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#9.因縁

 1週間も経つと朝練といえども流石に体が慣れたもので、自然と練習風景を見れるようになってきた。

 今も朝日が昇ってすぐの時間帯、季節は冬。

 土地の高いこの場所で吹く風は少し冷える。


「――短絡展開【ライズヘブン】」


 気が付けば、目の前から山風よりももっと強く風が僕の前から吹き抜けた。


 今日も僕はシエラが放った【ライズヘブン】を見ている。

 初めに使っていた時よりも発動時間が短く、規模もそれ相応まで抑えられている。

 今、僕があれに手を突っ込んだとしたら服がズタズタに切り裂かれるくらいで済むんじゃなかろうか?


「おー、大分いい感じだ」

「……また、雑ですね」

「シエラも僕に慣れてきたみたいで嬉しいよ」

「そうでしょうか?」


 うん、言葉遣いに何か敬う感じが取れてきた気がする。

 親しみやすいって意味ではあり、というか師匠ッ! って敬われる感じに僕が慣れてない。


「って言っても、修行はちゃんと付けてるでしょ? それにシエラも真面目に修行やってし」

「適当では?」

「いや、流石にそれはないから」


 訂正させてもらうと、短絡展開コーディングについては理屈っぽいこと言っても伝わんないだろうから、兎に角体動かさせてるってのが正しいかな。


「アル師匠。そろそろ、この練習に何の意味があるか教えて欲しいんですけど」

「ん? 魔術の起動が早くなっただろ」

「それは規模や魔力を抑えたからでは?」

「残念ハズレ」


 違うんだな、それが。

 規模を抑えたくらいでは魔術の起動は変わらない。

 同様に魔力の込めるは威力は変わっても、変動する展開速度は変わらない。


「魔術の起動時間は使う魔術の複雑さが肝なんだ」


 それを理解するのに最も簡単な実験は宮廷魔術師団で行われたものだろうか。

 使用された込めた魔力が違う同じ魔術の途中経過時間ラップタイムを計測するという実験だ。

 その時、同等の魔力消費における時間はほぼ誤差がなく、魔力と時間の関係は一定であった。

 魔力量と規模はお互いに比例関係にあることから今までは時間と関係すると思われていた。

 その実験を機に規模と魔力は起動時間に影響することがないことがわかっている、ってね。


「そろそろ座学といこうかな」

「理屈を最初から教えてくれればやりやすかったんですけど」

「うーん、でもこればっかりは工夫してみて欲しかったんだよね」


 だから、規模を小さくしてみたり魔力を抑えたりしてみたんだよね? と、僕が聞くとシエラは黙って頷いた。

 その試行錯誤が必要な事なんだよ。


「答えを言っちゃうと、1番大事なのは慣れだよ」

「慣れ、それだけですか?」

「うん、それだけ」


 特に短絡展開コーディング関してはそう言える。短絡展開コーディングをする時、大体1から魔術を考える癖がついているかもしれない。

 槍の形だから、矛先は尖っててとかそんなところからそんなところから考えてるやつは割と多い。

 まぁ、魔法陣の場合は形状が最初から記録されてるから、状況反映の時に考え直すだけでいいし、魔術を作る人間としては困らないんだけど。


 短絡展開コーディングを使いこなすにはそのやり方では大成出来ない。


「問題。ファイアランスや、アイスランスなど属性が違うだけで殆ど同じような魔術が世の中に蔓延る理由は?」

「えっと、真似しやすいから?」

「正解!」


 属性を変えるだけでいいというのは、形をそのまま転用できるということだ。

 つまり、パクりやすくて作りやすい。


「魔術は完成系を想像するんだ」


 槍はこれ! 剣はこの形!

 そう頭の中で直接結びつけることが大事なんだ。

 だから、何度も【ライズヘブン】を使わせた。

【ライズヘブン】という魔術の形を頭に叩き込む為に。


「魔術師に必要なのは決定打だ。それも素早く出せる自分の代名詞的なものがね」


 残念ながら、僕には手っ取り早く強くなる為にはやっぱりどう頑張っても最終術式プリセットのようなものがないと駄目だと思っている。


 もし、シエラが初めて【ライズヘブン】を放った時のような威力を撃てばその時よりもより早く、強く魔術を放てるようになっている筈だ。

 この魔術が君の代名詞になってくれる。


「最強に必要なのは代名詞だよ」

「この魔術を使いこなせってことですか」

「そそ、この調子で頑張っていこ」


 何かいい感じに調子が戻ってきたシエラに僕は満足してまた、見学に戻る。


 幸いなことに短絡展開はまだ1年生で習ってないからこんな何の変哲もない授業のようなものでもそれなりに力になってくれた。


 あとは何をすればいいのか。

 正直、きちんと最後まで道筋が立っているとは言い難い。

 僕の記憶の中には幾つか知っている技術はあるけれど、それを教えると急に何度が跳ね上がる。


 もう少し段階を踏みたいし、体系的に教えるには身につけた人間に聞きたいところだけど……さて、どうするか。




 僕が頭を捻っている時、珍しくも階段から誰かの足音が鳴った。


「誰かな?」


 彼はこちらの存在に気が付くと、僕ではなくシエラの姿を見て声を掛けてきた。


「久しぶりだな、シエラ」

「……コドルさん」


 パッと見、胸のシンボルカラーが示す色は2年生つまり、シエラとは1つ年上だ。


「君、名前は?」

「コドル=コレット、そいつの友人の兄と言ったところだ」


 それにしてはシエラの表情が気になるけど、この会いたくなかった相手に会ってしまったと言った表情はなんだろうか?


「こんな朝っぱらから学校に何の用事?」

「俺は逃げ出したやつが、今更力を求めてると聞いて見に来ただけですよ」

「ってことは、この修行は割と周知の事実なの?」


 まぁ、朝から魔術撃ってたら人目に付くこともあるか。

 この2人の間でしか分からない話なんだろうな、と思って僕からは口は挟まないけど、黙りを決め込むシエラの姿が気になった。


「シエラ、お前が何でこんなことやってるかは容易に想像が付く」

「……」

「俺はお前がまだ、この学院を辞めていないことに驚いている。魔法陣が組めないお前が引き起こす結末は同じだ」


 どんな理由があってそうなっているのかは知らないけどね、僕はあんまり良くないかな。

 自分が育ててる生徒を馬鹿にされてるのは気持ちがいいものじゃない。


「それでも私はあの子と約束したから」

「そこまで言うのであれば見せてみろ!」


 結構はこの話って結局個々人の弱い強い話の話に帰着するのか。

 というか、僕の知らないところで話を進めないで貰えるかな。


 シエラに近付いてきていたコドルの腕を掴んで止める。

 僕は丁度、2人の間に割って入った形になる。


「ストップだ」

「アル師匠?」

「戦いたいなら、僕が場を設けるよ」


 丁度いい、短絡展開コーディングの理論として僕が教えられることは少ない。

 空いた時間を戦術を組み立てることに使えると言うなら、こっちとしても望むところだ。


「わかった、乗ってやる」

「1週間後だ、また決まったら言うよ」

「シエラ、次にあった時お前は自身の無力さを痛感しているだろうな」


 聞き分けがいいことに、彼はそれだけを言い残して去っていく。

 聞き分けが良くて助かるよ。

 別に当人自体も悪い奴ではないのかもしれない。

 単に感情が制御しきれていないだけで。


 1週回って表情に出ていない悲しんでいるのか、怒っているのかも分からないような顔をしている当たり、僕みたいな他人からじゃその心中は伺いしれない。


「で、シエラはやる? 戦い」

「先生が決めたんじゃないんですか?」

「本人が嫌って言うなら無理にはやらせない」


 ま、その場合はごめんなさいをしにいこうかな。

 場所取れませんでしたで何とかなるといいけど、多分キレる。

 最悪、僕が晴らせるならそれでもいいんだけど。


「アル師匠」

「ん?」

「私、勝てると思いますか?」

「不安なの?」

「コドルは私より強いですよ」

「強いから勝てないって?」


 最強は常勝であるか? には、僕は否を返そう。

 強さだけが勝利に結びつくわけじゃない。


「最強になりたいと思っているなら、心構えを1つ。必ず勝てる相手と戦うことが最強じゃないんだよ」


 ただの心構えだけど、それでもこれがないと至るのは最強じゃなくて格下狩りだ。

 現状、上が沢山いるのに勝てと確信したから戦うのじゃ、競技祭には勝てない。

 そういえば言ってなかったな。


「僕はシエラに競技祭に出てもらおうと思っている」

「競技祭って学園祭の?」

「年末にある学園祭の演目の1つ」


 全学年混合の魔術戦闘におけるこの学園のメインイベント。


「そこで勝てれば少なくとも名実ともに学園最強だ」

「学園最強……」

「僕は出なかったからって失望、なんてことはしないよ」


 とはいえ、そうなると別の人間をどうにかして成果出してもらえるくらいに育てなきゃ行けなくなるけど。


「やる?」

「やります。私は諦めるってことはもう止めたので」

「嫌いじゃないよ、その負けず嫌い」


「取り敢えず、接近された時の対応からかな」


 目下の課題はコドルに近付いた時シエラ対応は全く反応していなかったことだけど。

 丁度いいことに近距離戦闘のできる練習相手。

 僕でもお願い出来る人が1人だけいるんだよね。

次回も19:00~です。

よろしくお願いします!

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