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01.カーフェルトへ。

頂いたリクエストから、リクとフェリの新婚生活のお話です。

 ガラガラと馬車の車輪の音が響く。フェリーシャはそっと顔を上げた。ばちっと向かい側に座ったリクと目が合ってしまう。ふわっとリクの顔が甘い笑みが浮かぶのを見ると、フェリーシャはばふっと一瞬で顔面に火が付いたように赤くなり、慌てて視線を膝に落とした。


 再会した日は、あまりに突然で、驚きすぎて、嬉しくて、感極まってしまっていたのだが、こうしてひと段落し、落ち着いて向かい合うと、途端に恥ずかしくてどうして良いか判らない。


 二人は今、アルゼール王国を離れ、カーフェルト竜王国へと向かう馬車の中に居た。


 再会を果たした翌日には、王宮から婚約解消受理の通知が届けられ、同じ日に父が城へ訪ねて来てカーフェルト国王からの結婚の申し入れを受けた旨を聞かされて、女官にせかされ荷物を纏めその日のうちに後宮を出て、王都にあるタウンハウスに戻るなり友人知人が押し寄せリクとの事を根掘り葉掘り問いただされ、やっと解放されたと思ったら今度はカーフェルトへ向かう為の準備、と、ばたばたと慌ただしく時は流れて、じっくり状況を噛みしめる余裕も無かった。


 が、今はカーフェルトに向かう馬車の中。馬車の後ろには5台の馬車がガタゴトと連なり、馬車を囲むように馬に乗った騎士が3人同行している。舞い上がった両親が今までの放置が嘘の様にこれでもかと花嫁道具を持たせてくれて、更に王子の件での詫びも兼ねてだろう贈り物も山の様に積まれ、屋敷からはずっと一緒に過ごして来た侍女のクレアの他二人の侍女とリクが自国から連れて来ていた護衛の騎士が3人同行をしている。


 こうして沢山の馬車を率いて大勢の民が見守る中走る豪奢な馬車の中で向かい合っていると、まだ夢でも見ている様ではあるけれど、じわじわと実感が沸いて来る。

 フェリーシャはこれから隣国である歴史のある大国、カーフェルトに嫁ぐ。それもずっと想い焦がれた初恋の相手の花嫁として。


 初めて会った時は貧しい孤児の少年だった彼は、その面影を残したまま、驚く程に見目麗しい青年に成長し、我ながら良く一目で彼だと判ったものだと感心する。特徴的なその瞳のせいだと言われればそれまでなのだが。

 昔の、どこか頼りなげな雰囲気は消え、その眼差しは凛と涼やかで、生粋の王族として育ったと言われてもすんなり信じてしまいそうな程、その所作は優雅で気品がある。艶やかな黒髪もきめの細かい肌も、美しく筋肉の付いた身体も、あの頃の面影は残していない。一体誰がその青年を、平民の、それも貧しい家の少年だったと信じるだろうか。


 フェリーシャでさえ、未だに信じられない思いだった。一体何がどうすると人間此処まで僅か数年で変われるのか。

 その絵本から抜け出した様な美しい王子様──もとい王様が、その神秘的な相貌に甘い熱を含ませて自分を愛し気に見つめてきたりなんかした日にはもう──


「は…反則だわ…」


 どん底に落ちたと思ったら天高くまでぎゅーんっと上がって、精神的にも上下にぶんぶんと振り回されている様で、状況に付いていけない。いくら何でも美しく育ちすぎでしょう。心臓が持たないわ。フェリーシャは思わず小さく呟くと耐え切れずに顔を両手で覆った。


***


 どれほど、焦がれた事か。どれほど、眠れない夜を過ごした事か。──どれほど、この時を待ち望んだ事か。

 一度は、諦めるしかないと思いもした。どうすることも出来ないのだと。自分の身分を恨みもした。何も出来ない自分が情けなくて悔しくて、心が引き裂かれそうだった。いっそ死んで来世に掛けるかと馬鹿な事を考えた事さえあった。彼女を想わない日など、1日として無かった。

 彼女の存在は、気づいた時には自分の生きる意味だった。今こうして目の前にしていても、まだ都合の良い夢を見ているのではないだろうかと不安になるほどに。


 カーフェルト国王、エドゥアルド=リク=ド=カーフェルト──リクは、目の前で頬を赤く染め、恥じらう様にもじもじとするフェリーシャに胸の奥が熱くなる。幼い頃の想いの比ではない、燃え上がるような感情は、押さえる事など到底出来る筈も無かった。

 想い焦がれ、失うくらいならば命さえも要らないと思った愛しい少女が今目の前に居る。それも、もうすぐ自分の花嫁になる。今度こそ、誰にも奪われることなく、自分のものになる。本当は腕の中に閉じ込めて、片時も離したくなかった。それをしないだけ、自分なりに随分と我慢をしていると思う。恥じらって顔を覆ってしまったフェリーシャの愛らしさに思わずリクは破顔した。

 小さな蕾が花開いた様に美しく成長したフェリーシャは、昔の威勢はどこへやら、何とも儚げで外見の愛らしさに相まって庇護欲をそそられる。愛する少女が自分を想い頬を染め恥じらう姿を見て嬉しくない男など居るはずが無い。


 リクはくすくすと笑うと、顔を覆っているフェリーシャの手をそっと握った。


「フェーリ。フェリーシャ。そんな風にしたら可愛い顔が見えないでしょ?」

「うぅ…。だって、リクずるい…。こんなに格好良くなってるなんて思わなかったもの…」


 眉を下げて上目でそっと見上げて来るフェリーシャのなんと愛らしい事か。堪えきれずにリクは走る馬車の中で、くるっと向きを変えてフェリーシャの隣に腰を下ろす。顔の距離がぐんっと近くなり、フェリーシャの顔は熱でもあるのかというほどに赤く熟れる。

 リクは握ったフェリーシャの指に自分の指を絡めた。


「フェリだってこんなに綺麗になってるとは思わなかったよ。…本当に、綺麗になった」


 そっとフェリーシャの頬に触れると、フェリーシャは少しだけ甘えるようにその手に頬を預ける。一体どこまで好きにさせれば気が済むのか。愛しすぎて窒息しそうだ。


「リクは、カーフェルトでどんな事をしていたの…? 凄く、変わったわ」

「嫌いになった?」

「まさか。その…もっと、好きになった、よ…?」


 恥ずかしそうにそう告げるフェリーシャに堪えきれず、頬に口づけを落とす。きゃぅっと可愛い悲鳴が漏れて、リクは小さく笑った。

ご閲覧・ブクマ・評価 有難うございます!大変お待たせしましたっ(土下座!)なろちゃさんからのリクエストにお応えして、リクとフェリの新婚生活のお話です。中々時間が取れず申し訳…tt 時間取れ次第随時更新します!

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