5.被害
一度目の出現から2週間後。またも大量のモンスターが、同じように出現した。
軍は再度緊急招集され、モンスターを一匹残らず駆除した。
一度目のモンスター出現で被害を免れた一部の水田は、この二度目の出現で蹂躙された。
幸いなことに、死者はでなかった。
さらに12日後、再び穂積をモンスターの大群が襲う。
二度目の襲来をうけて全国から集められた精鋭部隊が、モンスターの駆除にあたった。
前回よりも迅速に駆除がなされ、一般市民には犠牲者がでなかったが、九州・沖縄からの部隊において、2名の殉職者が出た。
5万5千いた穂積市民は、農地や家を放棄し、全員市外に避難した。
もともと2千名を擁した穂積駐屯地には全国から1万人の軍人が追加で召集された。
放棄された農地を転用し、巨大な駐屯地が再編成された。
また、モンスターの生態を研究する学術機関、傷ついた兵士を治療する大病院が併設された。
穂積へのモンスター襲来から2年後、つまり今から14年前。
食事や休息を一切とらずに活動し続けるモンスターの動力源として、体内に未知の物質が存在することが明らかになった。
その動力源は化石燃料や原子力をはるかに凌駕するエネルギーを持つことがわかり、人々はそれを「高エネルギー体(HET)」と名付けた。
さらに研究が進み、モンスターを安全に処理する技術が確立してから、HETによる発電が実用化されるのにそう時間はかからなかった。
一回で湧くモンスターにつき、日本で消費されるエネルギーの約1か月分を賄えた。その間もモンスターは、平均して13日に一度の頻度で湧き続けた。
人々の財産を、美しい自然を、時には人命をも蹂躙する厄介者は、たちまちこの国の、そして人類の、エネルギー問題を解決する救世主に成り上がったのだ。
人類は無限のエネルギーを手に入れた。
ほとんどのエネルギーを化石燃料の輸入に頼っていた日本は、瞬く間にエネルギー大国としての地位を手に入れた。
数十年にもわたって、長らく日本を覆っていた不景気の重い空気は取り払われ、世界一の経済大国となった。
モンスターが湧く最前線である穂積市には、現在、効率よくHETを採集するための軍の駐屯地がある。
またその後方には多くの軍人が寝泊まりする宿舎と、この国最大規模の発電所がある。
俺たちが通うこの国立エネルギー総合大学と、全学生の生活の場である学生寮も、エネルギーに関する研究や人材育成の場として、広大な敷地をもって作られた。
もともと傷ついた兵士たちを治療するための施設だった病院は、現在では規模を拡大し、研究機関としての側面も兼ねた、大学病院となっている。
自然豊かな稲作の町だった穂積市は、HETのための軍事都市へと変貌した。
そしてあの日——モンスターによる世界最悪の大災害がもたらされたのは、今から8年前のことである。
穂積市の隣、青い山々を切り開いた峠の道を超えた先。
スキーリゾートと温泉街で知られていた平和な田舎町、瑞白町に突如として、前例のない「超大型モンスター」が襲来した。
瑞白大災害。
穂積市外でモンスターが出現した唯一の事例。
かつて観測されたことのない巨体、全身から炎が噴き出す怪獣。
穂積市に駐屯していた軍が撃退に出動したが、結果的に、未曽有の大災害となった。
はじめの一瞬で、瑞白町の役場や警察、消防などの公的機関に加え、電波塔や無線局などのインフラが破壊されてしまったことで、初動の遅れにつながったのではないかとも指摘されている。
建物の崩壊、町一帯を覆う大規模火災、複数個所の雪崩や土砂崩れ。
この出来事により瑞白町は人口の9割を失い、700人ほどの生存者は全員、町外に避難した。
瑞白町を襲った超大型モンスターは、現在は通称『カグツチ』と呼ばれている。
カグツチは軍の3日間にわたる砲撃により活動を停止、現在は休眠状態と思われるが、カグツチの体から放出され続ける有害物質により、現在も瑞白町全域が帰宅困難区域となっている。




