラ輝くコケにキノコ、そして壁を這うように伸びたツタに実った光る果実だった。
洞窟の奥だというのにそこだけはうっすらと明るく、まるで絵画のような幻想的な光景が広がっていた。
そして、このキラキラ植物が光る理由。これはこの辺りの魔力濃度が何らかの理由で非常に高いことを意味している。
そこに生えていた植物が魔力を吸い込んだ結果、光るようになるのだ。そして、魔力を吸い込んだ植物は、ポーションなど各種魔法薬などを作る際に使われる貴重なものだ。
「ミュくん、残念でした! そして、おめでとうございます、わたし! これは、お宝発見といっても過言ではないのでは!?」
「……お前の言う通りかもしれないな……まあ、魔王城の宝ではないが……」
「苦節一カ月! ついに、ついに、つ・い・に! お宝素材に出会えるとは! 神はわたしを見捨てていなかったのですね! ジーザス!」
苦節一カ月……。随分と短いなと思うサミュエル。
(俺なんて、何十年も無為に時を過ごしてきてしまったというのに……)
最も人間の時間というのは魔族に比べて圧倒的に短い。だとしても、一カ月というのは、苦節を語るには十分短か過ぎる気はする。
「ミュくんには、それほど美人ではない恐ろしい魔女の知り合いはいますか?」
「な、なんだ、急に」
せっかくアンジェラがかわいさに目覚めたと思っていたのに、ここにきてまた恐ろしい魔女――しかも、美人ではない――を所望とは。アンジェラの奇抜な要求に戸惑うサミュエルだった。




