34.実地調査3
「……まるで、病院が目的地みたいだ」
独り言のようにくぐもった言葉は、それでもナグモ女史に届いたようだった。
ナグモ女史は怪訝そうに目を細めて向き直る。
「……どうして、そう思った」
「だって後ろから砲撃を何発も受けているのに、砲弾を避けるわけでも、後ろを振り返るわけでもなく、……まっすぐ、病院に向かって歩いてるじゃないですか」
「そうか……確かにそうだな」
ナグモ女史は少し考えこんで、ゆっくり口を開いた。
「穂積のモンスターもそうだ。……はじめて穂積をモンスターが襲ったときも、駐屯地に向かって、真っすぐ進んでいった。現在においても、モンスターの出現地点と進行方向は一定だ。はじめてモンスターが現れたときから、それは変わっていない」
そうか、と思う。
世界のどこかで、たまたま発生したモンスター。
その町の属する国や大陸、経済レベル、立地、気候、人種、生態系。共通するものは一切なく、偶然その地にあらわれたとしか説明できなかった。
この瑞白にも、穂積にも、モンスターが現れることに納得できる「何か」はない。
一直線にどこかに向かうモンスター。通り道にある財産や人命をことごとく破壊していく。
もしも……その現象に、理由があるとしたら。
「モンスターは、何かに引き寄せられている」
たまたまその土地にもたらされた災厄だと思われていた。
しかしそれに理由があるとすれば? モンスターたちが、その土地にある「何か」に、無条件で突進していくようにできているのだとしたら。
日本で穂積にだけ出現することも、突然瑞白に超巨大モンスターが現れたことも、説明できるのではないだろうか。
この町にも、穂積にも、今まで破壊された世界中のすべての町にも、「何か」があるのなら。
「……まだだ、これは憶測であって、根拠がない」
「いや、モンスターが一直線に進む、この事実だけでは駄目なんですか」
「駄目だ。根拠がなければ、俗説と変わらない。この世界はそうなっている。根拠が示せないのなら、神の怒りや宇宙人の侵攻、大国の陰謀なんていう理論と同じ扱いを受ける」
「……」
確かに、人々の間ではモンスターの出現について、さまざまな理論がささやかれている。
一部には熱狂的な支持者がいると聞くが、大多数の人にとっては冷笑の対象だ。
行こう。ナグモ女史に促されて、俺は歩き出した。
いくら防護服を着ているとはいえ、汚染濃度が高い土地に、長時間留まることはリスクが高い。
それに、もう時間もあまりない。
モンスターたちが一直線に走っていく、真の目的。
歩きながらも、浮かんでしまった仮説が、脳内をぐるぐるとめぐっていた。




