74.独白2
「……」
スイが、瑞白大災害を引き起こした。
その言葉に絶句するナグモ女史に、スイはひとつずつ、説明する。
「わたしは軍人の両親を持ち、軍の病院で生まれました。生まれた時から、モンスターを引き寄せる体質を持っていました。わたしが生まれたその日に、はじめて穂積市にモンスターが出現しました」
スイは苦痛に歪んだ顔で、必死に話し続ける。
「軍の地下室で育ちました。わたしが外に出れば、モンスターに食べられてしまうし、それにたくさんの人を巻き込んでしまう。だから、父はわたしが地下室から出ないよう、厳しくわたしに伝えていました」
痛々しいほどの悲痛さをこめて、それでもスイは話すのをやめない。
「……一度だけ、言いつけを破ったことがありました。地下室から出て、瑞白町の、ある病院を訪れました」
脳裏に、かつて調査で訪れた、あの景色が浮かぶ。
山のふもとに建てられた病院。跡形もなく破壊され、瓦礫の山となっていた。
その足元に、活動を停止したモンスターの巨体が横たわる。
「カグツチが瑞白町を襲ったのは、その日わたしがそこにいたからです」
どうして瑞白町が、そしてあの病院が標的となったのか。
その答えは明快であり、言葉にするにはあまりにも残酷な事実だった。
話しきって、表情を変えないまま、スイは真っすぐナグモ女史を見つめていた。
ナグモ女史は自分の頭に手を当てて、うろたえていることを隠さずに視線を彷徨わせる。
「……待って、くれ……」
混乱の中、ナグモ女史はよろりと、足元を揺らす。
「いや、……そんな、……ことが」
普段は完璧に理論を紡ぐ脳が、理解を拒んでいるようだった。
それも仕方がないと思う。示された真実はあまりにも残酷で、突飛で。……即座に理解するには、命が失われすぎている。
「……事実、なのか」
助けを求めるみたいに、ナグモ女史は俺の方を見た。
俺はそれに目を逸らさずに答える。
「はい。証拠もあります」
実地調査でみた瑞白の景色も、名誉教授の消された論文も、地下室に横たわる小柄な少女の肉体も、今この瞬間もモンスターが湧き続けている世界そのものも。
すべて、スイの言葉を裏付ける、疑いようのない証拠になっている。
ナグモ女史は顔を手で覆い、俯いた。
長く息を吐いて、肩と手を震わせている。
そして唇の端から漏れ出た言葉は、予想していたものとは違うものだった。
「……出て行ってくれ」
「え、」
言われた意味が一瞬分からず、間抜けな声が出る。今、一体何を言われたんだ。
今度は俺が混乱する番だ。
うろたえている俺に、ナグモ女史は冷たく続ける。
「出ていけと、言っているんだ」
ゆっくりと顔を上げたナグモ女史の表情は、怒りに燃えていた。
その瞳に強く睨みつけられて、動揺が全身を覆っていく。
「どうしたんですか、ナグモ先生、」
「黙れ!」
初めて聞くナグモ女史の感情的な叫びに、言葉が遮られた。
まっすぐぶつけられた怒声で、俺はとっさに口を閉じる。
「あの災害で息子が死んだ」
脳を直接、掴まれたような衝撃。
その言葉を理解するのに、時間がかかった。その間もナグモ女史は、うめくような声で続ける。
「母も、妹も、姪も、恩師も、友人も死んだ」
その意味を理解するにつれて、少しずつ、腹の底が冷えていくような感覚。
「碌に埋葬もされず、今でも土の下でわたしを待っているんだ!」
悲しみと憎悪がこもった怒号に、スイは目を見開いたまま、動かない。
何も言えない、何も、できない。
それは俺も、同じだった。




