第十一話
アシュロンはキリイタの宿で手紙を書いていた。あて先は例によって帝都だ。
机にはアシュロンに当てて送られてきた二通の手紙が並べられていた。
一通はガルからで、連名で懐かしい名前がいくつも並んでいた。
一冬の間、ガルは帝都に滞在し続けたようで、さらに滞在を続けるという話だった。どういった経緯なのか詳しく書かれていないが、何故か帝都で用心棒をしているらしい。詳しい話は再会した際に教えてくれるということで、一度帝都に遊びにくるようにとの言葉で締めくくられていた。追伸部分は後から書き足したのだろうか、ナーニェも元気にしているようで、帝都で流行のお菓子を食べ過ぎて、少し太ったとガルがふざけて書いていた。
もう一通はニフィムの自筆だった。
『アシュロンさんは元気ですか?僕は元気です』
時候の挨拶もなく、唐突な一文から始まる手紙はところどころ文法の間違っている箇所が見受けられたが、普段の生活や新しく出来た友人のことを拙い言葉で並べ立てていた。
『アシュロンさんがいる場所は危ないと場所と聞きました、アシュロンさんなら大丈夫と思いますが気をつけてください』
ニフィムの書いた文字は、ミミズがのたくったような筆跡だったが、アシュロンの安全を気遣う言葉がアシュロンの胸に染み入った。
帝都を離れたのはアシュロンが自ら決めたことではあった。アシュロンは自分に決められないと思って、最後の選択肢を運に任せてしまったが、それを気にせず帝都に留まることも出来たはずだった。
アシュロンが帝都に留まらなかったのは怖かったからだ。アシュロンはいつからか、自分にとって本当に大切なモノをつくってしまうことに臆病になっていた。長く戦場に身を置いたためだろうか。もしくは、余りにも多くの戦友を失ってきたからだろうか。それとも他に理由があるのだろうか。
アシュロンは普段意識していない自分の内面を覗き込むことに躊躇した。そして、深く考える事を止めた。
『手紙ください。また、会いましょう』
ニフィムの手紙はその一文で締めくくられていた。
アシュロンは筆を手にしたまま、思い浮かばない文面に頭を悩ませていた。手紙にはあて先だけは書いてあるが、アシュロンはどういった言葉から書き始めようか迷っていた。
宿の部屋には蝋燭の明かりが小さく灯っており、窓の外は暗い。夜も遅いのか、酔客の喧騒も聞こえてこず、ちりちりと燃える蝋燭の灯心の音がやけに響いた。
アシュロンはどうせ明日も暇だと考えて、筆を机に放り出すと、墨壷に蓋をした。そして、大きく伸びをした後に、蝋燭に息を吹きかけて寝台に横になった。
夜明けまでまだ時間のある暗闇のなか、都市キリイタに早鐘が鳴り響いていた。
アシュロンは、体に染み付いた習慣からか、すぐに目を覚ました。
火事でも起きたのだろうかとアシュロンが部屋の窓から外の様子を伺った。都市の通りには、寝間着姿のまま、戸惑った様子の人々が溢れていた。
アシュロンは手早く身支度を整えると、傍らに置かれていたフレイルと円盾を腰紐にくくりつけた。円盾はかつての戦いで酷く損傷したが、すでに簡単な修理を終えていた。歪な表面までは綺麗に直らなかったが、盾としての機能に問題はなかった。
アシュロンが都市の通りに出ると、人々の囁きが聞こえた。
「どこぞで火事でも起こったかねえ」
「火事にしては鐘の音が四方からきこえるぞ」
通りで中年の男女か小さな声で囁きあっていた。
アシュロンが、しばらくの間、通りで様子を伺っていると、空気を震わせるやけに低い音色が遠く響いた。
帝国人の用いる喇叭の音色ではない。角笛の類だろうか、単調な一つの音色が、延々と都市を覆っていた。
アシュロンはその音色を聞いて、理解した。そして、周囲で慌てている住民達をそのままに、都市の外壁に走り出した。
アシュロンが外壁までの道をひた走る間に、簡素なチェインメイルに身を包んだ集団が金属鎧の兵士に率いられて、都市の外壁に向かっていた。キリイタの守備兵達だろうか。
アシュロンは彼らが誰何の声をあげるかと思ったが、どうやら彼らにそのような余裕はないようだった。アシュロン同様、外壁までの道を小走りに駆けていた。
都市キリイタの南西方向にある大門は夜間のために硬く閉じられていた。そして、その脇に備えられた階段からは、疎らに、キリイタの守備兵達が、弓を手にして駆け上がっていた。
アシュロンはどうにか自分も外壁に登って確認したかったが、兵士達も一人の傭兵に構っている時間が惜しいのか、なかなか道を空けてくれなかった。
アシュロンが焦れて頻りに周囲を見回していると、アシュロン以外にも、各傭兵団のなかでキリイタで留守を預かっていた者達が集まりだした。その間にも、都市の守備兵が外壁に登っていた。
アシュロンの背を力強く叩く者がいた。
「どうだ?様子わかったか?」
リーティアが若い傭兵達を引き連れて、アシュロンの背後に立っていた。
「わからん。無理やり登る訳にもいかないからな」
アシュロンが難しそうな顔で腕を組んだ。
リーティアはアシュロンの言葉を聞くと、周囲に集まっていた傭兵の中で顔馴染みの者達に声をかけ始めた。リーティアは長く半島に留まっており、珍しい女傭兵だったので、顔も広かった。
リーティアは何人かの傭兵に声をかけたあと、傭兵を連れ立って、都市の大門近くで指揮をとっていた守備兵の隊長らしき男と話を始めた。
リーティア達は、どうやら、傭兵の代表者を外壁に登れるように要求していた。隊長らしき男は、しぶしぶといった様子で傭兵達の要求を受け入れた。
リーティアがアシュロンに合図して、十人程の傭兵を連れ立って、外壁を登った。
外壁を登りきったアシュロンは、都市の周囲に広がる松明の群れに声を失った。予想していた光景ではあったが、実際に目にすると、その威容に飲まれそうになった。
アシュロンの目に写るのは無数に揺らめく松明の炎だけだったが、その数は数え切れないほどだった。
アシュロンが呆然と都市の周囲を眺めていると、暗闇を過ぎって、大きな黒い塊が都市に降り注ごうとしていた。
アシュロンは咄嗟に身を屈めた。周囲の人間も同じように慌てて身を屈めた。
黒い塊の一つは都市の外壁に届かず、轟音とともに地面に叩きつけられた。
都市の外周に据えられた篝火によって、地面を大きく抉る大岩が照らし出された。
続けざまに幾つもの大岩が都市に降り注いだ。外壁の上部に当たるものは稀で、その多くは都市内の建物に落ちて、建物を崩落させた。そして、一部の大岩は都市の通りに転がり落ちて、その下に鮮やかな赤い大輪の花を咲かせた。
キリイタに残った傭兵達が、都市の中心部に集まっていた。その数は全ての傭兵団を合わせても五百に満たない。
都市の領主がその傭兵達の前に立っていた。領主の周囲は、金属鎧に身を包んだ兵士が固めていた。
「力を貸して欲しい」
領主が疲れた様子で傭兵達に語りかけた。
キリイタは朝から断続的に続く攻撃を何とか耐えていた。しかし、都市の男手を精一杯集めても、一万に満たない。キリイタの周囲をそれに三倍する敵兵力が、囲んでいた。
帝国と異なり、都市領主に帝国の傭兵を強制する力はない。出来ることは依頼を出すことだけだ。
何故、このような状況になるまで敵の動きに気がつかなかったのかは、アシュロンに知り及ぶところではなかった。しかし、この戦いはどう見ても負け戦だった。
敵は幾つもの攻城兵器を準備していた。開戦に先立って、用いられた投石器はその一つでしかない。太陽が昇り始めると、幾つもの攻城櫓がその姿を現し、大きな破城槌が戦列の後方に控えていた。
敵はどうやら南西の門を攻略対象に選んだようで、戦力もその部分に集中されていた。
アシュロンは、傭兵の多くが向かったキリイタの南に位置する都市テタンも、これ以上の攻撃を受けているのかと思った。事実はアシュロンの予想とは異なるのだが、アシュロンにはそれを知る術がなかった。
領主の依頼に傭兵達は困ったような表情を浮かべていた。彼らにしてみれば、命を捨ててまで都市を防衛するようなつもりはない。しかし、キリイタが陥落、もしくは降伏を選択した場合の傭兵達の末路は想像したくないものだった。
都市の住民も悲惨だが、帝国出身の傭兵達は半島の独立派に目の敵にされていた。降伏しても良くて奴隷、悪くすれば憂さ晴らしに殺される可能性すらあった。
そのことを理解していた傭兵達の多くは、破格の報酬のためというよりも、自らが生き残るために、領主の依頼を受けることにした。
都市の全周囲にわたって、攻撃が仕掛けられていたが、中でも南西の大門付近は苛烈な様相を呈していた。
そして、都市に残った傭兵達の殆どが、その場所に投入されていた。
キリイタの守備兵達が弓弦を引き絞る傍らで、攻城櫓の接近に備えて、アシュロンは盾を構えていた。
飛び交う矢の量は膨大で、空には雲ひとつ浮かんでいないにも関わらず、矢が空気を切る音は雨が降っているのかと思う程だった。
傷つき倒れた者が、担架に乗せられて外壁を下ろされていく。
アシュロンの持つ円盾に矢が刺さる度に、アシュロンの手に微かな痛みを伝えた。矢の衝撃によるものではない。握力を強めるたびに治りかけの傷が痛むのだ。
攻城戦にも、緩急というものがある。矢戦は確かに損害を与えるが、決定打にはなりにくい。矢戦で敵の肉体と精神に損害を与えた上で用いられるのが、攻城櫓と破城槌だ。
外壁上に近づきつつある攻城櫓に、都市の守備兵が火矢を打ち込んでいたが、厚手の皮や濡らされた布でも貼り付けているのだろうか、攻城櫓が燃え上がることはなかった。
外壁の上に三つの攻城櫓が同時に跳ね橋を下ろした。そして、多数の兵士達が中から踊り出てきた。
アシュロンは先頭の兵士にフレイルを叩き付けた。兵士は衝撃にバランスを崩したのか、大きく体を揺らがせると、外壁の外に落ちていった。
その隣では、跳ね橋を渡り終えた兵士に、槍を突き出しているカリヤの姿があった。カリヤは器用に槍を兵士の喉下に突き込んで、素早く引き抜いた。兵士は溢れ出る自らの血で呼吸が出来ないのか、苦しそうにも首を掻き毟って、地面に倒れた。
離れた場所の別の攻城櫓の前では、リーティアが曲刀を振るっていた。リーティアの滑らかな動きとともに、兵士の片腕が切り飛ばされ、絶叫が周囲の騒音に紛れた。
現状はどうにか持ちこたえていた。それでも、傭兵達に被害がでないわけではないし、守備兵の被害も馬鹿にならない。
アシュロンは、いつまで持ちこたえることができるだろうかと考えながら、痛む手に歯を噛み締めながら、フレイルを振るい続けた。
攻城側の攻撃は苛烈で、都市の守備隊にも、傭兵にも多くの被害が出た。それでも、戦いの初日は、日没と共に終わりを告げた。
外壁付近には幾つもの焚き火が焚かれ。その周囲を疲れきった者達が囲んでいた。
アシュロンも、焚き火の内の一つを囲むように地べたに座り込んでいた。額には倒した相手の血が、拭われもせずに、固まり始めていた。
キリイタで留守を預かっていた傭兵達も大分その人数を減らしていた。戦いが始まった当初は五百に満たない程度の傭兵がいたにもかかわらず、周囲に見える傭兵の数は、二百を切っていた。全てが死んだわけではないが、戦いに参加できないほどの傷を負った者達は、都市の中心部で治療を受けていた。
アシュロンと同じ傭兵団に所属する若い傭兵達も随分と少なくなっていた。
傭兵達の被害が殊更大きかったのは、最も激しい戦いが繰り広げられた南西の大門付近に投入されたためだった。もちろん、キリイタの守備兵の被害も途轍もないものだったのは言うまでも無い。
アシュロンが疲れた体で、ぼんやりと焚き火の炎を眺めていると、背負い袋を肩にかけたカリヤが、小さな樽を手にして近づいてきた。
カリヤは無遠慮に、アシュロンの隣に腰を下ろした。
「こんなもんしかなかったッス」
カリヤが言葉を口にしながら、焚き火を囲んでいた仲間達に食べ物を配り出した。赤い果物や焼き固められたパン、そして固そうな干し肉。都市の中だというのに、カリヤが配り出したのは冷たい食べ物ばかりだった。
しかし、皆疲れきっているのだろうか、文句も言わずに渡された食べ物を口にした。
「あれ?姐さんは?」
カリヤが不思議そうな様子で周囲を見回していると、疲れた表情のリーティアが焚き火に近づいてきた。
アシュロンは、こんな時でも変わらず、リーティアは例の習慣を続けているのだろうかと、心配になった。いつ死んでもおかしくない状況で、死者に構うような姿勢はアシュロンには理解できなかった。
リーティアは、適当に空いている地面を見つけると、悲しげな横顔のまま、地面に腰を下ろした。そして、口を引き結んで、炎を見つめた。
焚き火の爆ぜる音が周囲の重く沈んだ空気の中で響いた。
誰も彼もが精気の薄い表情で、渡された食べ物を咀嚼していた。
カリヤだけが、皆が疲れた様子の中でも空元気を見せ、沈んだ仲間達を励ましていた。しかし、そのカリヤも、周囲が励ましに応えられずにいるうちに、次第に口を開かなくなっていった。
皆が口を噤んで、焚き火の炎を見つめていた。それはなにもアシュロン達だけではない。周囲のほかの傭兵達も、外壁付近にいたキリイタの守備兵も同様だ。守備兵の中には、自分の暗い未来を想像してか、すすり泣く者もいた。
何時の間にか喋らなくなっていたカリヤが、コップをアシュロン達に配り始めた。そして、近くに置いていた小さな樽から酒を注いでいった。
人数に対して小さな樽からは、一人当たり、一杯分の酒しか注げなかった。
アシュロンはそのコップに注がれた液体を見つめた。強烈な甘い匂いを放つ、濁った黄土色の液体が、アシュロンに、リーティアと共にした屋台での出来事を思い出させた。
アシュロンは、リーティアがこの酒を嫌がるだろうかと思って、視線を向けた。
しかし、リーティアは確かめるようにコップを傾けると、一息に酒を飲み干していた。
アシュロンはその様を見て驚いた。
「お前、甘い酒は苦手じゃなかったか?」
アシュロンが不思議そうな様子で尋ねた。
リーティアは質問の意図が理解できずに、首を傾げた。
「甘い酒が嫌いかって?嫌いなわけ無いだろう、こんな美味いもの」
リーティアが当然といった様子で答えた。
「いや、だって昔から……。それにこの前も……」
「甘い酒は太るからな」
アシュロンが言い募ろうとすると、それを遮るようにリーティアが恥ずかしそうに口にした。
「そんなこと気にしてたのか」
アシュロンが場に似合わない笑い声を上げた。
「あのな~、私も曲がりなりにも女なんだぞ?」
リーティアが抗議するように言った。
周囲の若い傭兵達がアシュロンに釣られるように、忍び笑いを漏らしたが、リーティアに睨まれるとすぐに顔を引き締めた。
「それなら、甘い菓子とかも好きなのか」
アシュロンが冗談ぽい口調でリーティアに聞いた。
「嫌いじゃない」
リーティアーはどこが不満げな表情で、問いに答えた。
アシュロンは、そうだったのかと呟きながら、ガルが遣した手紙の追伸部分を思い出していた。
「今、帝都では甘いクリームを挟んだ焼き菓子が流行ってるらしいぞ」
アシュロンは気を紛らわすために、世間話をし始めた。
「お前、帝都に友達なんているのか?」
リーティアが不思議そうな表情を浮かべた。
アシュロンは照れくさそうに首を縦に振った。
「お前に連絡を取り合う友達か。随分、昔とは変わったな」
リーティアはどこか嬉しそうに言った。
「どうだ、この戦いが終わったら、一緒に帝都見物にでも行かないか?甘いものが好きなら、その菓子とやらでも食べようや」
アシュロンはリーティアを気遣うように口にした。
しかし、アシュロンの言葉に、リーティアは困ったような表情を見せるだけだった。
「姐さんだけ誘うなんてずるいッスよ。俺も一緒に連れてってください」
カリヤが声を上げると、若い傭兵達も口々に、俺も俺もと言い立てた。あれだけ沈んでいた若い傭兵達に、少しだけ元気が戻ったようだった。
それでも、リーティアは困ったような表情のままだった。
「誘いはありがたいけど、それもこの戦いが終わってからだな。生きてたらその時にまた誘ってくれ。戦いの前にくだらない約束をすると、何故か知らんが大抵死ぬからな」
リーティアがおどけたように言った。
「お前、変なジンクスを信じてるんだな」
アシュロンが呆れたような表情を見せた。
リーティアの言葉を聞いたためか、若い傭兵達の多くが、アシュロンと小さな約束をすることをためらった。
「俺はそんなの信じてないッスよ。この戦いが終わったら兄さんと一緒に帝都に行くッス。そのときは、流行の菓子を腹いっぱいになるまで奢ってもらうッス」
ためらいを見せた傭兵達の中で、カリヤだけが威勢の良い言葉を口にした。
アシュロンは、自分が言葉にしていない奢りの件まで約束に含んだカリヤの言葉を、苦笑い交じりに聞いていた。
キリイタの外壁上では、篝火が大きな炎を上げて、都市の周囲を照らそうとしていた。その間を縫うように、都市の守備兵が数人の組を作って、敵に動きがないか警戒しながら巡回を行っていた。
都市の守備側には幸いなことに、夜空に満ちた月は、篝火とともに都市の周囲を仄かに照らし、敵に動きが無いことを教えてくれていた。
外壁の付近の焚き火では、日中の疲れからか、兵の多くが深い眠りについていた。
時刻は真夜中だろう、本来であれば誰もが眠りについている時間だ。
アシュロンは、もぞもぞと自分の体に寄り添う何かの動きに気がついて目を覚ました。そして、アシュロンの寝ぼけ眼に、後頭部で一つに纏められた茶色ががった髪が写った。
「少しだけ」
リーティアの声が、アシュロンの耳に小さく聞こえた。
リーティアはアシュロンの太い腕を抱くようにして、アシュロンに寄り添って横になっていた。
アシュロンの太い腕を伝って、リーティアの体の振るえが微かに伝わった。
冬の終わりの空気は、夜といえども身を震わせるような寒さではない。それでも、アシュロンの腕を伝う微かな震えは続いていた。
アシュロンはその震えに気がついても、何も言えなかった。そのかわりに、リーティアの震える体を優しく抱き寄せた。
アシュロンの太い腕が、リーティアの頭を抱えるように包み込むと、微かな震えが次第に弱くなっていった。
気丈な女傭兵が、この時垣間見せた弱さに気がついたのは、アシュロンと夜空に浮かぶ満月だけだった。




