46.掴んだ手
「……どうしてここにいるの、ゼン」
手が伸びてきたほうを振り返るが、暗くてよく見えない。
それでもその声で、すぐに誰か分かった。
「……スイ!」
思わず叫んでしまう。
姿が見えなくても分かる、声の主はスイだ。
スイ。体は大丈夫なのか。つらい目にあっているのか。
きみは道具のように扱われて、兵器のように戦わされているのか。
それはきみのお父さん、イズミノ陸将の命令なのか。
今までどこにいて、何をしていたのか。
どうして今、ここにきみがいるんだ。
聞きたいことが脳内に濁流のように押し寄せて、喉の奥で渋滞している。
「スイ、きみは……」
「そのドアは、ゼンは開けられないよ。ねえゼン、どうしてここにいるの」
俺の言葉をスイが遮る。先に質問に答えろと、そういうことだろうか。
「……調べていることがあって、……ここにたどり着いた」
下手なごまかしなどは不得手だ。正直に答える。
「……そう」
スイはゆっくりと力をゆるめて、俺の手を解放した。
スイの指は金属の基盤と銅の配線がむき出しになっていた。
どこからどう見ても、機械の手。
鉛筆を強く握っていた精巧なあの手と、本当に同じものなのか。
姿が見えないと話しにくくて、スマホのライトをスイに向けようとした、そのとき。スイが叫んだ。
「見ないで!」
初めて聞くスイの大声に動揺して、スマホを取り落としそうになる。
「……人工皮膚、貼ってもらってないから、見ないで……」
「……」
震える声でスイが言うから、掲げようとしたスマホをおろして、ライトを足元に向ける。
スイは今、人工皮膚を貼る時間もなく、絶え間なく修理と出撃を繰り返していると聞いている。
きっと今、スイは全身機械のパーツがむき出しになっていて、見たことのない姿をしているだろう。
「きみこそ、……どうしてここにいるんだ」
俺の問いに、スイは静かに答える。
「……内緒なの」
答えるつもりはないらしい。答えられないのか。
「きみは、このドアを開けられるのか」
「それも、内緒なの」
なんでもないことのように、平坦にスイは続ける。
何か言えない理由があるのか。
俺はスイにゆっくり語りかける。祈るような気持ちだ。
「……スイ。俺は、ここに何があるのかを見ないといけないんだ。俺の中でひとつ、仮説がある。それを確かめないといけない」
「カセツ……」
壁に映し出されたスイの影が、不思議そうに首をかしげた。
「モンスターを引き寄せている『何か』が……おそらく『人』が、この先に、いるはずなんだ。その証拠が欲しい」
ウダガワ教授の説が本当なら。
モンスターが真っすぐ向かっていった先に、必ずいるはずだ。
「……どうして確かめないといけないの?」
スイは声色を変えずに聞くから、このことにも正直に答える。
「俺がそうしたいからだ。何もかも分からないことだらけでは、俺は、息ができないから」
「……」
スイは少し迷ったように俯き、そして顔をあげた。
「……ついてきて」
ドアノブの上にあるセンサーに自身の前腕をかざして、かちゃん、ロックが外れる音がする。
スイの金属の指がドアノブにかけられて、ゆっくりと開かれた。




