28.友人
「……あと、気になったんだが。人工皮膚って、ふつう顔だけに貼るものなのか?」
「え、なんで?」
「いや、なんとなく」
カサマツの首から上には、肌色の人工皮膚が貼りつけられている。
それに対して、服に覆われていない、手や足首の部位は、金属がむき出しのままだ。
スイは全身、指先に至るまで精巧な人工皮膚に覆われていた。
カサマツの顔に貼りつけられているような、よく見るとシリコンの質感が目立つものではなく、まるで本物の皮膚と見まがうほどのものだ。
それに、血色の再現までされていた。スイの桃色の指先が、三角鉛筆を強く握ったときに白く変色した光景を、覚えている。
「いや、まあ。俺の場合、金かけられへんし。人工皮膚がないと表情作れんらしいから、首から上のやつは治療の一環で、保険でつけられるんや。でもそれ以外、首から下は保険適用外。全身貼ろうと思ったら自費やし、えぐい金かかるで」
カサマツは着ているTシャツを肘までまくり上げて、肘関節の接合部を見せてくれた。
円柱のパーツを軸に、三本の長い金属が滑らかに動いている。
生身で言うところの、上腕骨、尺骨、橈骨にあたる部品だろう。
「まあ金ある奴で、手先に貼ってる奴もおるけどな。リハビリ中に一回だけ見たわ。おっちゃんやけど、どっかの社長らしいわ。『肘から先にシリコン貼るだけで50万かかったわー』って笑っとったけど」
シリコンの皮膚でも、肘から先だけで50万。仮に全身を覆うとすると、数百万は簡単にかかるだろう。
「それに人工皮膚にもいろいろランクがあるし、そもそもボディ自体、種類がめちゃくちゃあるからな。保険きかんようなハイクラスのやつもあるけど、正直キリないわ。オプション付けまくったら、普通に億いくんちゃうかな」
億、という言葉に絶句する。普通の人間は、一生かかっても払えないだろう。
とんでもない金持ちならあり得る話だが、決して一般的なものではないらしい。
「俺は全部、保険適用内。ベーシックタイプのオプションなし。17のときやったから、タダでできたしな」
この国では、子供にかかる医療費は基本的に無料になる。
不況にあえいでいた頃は自己負担額を増やすような議論もあったと記憶しているが、HETにより好景気に転じた結果、手厚い福祉を受けられるようになっている。
「結構気に入ってるんやで、この身体。かっこええやろ、普通に」
カサマツは精密な機械の手を、グーパーと開いたり閉じたりしている。
鈍い光を放つ金属に白い蛍光灯が反射して、いろいろな角度で輝いていた。
「……それは正直、思ってた」
「やっぱり? お前も分かるか、この少年心をくすぐる造形」
「ああ。正直、めちゃくちゃかっこいい」
精巧な金属が奇跡的なまでに嚙み合って、滑らかな関節運動を呈している。
金属同士とは思えない摩擦の少なさだ。テクノロジーの結晶そのもの。
そこには技術とロマンが詰まっている。
カサマツは満面の笑みで、しばらく腕を動かして見せてくれた。




