25.不祥事
「えー、停電によりモンスター侵入防止ゲートが停止し、予備電源にもトラブルがあり、えー、ゲートの再起動が困難であったため、今回のような重大な事案が発生しました」
壮年の軍人が手元の紙を読み上げる。
白いクロスがかけられたテーブルに、「施設長」という肩書とともに名前が書かれた紙が貼られている。
以前テレビで見たときは切れ者のオヤジという感じだったのに、今は弱った老人のような印象を受ける。
白髪が目立ち、頬は窪んでいた。
彼含め3人の男が椅子に座り、世間の目に晒されている。
「今回は重軽症者8名の、民間の人的被害。また、えー、大学の校舎の破壊。絶対安全とされてきたモンスター処理フローでこのような、安全性を根底から覆すような重大な事案が発生したことについて、えー、全責任は私にございます。大変申し訳ありませんでした」
施設長は立ち上がり、深々と頭を下げる。
カシャカシャカシャ、シャッター音が響き、画面がフラッシュで激しく点滅する。
数秒、白い頭頂を晒した男は、ゆっくりと顔を上げた。
「えー、今回の事態を重く受け止め、防衛責任者としての任を全うできなかったことに対し、深く反省しております。私自身、身を引くことでこの混乱に区切りをつけ、組織の刷新を図る所存です」
画面の隅から、会場のざわめきが拾われる。
数秒遅れて、画面下部にテロップで「対モンスター防衛機関 施設長 辞任」と表示された。
「後任には、事態の収拾と再発防止の適任者として、イズミノ タカミチ陸将を指名いたしました」
イズミノ タカミチ。
その名前に、肩が一瞬震えた。
イズミノ、珍しい苗字だ。一瞬、脳裏にスイの顔が思い浮かぶ。
それでも偶然という線もあると思い直し、再び画面を見つめた。
「彼には、この難局を乗り越えるための全権を託しております」
施設長が着席し、代わりに、画面左側、施設長の隣に座っていた男が立ち上がる。
「新任の防衛責任者を拝命いたしました、イズミノ タカミチです。 この度の事態を重く受け止め、まずは徹底した原因究明と再発防止に邁進する所存です」
真っ黒な短髪に、彫りが深い顔立ち。隣に並ぶ施設長と比べると、随分身体が大きいように見える。
カーキ色の分厚い軍服の上からでも、肩や胸板が盛り上がっているのがわかった。
そして何よりも、若い。
国立エネルギー総合機関の長たちは、皆役人上がりの老人たちだが、イズミノ陸将はその中でも異質に見えた。
年代だと中年といったところで、自分たちの親世代くらいに見えるが、一般人とは全く異なる大きな身体と、鋭い眼光。
さきほどまでのざわめきは完全に止んでいて、カメラのフラッシュさえ、止まる。
画面越しでも感じる、生き物としての恐怖。
畏怖すら感じる鋭い眼光に射貫かれたように、記者たちは動けない。
「我々の責務は、この国の安寧と、豊かな社会の根幹を断絶させぬことにあります。 いかなる代償を払ってでも、市民の日常を、そしてこの国の光を守り抜く。 私は、そのためにここへ参りました」
まっすぐ伸ばされた背中。
有無を言わせないような迫力に、数秒の静寂のあと、思い出したように記者たちは次々とシャッターを切った。




