47.供物
そこにあったのは、窓のない部屋だった。
真っ暗な空間に、無数の電子機器の光が鮮明に映った。
心拍と血圧をモニターするもの、呼気と吸気をコントロールするものなど、たくさんの医療機器の液晶が光っている。
シュコー、シュコー、聞こえてくるのは人工呼吸器の音だろうか。
機械からは無数の管が伸びて、中央のベッドに横たわる人間の体に繋がれていた。
————その姿を見て、すべて、理解する。
「どうして……」
思わず声が漏れる。
その人は、少女だった。
色素の薄いベージュの髪、こけた頬と痩せた手足。
中高生くらいの見た目に見える、小柄な少女。
腕や腹、口元にも管が繋がっている。
髪と同じ色の睫毛でふちどられた瞳は固く閉じているけれど、もしもその目が開くことがあるのだとしたら、それは翡翠の色をしているだろう。
「ここにあるのが、わたしの生身の体。機械になったあとの、抜け殻」
感情が読めない声で、スイが言う。
あの日講義室に突然現れて、文字を教えてほしいと研究室に通って、俺をかばって傷ついた少女と——スイと、全く同じ見た目の体。
「……生まれてからずっと、ここにいるの。機械化手術のあとからは、今の体で外に出られるようになったけど……」
ベッドの周りは、色とりどりのぬいぐるみが並んでいた。
壁や棚にはシールがいくつも貼ってある。
棚の中には、クレヨン、着せ替え人形、そのほか女の子が遊ぶおもちゃたち。
ここは、子供部屋だ。
子供部屋の中で、生命維持装置が異様に光っている。
機械化手術が実用化されたのは、ここ数年の話だ。
それまでは、スイはこの空間で過ごしていた。
生まれてから、ずっと。
本来学校に通ったり、家族と過ごしたりするはずの年齢を、ずっと、この真っ暗な部屋で。
「外に出ちゃいけないって、ずっと言われてた。……ゼンが見たかったのって、これだよね」
どうして。
残酷が真実が、目の前に横たわっている。
これが本当に、俺が暴きたかった真実なのか。
スイの表情はわからない。暗いだけが理由ではない。スイの顔が、見れない。
「モンスターを引き寄せる体質の人間——生まれた瞬間、災害を起こした罪があるのなら」
16年前。緯新14年9月9日。
モンスターを引き寄せる体質の赤子が、穂積の駐屯地に生まれた。
食い殺されるはずの運命にあった赤子が、死ななかった。
運命の日から16年間生存し続け——今でも、穂積市内で、モンスターを引き寄せ続けている。
その人こそが、この国の根幹。世界の救済。エネルギーへの供物。
「それは、わたしだよ」
人類の電池は、いまもこの地下室で、1億3000万の豊かな暮らしのために身を捧げている。
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