#8.即興師
僕が魔術を教えることが決まると、明日からじゃなく今やろうとなった。
「僕は君の師匠になるわけだ」
「はい、よろしくお願いします。アルフォンス師匠!」
「あはは、アルでいいよ」
個別に指導をする場合のノウハウは少なからずある。なら、今回もそれに則って進めていこう。
魔術師が戦略を組み立てるとき、どのようにして自分の戦略をどのように確立していくのか。
これにはいくつかの諸説はある。
例外があるんだ、だけど多くの人間は恐らく最終術式であると、答えるだろう。
「早速だけど、シエラに聞きたい。君はどういう最終術式を組んでいるの?」
学生であろうと、大人だろうと魔術師であれば最終術式は組んでいる筈だ。
これについては見せてくれなくても構わない。
魔術師にとって奥の手である最終術式を見せびらかすことは対策される可能性が増えることを意味する。
最終術式とは文字通り必殺技、見せたら殺せと言われるくらいには魔術師にとって大事なものだから。
偶に継承という形で最終術式自体を師匠から或いは親から引き継ぐ場合もある。
そういう魔術に関しては知名度が高い場合もあるけど、それは本当に例外。
そういうのは知られても強いし、何なら知られてる前提で戦術組んでくるし、そのノウハウもとんでもないから実はかえって厄介だったりする。
そういう例外を除けば、最終術式を知られるということはその魔術師の戦術を読み取られる可能性がある。
それはさておき。
魔術は大まかに3つに分けられる。
攻撃用、防御用、補助用の3つだ。
この形さえ分かればどんな魔術が自分に足りていないのか。
また、どういう風にして最終術式にまで持っていくか。
戦いの道筋を考えるところから戦術というのは始まっていく訳だ。
僕の師匠としての仕事は彼女に戦い方を教えること。そして、魔術の戦略を組む手助けをすることにある――
「――組んでません」
――ストップ。
予想外の返しが来た。
1手目から既に詰まり始めてる。
「何で?」
必殺技を作るというのは自分の戦い方を決めるという点において大きな役に立つ。
決定打のない魔術師ほど怖くない敵もいない。
なら、利点は多い。
それを捨てざる得ないような理由が存在するのか?
「私、魔法陣が組めないんです」
「……」
魔法陣が組めない、組めない?
ただ、授業でやった時【フレア】の短絡展開は難なく行っていた記憶がある。
……考え方が逆なのか?
短絡展開しか、出来ないのか?
「多分、見せた方が早いですよね。少し見ててください、魔法陣、起動、展開【フレア】」
展開された魔法陣に特に不具合は見つからなかった。だけど、魔法陣は形が崩れて霧散した。
――魔法陣自体の形が壊される、じゃなくて崩れるところを僕は今日、初めて目にしたよ。
「魔法陣組めないのに最強になりたいね……とんでもないこと言ってる自覚ある?」
世の中の大半の魔術師は魔法陣を使う。
使うだけの利点が存在するからだ。
魔法陣を使った魔術の方が安定する、そして待機されることが出来る分複雑な魔術を早く展開できる。
これはそのまま最終術式を使う利点と言っていい。魔法陣を捨てることはその利点を完全に捨てることと同義だ。
「確かに魔術師として、魔法陣が組めないことは致命的かもしれません」
自分でもわかっている、と吐き捨てるがその目はとても諦めているような人間の目ではない。
「だから、別の可能性を模索したこともあります」
別の道というのものが僕には何を指すのかわからない。
魔法陣を使っている立場からすると、使わないというのは有り得ないと思うくらいには過酷だ。
だけど、それでも別の道を捨てて再び茨の道に戻ってきたというのであれば。
「それでも、諦められなかった」
僕は君ほど背中を押したいと思う人間もまたいないよ。
「私は最強になりたい」
「おーけー、わかった」
「先生は笑わないんですね」
「誰が人の夢を笑うか」
時として、先輩は無理な夢に無理と叩きつけることが重要だ。冒険者の時はそうだった。
届きそうもない大層な夢をヘラヘラ笑って掲げてるような傲慢なやつほど早死する。
だけど、ここは魔術学院なんだろ?
なら、別に夢を追ったっていいだろ。
それにそういう大層な夢を馬鹿みたいに愚直にやろうとするやつは本当にやる。
「取り敢えず、実力を測ろうか。自分の出来る限り1番強いと思う魔術を空に放って欲しい?」
「えーっと」
「よく考えてよ」
シエラは目を閉じて考え始める。
その間に僕は僕がなすべきことを考えるとするとしよう。
第1目標、最強を目指すというのであればその足掛かりとして、年末に行われる競技祭。
そこでトップを取ってもらうことを目標に据えよう。
「決まりました」
「よしっ、じゃあ撃って!」
「はい、短絡展開――」
やっぱり、魔法陣を組む時とは違って発動に時間がかかる。しかし、その分組まれていく魔術に注がれる魔力は膨大で綿密だ。
「――【天まで届け】!」
大空へ向かって、刃のような風が逆巻くようにして大きな円を描きながら放たれる。
間違いなく、あの魔術に触れたズタズタに皮膚を引き裂かれること請け合いだろう。
「どうでしたか? アル師匠」
「そうだね……」
これだけの魔術が短絡展開で使えるというのならいくつか手段はある。
「出来ないことはないことはない……かな。一先ず、即興師を目指そうか」
「即興師……って何ですか??」
「あー、この呼び方一般的じゃない?」
『アルストロメリア』とは違う。ラシェルと旅をしていた頃に1人だけ見たことがある。
詩人として僕たちについてきたそいつは短絡展開を多用している自分の役割をそう評していた。
僕もそれに習ってそう呼んでいるだけだから、実は一般的では無いのだろう。
「魔術師の中でも特殊だし僕も1人しか知らないけどね。短絡展開しか使っていない魔術師のことをそう呼んでる」
多彩な魔術を状況にあった形で作り出す。
対応力が高く、魔術の速射性も高い。
その反面、やっぱり決定打がないという問題点はあるけれど弱点は克服できる。
「君にはこの一週間、さっきの魔術以外の魔術についての勉強を禁止する」
「あのー、先生授業は?」
「……それはノーカウントで」
授業は、授業でちゃんとやるから。
自分で勉強する時は【ライズヘブン】だけ触っておくように言い含めておく。
「もう日も落ちてきたし、そろそろ終わろうか」
「ゼェゼェ……」
あれから何度か【ライズヘブン】を使わせたけど、使えるならで1番強い魔術と言うだけのことはある。
既に魔力切れになりかけだ。
「うん、まぁいい感じゃないかな? そういえば、家どの辺?」
「家ですか? 王都の端っこの方にある宿屋の一室借りてます」
「あー、なら、朝も行けるね」
「えっ」
何を驚いているのか、3ヶ月しかないんだから……って、それはこの子には言ってないのか。
まぁいいや、短期間で育てるには出来る限りのことはやってなくちゃいけない。
「じゃ、朝はここに集合ってことで」
「朝って、どのくらいですか?」
「そうだね……うん、朝日が昇るくらいの時間にしようか」
「えぇえええ!?」
「君にそのやる気があるならね」
正直、即興師本人に聞いてみたいところだけど本人は流浪の詩人名乗って各地彷徨いてるから連絡がつかないし。
育成論は自分で考えないと駄目って考えると、これはまた大変だな……。
「やります!」
「いい返事だね、じゃあまた明日ね」
僕には行くところがあるんだった、危ない危ない。
忘れるところだった。
そうして、僕は閉まりかけのケーキ屋に滑り込んだ。
その先は幕間ですのでそのうち上げます。
多分ここから先も毎日投稿続くんじゃないかな




