第14話 未開の種族との遭遇
ポムの提案にしたがって、地上に降り立った4人。森の中をワイバーンで移動するのは難しいので、ここからは徒歩で移動する。
ポムやおかきさんによると、こういう時は、生活の痕跡を探るのがいいらしい。その際、特に重要なのが水場である。どんな生き物であったとしても、生活拠点の近くには、川や池といった水場が必ずあるはずだというのだ。
ちょうど降り立った場所には小川が流れている。つまりは、この流れに沿って森の中を探すのが最適解となる。森の中は鬱蒼としていてどこを見ても似たような光景にみえるが、よく見ると獣道のような何かが通った痕跡がある箇所がある。
ポムはそれを慎重に見極めていた。
「こっちに行ってみるべ」
小川沿いをよく見ると、下草が踏み分けられて、一際広い道が出来上がっているところがあった。そこをたどって行く。
あった。
これは、確かにコボルトの集落である。
洞窟の前に小さな小屋もいくつか建てられていて、中規模の集落のようだった。子どものコボルトだろうか、外に出て遊んでいるモノもいる。が、こちらに気が付いた彼らは固まって、警戒しているようだった。
それもそのはずだ。彼らがほかの種族と接触するのは、およそ百年ぶりぐらいになるだろうから。
ここは、こちらも警戒を解かず、かつ、相手の警戒を煽らずに接触をはかるのがいいだろう。
「やっほーみんな! わたしはアンジェラ! かわいくてやさしいお姉さんですよぉ! はいはい、みんなちゅうもーく!」
警戒を……などとサミュエルは考えていたのだが、そんな常識的な判断は、アンジェラには関係なかった。アンジェラはアンジェラでしかなかった。
「ここにぬあなななんと! オレンジが二つありまーす」
だからなんだ! と言いたくなるような行動に走るアンジェラ。いきなりオレンジを二つ取り出した。
「ヨッ、ほっ、ヨッ、ほっ」
アンジェラはオレンジを使ってお手玉を始めた。
「素晴らしかったですね~。はい、みんな拍手!」
外の気配を察知した大人のコボルトも外に出てきて、かばうように子どもの前に立つ。
「はい、拍手!」
誰も拍手をしないので、拍手を再び促すアンジェラ。その場にいたものが戸惑いながらもパチパチと手を打ち始めた。
「どうも、どーもありがとうございます。さあ、次なるショーは……。タタタタ、タタタタンっ! 空中に投げ上げた食べ物を見事口でキャッチしてみせまーす!」
アンジェラはオレンジの皮を剥きだした。そして、一房とると、言った通り、空中に投げ上げパクリと食べた。
「オー、ユミー! はい、拍手!」
コボルトの子どもたちは興奮して、今度は素直にすぐ拍手をする。それを見た大人も一緒に拍手をした。
「では、熱烈なるアンコールにお答えしてもう一回! 今度は三連続でいきまーす!」
アンジェラは、オレンジを3房取ると、一つずつ空中に投げ上げ、口でキャッチしてみせた。
「おおー!」
「すげー!」
今度は拍手を促すまでもなく、コボルトたちは拍手をしてくれた。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
アンジェラは左右に向かって頭を下げた。
「では、次、ミュくん、前へ!」
「えっ! 俺!?」
「そう、次はこちらのイケメン、ミュくんに今のキャッチに挑戦してもらいまーす。もし、地面に落としたら拾って食べてもらいますので!」
「は、はあー!?」
「じゃあ、行きますよー!」
「ちょ、ちょっと待てー!」
アンジェラは容赦なくオレンジを投げ上げた。しかも、そのまま口を開ければ入りそうな場所ではなく、走ってとりに行かないといけないような場所へ。
「うおおおおお!」
サミュエルは必死に走り、落下点に入ると、跳び上がってオレンジに食いついた。
「おおー!」
自然と拍手が巻き起こる。今度は、ポムやおかきさんも拍手をしている。
「なかなかやるねぇ、ミュくん。じゃあ、これはどうだ!」
「お、おい!」
アンジェラはまた、先ほどとは反対方向へ、そしてもっと遠くへオレンジを投げた。
「うおおおおおおおおおお!」
サミュエルは必死においかけると、滑り込みセーフで地面に這いつくばりながらオレンジをキャッチしていた。
「すげえ!」
見るからにカッコいい男が必死に空中を舞うオレンジを追いかけ、スライディングしながらもオレンジを口でキャッチする様に、コボルトたちは感動し、夢中になった。
「おい、小娘! いい加減にしろ!」
「ミュくん、はいよっ!」
「うおおおおおおお!」
「今度はこっちだよ! ほらほらっ」
「とおおおおおおお!」
文句を言おうにも、次々と投げ上げられるオレンジ。オレンジ丸々一つ食べ終わるまでこのショーは続いた。
「皆さん、ミュくんの奮闘に今一度、盛大な拍手をお願いしまーす!」
パチパチパチパチ。コボルトたちは素晴らしいものを見たという表情で、手を打っていた。
「お兄さん、すげえな! どうすれば、そんな正確にキャッチできるんだよ!」
感動したコボルトの子どもが尋ねてくる。
「え、いやー、それほどでも。まあ、強いて言うならば、優れた動体視力とだな」
「はいはーい、つまらない話はそのくらいにして、本題に入りましょー!」
サミュエルが得意気に説明し始めると、アンジェラが邪魔に入る。
「つまらないだと!? お前がやらせといて、つまらないとは何だ!」
「もう、ミュくん、大人なんだから、怒らない、怒らない。みんな、このお兄さんはただのカッコいい人で、怖い人じゃないから大丈夫だよー!」
「怒らせているのはどこのどいつだ!?」
アンジェラはサミュエルが声を荒げてもまるで気にしていなかった。
「あの、こちらへはどういったご用件で……?」
ついにこの集落の長のようなコボルトが話しかけてきた。
「えっと、それはですねぇ。みなさんとお友達になって、お宝探しを手伝ってもらおうと思いまして」
「お、お宝ですか……? 一体どんなお宝を?」
「魔王城にあったお宝です! わたしは、そのお宝が、この島のどこかに隠されているんじゃないかと踏んでいるんですよー」
「は、はあ……」
首領コボルトは戸惑っていた。そんなものがこの島にあるのだろうかと。だって、それは、あんたら人間が百年前、魔王城から全部持っていったんじゃないかと。
「その、手伝いとは、何をすればよいので?」
「えっと、とりあえずお友達になって、この辺りのことを教えてほしいなって。あの洞窟が怪しいとかそういう情報を。あとは一緒に探検するとか?」
探検という言葉に子どもたちは目を輝かせていた。
「あ、もちろん、お宝が見つかったら、利益は山分けってことで」
「……見つからなかったら……?」
「絶対に見つかりますので、ご安心を!」
(その自信は何なんだ……)
「ほな、当面の間、お宝が見つかるまで、うちらがそちらさんの衣食住をサポートするっちゅうのはどないやろか?」
さすがはおかきさん。提案が大人である。
「そうだべ。おいらたちは今、魔王城に住んでいっけど、ここよりもだいぶ快適な暮らしをしてるだよ」
(特に食べ物は素晴らしいぞ!)
ぼろ布を纏ったコボルトたちは、今にも崩れそうな小屋をじっと見つめていた。




