56.ある機械化人間の独白3
【和暦:緯新20年 大阪市】
頭上に輝くいろとりどりのネオン。
両方の岸を直線的に固められたコンクリートの川の水面が、きらきらとまたたいていた。
一見きれいなそれは、近くで見るとゴミが無数に浮いている。
居場所のない若者たちが集まる場所。
大阪市、道頓堀。大きなグリコの看板のたもとにかかる、橋の下。
青白い光に照らされた若者たちは皆、死人のような顔色をしていた。
道端にうずくまる酔っ払い、スピーカーから流れる大音量に合わせて大声を上げる集団、いかにも、みたいな風貌の男たち。
その人ごみの中を一人歩くと、一人の女性が階段に座り込んでいるのが見えた。
「ティアさん」
オレが呼びかけると、彼女——ティアさんはにこっと笑った。
くっきりした二重の瞳が、きゅっと細められる。
「おー、ショータくん。調子はどうや」
「ぼちぼちでんな、って、何言わせんねん。酔っぱらっとる?」
「今更。ウチはこれが通常運転やで」
ティアさんはわはは、と声高に笑った後に、スミノフの瓶に直接口をつけて、ごくごくと喉を鳴らした。
おっさんやないんやから。完全に酔っぱらっているが、確かに珍しいことではない。
ティアさんは、オレがグリ下に行き始めたころに出会った女性だ。
以前、酔っぱらった流れで素性を教えてくれたことがある。
本名はティアラといい、年は18だそうだ。「皇帝の帝に、ラブの愛に、蘭ねえちゃんの蘭で帝愛蘭や。やばいやろ、親がアホやねん」そう言って彼女はカラカラ笑った。
生きているのか死んでいるのか分からない人間ばかりが目立つここで、彼女はひときわ輝いていた。
ティアさんが素性を明かしてくれた日、家庭の状況を正直に話した俺に、「それは親がカスやわ」と遠慮なしで言い切ってくれた彼女に救われていた。
ティアさんは明るくて、優しかった。
「ティアさん、たばこちょうだい」
「もぉーまたぁ? いい加減自分で買えよなぁ」
「買われへんわ、どう見ても未成年やろ、オレ」
「それもそうやなぁ」
彼女も未成年であることに変わりはないが、いつも濃いメイクをしているティアさんは、実際よりも大人っぽく見えた。
ティアさんは尖った爪の先で、箱から器用に煙草を取り出す。
ピアニッシモ、ペティル。唇にくわえて、ライターで火をつける。甘ったるいメンソールの匂い。
「ショータくん、この後、あったかいとこ行く?」
「…うん」
その言葉は合図だった。
オレたちはその言葉のあとに決まって、二人きりになれる場所にいく。
どういうわけか、ティアさんはそういうことに慣れていた。
親の顔を見るのも嫌だと吐き捨てる割に、ティアさんは金を持っていたから、もしかしたら、そういう仕事をしているのかもしれなかった。
13歳のオレはそれに対して疎かったが、あたたかい肌の感触は好きだった。
寒空の下、ふたりでピアニッシモを吸いながら、アホみたいに酔っぱらって、そういうことをする。
これがお決まりのパターンになっていた。




