21.傷
目を覚ますと、そこは白い空間だった。
やわらかな光が差し込み、鳥のさえずりさえ聞こえる。
一瞬、本当に天国に来たのかと思ったが、視界を埋める白は、壁とカーテンであると気づいた。
ぽん、ぽん、何かの電子音が規則的に響いている。
自分の腕を見る。点滴が何本か入れられていて、指先には何かを測定する機械が繋がれている。
(生きているのか……)
絶対に死ぬと思ったが、生き延びたらしい。
まさか助かってしまうとは。どうやらしっかり治療を受けているようだ。
クッションや抱き枕のようなものを挟み込まれ、横向きにされている。
背中の傷は、思ったほどは痛まない。
痛み止めの類が点滴されているのだろう。頭がぼーっとする。
ここはどこだろう。病院だろうか。誰かが俺を運んでくれたのか。
「あれ、起きてる」
カーテンを少しだけ開けて、聞き慣れた声が飛び込んできた。
思わず目を向けると、そこに立っていたのはマリノだった。
「おはようゼンくん。痛みはどう?」
「……いや」
声を出した瞬間に、背中がちりちりと痛んだ。
思わず眉をひそめると、おおよそ察したらしいマリノは苦笑した。
「死ぬところだったらしいよ。ラッキーだったね、ゼンくん」
「俺もさすがに、死んだかと……」
マリノは仕切りのカーテンを開けて、ベッドサイドの丸椅子に腰を下ろした。
「……スイは」
一番気になっていることを訪ねる。
腕と足が破損し、人工皮膚の間から金属が露出するほどの傷を負った、スイの安否。
マリノはため息をついて、知ってるんだ、そう短く言った。
「スイは無事だよ。基幹部が無傷だったのが大きかった。機械化人間は生身の身体の生命活動と連動してるから……基本的には生身の心臓が無事なら、死ぬことはないんだけど……今はうちのラボで修理してる。……それでも破損が大きいから、時間はかかると思うけど」
「……そうか……」
それを聞いて安堵した。自分の身なんてどうでもいいみたいに、破壊されながらも戦う少女の姿が思い出される。
酷い傷だった。
ただ、まだ疑問は山ほどある。
ただの少女に思えたスイが、どうしてあの場所にいたのだろう。どうして、スイは戦っているんだ。
「……スイがなんであの場にいたか、だよね」
「……ああ」
俺の顔を見て、マリノは諦めたみたいに言った。
「もう知っちゃったなら隠さないけど。スイは軍直属の機械化人間で、軍の最高戦力なんだ。ああ見えて大の男10人がかりでも勝てないくらいに強いから、しょっちゅう前線に立たされて、しょっちゅう故障して帰ってくる」
「……」
「そのとき、いかに早く修理して、次にまた出すかが大事だから。うちのラボでスイの身体を引き取って、メンテナンスと修理をしているんだ。あとは私は……スイのケアというか、全体的な世話というか、そういう仕事もしてる。強くてもまだ子供だからね。一応持ってる看護師資格を買われて、スイのメンタルのケアもしてるんだ」
マリノの言葉に、脳がかっと熱くなった。
まるで、スイを道具のように扱っている。
ただの機械かなにかだと思って、あの子供を、戦場に立たせているのか。




