第10話 民主主義の基本を学ぶ
昼食を終えると、サミュエルたち5人は早速魔王城へと向かった。ワイバーンのリュくんに小舟を持ち上げてもらって。
「ここが噂に聞こえし死の大地、魔王城跡か! 城自体はなかなかのもんぢゃのぉ!」
ガンテツが感心していた。
「ふむ、まずは掃除ぢゃな! 寝る部屋を確保する必要があるぢゃろうて。わしらが部屋を掃除するから、ジョセフィーヌは厨を頼むぞい。ガハハハハっ」
「あいあいさー!」
ジョセフィーヌはキッチンの片づけを、他の4人は部屋の片づけをしようということになった。
「ああああああ! やる気がでません!!」
いきなりナオミが叫ぶ。始まる前からトラブル発生だ。
「なっち、どしたん!? 話し聞こかー?」
「アン! ミュくんの服を見て! せっかくの素材がまるで台無しの服! あんなのみせられた日にゃ、SSS級のお針子であるこのわたくしは何も手につきませんよ! あー、やる気しねーわー。死ぬー」
「なっち! 死ぬなー、生きるんだ!!」
(こいつら、一体何をやってるんだ……)
「オー、ジーザス! その気持ち、すっごぉくよくわかるわ! あたしだって、ミュくんのかっこいぃ服が見たいもの! 部屋よりなによりミュくんにカッコいい服を作ることを絶対に優先すべきよ!」
「ですよね。ジョセフィーヌ嬢!」
(いや、俺の服よりなにより、まずは厨房の掃除が大事だろう! チョコバナナのために!!)
「わかった、なっちにフィちゃん、こうなったら民主的な方法で、我々がなすべきことを決めよう」
「み、民主的な方法とは何だ?」
サミュエルはこれまでの展開もさることながら、聞きなれない言葉が登場し、今後の展開にも不安を覚えて尋ねる。
「ミュくん、民主的な方法とは、一番多い意見を採用するということだよ。こうするのが最大多数の最大幸福を得る道なのだよ」
「な、何だと!」
言われてみるとそうだ。魔族には話し合いとか多数決という観念が存在しない。強者の一言がすべてなのだ。人間の力の源は、旨い食事とこの力なきものの言葉も切り捨てない意思決定方法にあるのかもしれない。アンジェラたちは基本的にすべてがめちゃくちゃなのではあるが、それでもサミュエルには学ぶべきことが非常に多かった。
「よし、ではその民主的な方法とやらで決めようではないか」
サミュエルには初めての民主主義、初めての多数決である。
「じゃあ、ミュくんのカッコいい服を作ることを優先すべきだと思う人、手を挙げて」
アンジェラの問いかけに、ナオミとジョセフィーヌが勢いよく手をあげる。そして、おずおずとあのガンテツまで手をあげた。
「やっぱし、いい男がカッコいい服着ているところはみたいからのぉ」
もじもじしながら答えるガンテツ。
(ガンテツ、お前、そういうキャラなのか!?)
「じゃあ、ミュくんのカッコいい服よりも掃除を優先すべきだと思う人、手を挙げて」
サミュエルは負けじとスッと手を挙げた。特にキッチンの掃除が大切だと思っているからだ。
「結果が出ました。4対1により、なっちにはミュくんのカッコいい服作りを優先してもらうことになりました!」
初めての多数決で敗北だった。完敗だった。これが数の力というものか……。そうだ、人間が、勇者たち一行がこの城に攻めてきたときもそうだった。人間の方が圧倒的に多数だったのだ。彼らは数の力と知恵の力で、魔王軍を圧倒し、勇者と呼ばれる男とその仲間たちで力を合わせて父を、そして祖父を倒したのだ。
「よかろう! 今回は潔く負けを認めようではないか! では、ナオミとやら、服を作るがよい」
「ははー、有難き幸せ! では、ミュくん、こちらにいらしてください」
「なぜだ? 俺は服作りなど手伝えんぞ」
「いいですか、ミュくん、カッコいい服作りには、正確な身体のサイズが必要なのです。もし、もしもですよ! ミュくんのズボンの長さが5センチ足りなかったらどうです! これはもうどのようなデザインであってもカッコいいとは言えません!」
言われてみると、それはカッコ悪い気がする。
「わ、わかった。では、身体のサイズとやらを測るがいい」
「ははー、有難き幸せ!」
「ねぇ、採寸には、もう一人ぐらい手が必要でしょ? あたしがお手伝いするわ」
「フィちゃん、ずるいです! そうやってミュくんの身体をお触るするつもりでしょ! ここは、決闘で決めるべきです!」
「クッ、バレたか……」
(決闘!? 今度は随分と穏やかじゃない方法を……。その採寸とやらは命を懸けるほどの仕事なのか……?)
「よし、いくよ、最初は」
「まったあああ!」
「な、なに、がんじー?」
「わしもいれとくれ。採寸のお手伝いを賭けた決闘に!」
「ふっ、望むところだ……。よし、今度こそ、最初はグー、じゃんけんぽん!」
「よっしゃーーー! わしの勝ちっ」
「いやーん、負けちゃったわ」
「げー、まじか……」
ガンテツはチョキを出した。そして、アンジェラとジョセフィーヌはパーを出した。
決闘は一瞬で終わった。そして、随分と平和な決闘だった。これにもまた、サミュエルは驚きを隠せなかった。誰も傷つかず、また誰も結果に文句をつけない。人間らしい、恐ろしく合理的な解決方法である。
こうして、ナオミは採寸、ガンテツはその手伝いを、サミュエルはモデルとなり、アンジェラは部屋の片づけを、そしてジョセフィーヌはキッチンの片づけをすることで落ち着いた。
「おお、おお! 思った通り、ミュくんはええ身体しとるのぉ。この大胸筋、この上腕二頭筋! ナオミ、頼んだぞ……」
ガンテツはどさくさに紛れてサミュエルの身体をベタベタ触った。
「お、おい、やめろ! やたらと触るな……!」
「ガンじい、お任せを。このわたくし、すでに神より啓示を受け、素晴らしい衣装のインスピレーションが閃いておりますので。ああ、それにしても、見目麗しい男が羞恥心に打ち震えながら頬を赤く染める姿、それもまた一興ですねぇ……」
不安でしかない。こいつら、一体どんな服を作るつもりなんだ……。サミュエルの不安を他所に、着々とセクハラ……ではなく、採寸が進められていくのだった。




