アメリアの場合。
アメリア視点のお話です。
欲しいものは、何でも手に入った。
私がいう事は、何でも思い通りになった。
綺麗なドレスが欲しいと言えば、買って貰えた。
綺麗な宝石は、こぞって贈られた。
お父様もお母様も私を甘やかしてくれた。
私の家はお金持ちだったし、私は容姿にも恵まれた。
意地悪を言う人も居たけれど、私は負けてなんてやらなかった。
嫉んで来る人も居たけど、負けなかった。
私は自由に生きるの。そうして、もっと上に登りつめてやるわ。
平民の娘で終わるような女じゃない。いつか頂点に登りつめて見せる。
王宮の高みから、下を見下ろして、高笑いをしてやるんだ。
***
私の名は、アメリア。私の家は、金貸業を営んでいた。私の家はとても嫌われていたわ。
それまでの私は、強欲親父の子だとか、寄生虫だとか、悪魔の家の子だとか大人も子供も私を蔑んだ。
醜い赤毛だとか、そばかすだらけの顔も良く揶揄われた。悔しくて、悲しくて、私は良く、泣いて帰っていた。
こんな仕事やめてと父に何度もお願いをしたけれど、その度に殴られたわ。
でも、父が招かれた夜会で子爵に商才を見出され、貿易に手を出して、その事業が大当たりをして、この街で一番の貿易商となったのは数年前の事。
子爵が父を気に入ったのは、半分は私のお陰。私は幼いながらに目が効いたの。私がこれが素敵と言ったものが、当たったから。
父は私が欲しいと言えば何でも買ってくれるようになった。私は買って貰ったドレスや宝石を身に着けて、商人のお茶会へと父に連れられ母と共に出向いたわ。
母は美しい人だった。私が素敵と言ったドレスを纏い、宝石を身に付ければ、裕福な商人の奥方達は挙ってそれを欲しがった。流行を次々と生み出して、私の家は見る見る間に大きくなっていった。
父の事業が成功すると、周りの態度は一変し、誰もが私に媚びを売る様になった。
偉そうに私を見下していた大人たちは、私を可愛いと褒めちぎり、息子の嫁にと猫なで声で私に言って来るようになった。
女の子とは、仲良くなれなかったけれど、男の子とは仲良くなれた。私の頬からはそばかすが消えて、男の子たちは私を女王様の様に扱ったわ。
毎日届けられる花。沢山の贈り物。次々と婚約の釣書が届けられる様になったわ。
父にももう負けなかった。贅沢をし過ぎだと言われても、父が私に手を上げようとしても、私はこういえば良いだけ。
「それなら私はもう素敵なものを見つけてもお父様には教えてあげない」って。
私は自由を手に入れた。望むものは、なんだって手に入った。お金も、ドレスも、宝石も、男の子も。
今まで私を見下して来た子達を、今度は私が見下してやった。売られた喧嘩は買ってやった。
誰にも文句を言わせないだけの力を、私は手に入れた。
子爵が私を養子に欲しいと言い出したのはそんな折。父はすんなりとそれを受けた。
勿論私もそれを受けた。そうして子爵に強請ったの。王宮に上がりたいって。
貴族の地位も手に入れたわ。次は、私、本物の女王様になりたいの。
誰も私に口答えなんて出来ない女王様に。
***
初めて会ったセルジオ王子は、商人の子なんて目じゃないくらいに綺麗な人だった。
私、彼が欲しいわ。婚約者なんて関係ない。それなら奪ってしまえばいいのよ。とっても、簡単な事だわ。
セルジオ王子は、直ぐに私に夢中になった。商人の子と同じだ。私が拗ねれば王子は直ぐに慌てて私のいう事を聞いてくれた。甘い愛の言葉を囁いてくれた。私は男の子にちやほやされるのは好きだった。
褒められて嫌な子なんて居ないでしょう? それの何が可笑しいの?
女の子たちがきゃんきゃん吼えて来るのも、商家に居た頃と同じ。そんなものに、私は負けてなんて上げない。
私は自由なの。私は私が思うとおりに生きるわ。今は私を馬鹿にしていればいい。非常識だと罵ればいいわ。直ぐに、何も言えなくさせてあげる。
堅苦しい貴族の在り方なんて叩き壊して、私がこの国の当たり前になるの。そうすれば、誰も私に文句なんて言えないでしょう?
王子さえも思い通りに動かせる。セルジュの心は私のもの。次期王妃の座は私のものよ。フェリ様になんてあげないわ。
私が女王様になるの。ほら。私が望んだ一番上の椅子は、もう手の届く処にある。
手の届く処にある──はずだった。
***
「ちょっと! 何でよ!? やだ! 触らないでよッ!」
デビュタントの日。私に喧嘩を売ってきたのはあの子なのに。何故私が捉えられなきゃなんないのよ。私は女王様になるのよ。不敬なのはそっちじゃないの。
私は抵抗したけれど、あっという間に屈強な騎士に腕を捻り上げられて悲鳴を上げる。
何で? どうして? 今まで全部上手く行っていたじゃない。欲しいものは何だって手に入ったじゃない。私は新しいお父様を見た。お父様は苦々しい顔で顔を背けている。王子のセルジュも抑えられている。私が蹴落としたはずのフェリは宝石の様な瞳の綺麗な王様に手を取られて、嬉しそうに涙を浮かべている。何で? 何でよ?!
──ガシャーン……──
牢の扉の冷たく閉ざされる音が、私の終わりを告げている様だった。
***
きっと直ぐに、セルジュが私を助け出してくれる。そう思っていた。なのに、いつまで経っても彼は来ない。私に言い寄ってきていた人たちも、誰も来てくれない。新しいお父様に何度も手紙を出したのに、お父様も迎えには来てくれない。出される食事は薄くて不味い。ベッドは硬くて湿っぽくて、薄っぺらくて、体中が痛くなった。何故私がこんな目に合わなくちゃいけないの?腹が立った。苛立った。惨めだった。悔しかった。だけど、私は負けてなんてやらないわ。泣いてなんてやるもんですか。
カツーン。
小さく、靴音が響いた。一瞬彼が迎えに来てくれたのかと思ったけど、これはヒールの音だわ。私は起こしかけた身体をベッドに戻して膝を抱えた。
誰よ。私を馬鹿にしにきたの?みっともないと笑いに来たの?良いわよ。来なさいよ。いつもみたいに返り討ちにしてやるわ。こんな所、直ぐに出て、またすぐに登りつめて見せるわ。
ぼそぼそと人の話し声がして、牢の戸が開かれた。フェリだった。
彼女はぽつぽつと自分とカーフェルトの王の話をした。政略結婚の道具は嫌だったと。貴族のしきたりは嫌だったと。ほら見なさい。あなただって同じじゃない。それなら何が悪いというの? 私が牢に閉じ込められるなんて間違っている。
でも、彼女は静かに私を否定した。
いつもはきゃんきゃんと吼えて来るだけの彼女が。
冷静に、静かに、憐れむ様な顔も、嫌悪の顔も浮かべずに、静かな瞳が私の瞳を見つめる。
私は、少しずつ、彼女の言葉に何も言い返せなくなった。私のせいだと静かに、事実だけを付きつけて来る彼女は、まるで別人みたいだった。凛として、高貴さが滲み出ていて。
私は、自分が間違っているとは、今でも思っていないわ。でも、セルジュやお父様を困らせるつもりなんて、なかった。
誰かに意地悪されるのが嫌だっただけよ。負けたくなかっただけよ。
ああ、でも私、誰に負けたくなかったんだっけ。気づいたら、私の周りは敵ばかりだわ。
望めば叶って、何でも思い通りになって、私は世界が輝いて見えていたのに。
夢が覚めて、今は冷たい牢の中。家臣なんて居なかった。お城は私の手が届く場所じゃ無かった。砂のお城の張り子の女王様だわ。欲張り過ぎて、崩れてしまった。砂に埋もれて身動きも出来ない。
私の手の中には、もう何も残っていなかった。
***
カツーン。 靴音が響く。
──ねぇ。私、どこで間違ったのかなぁ。
カツーン。 響いた靴音は、狭い通路に反響する。
──自分らしく生きたいと思った、ただそれだけだった筈なのにな。
カツーン。 私の靴音以外、何も聞こえないわ。
──意地悪されて、負けるのは嫌だったんだよ。見返してやりたかったんだよ。
でも、私はいつの間にか、驕っていたんだね。もう、全部遅いんだけど。
つまんない子って言ってごめんね。嘘だよ。あなただけは、1人で私に正面から噛みついて来て、私本当は少し嬉しかったよ。負けるもんかって思った。私あなたと口喧嘩するの、結構楽しかったんだ。
カツーン。 背中が棒の様なもので押された。私はそこで、足を止める。 ああ、静かだわ。
──ねぇ。 もう一度、もしも生まれ変わる事が出来たら、私もっと思いやりのある子になるわ。優しい子になるわ。
ギィ…
扉の開く音が、響いた。
──そうしたら、フェリ様。私と、お友達になってくれるかな……。
~Fin.~
リクエストにお応えしてアメリアサイド、短編になりました。リクエストを下さった秋さん、有難うございました!次のこぼれ話はリクとフェリのその後のお話、此方はまた時間が取れたら執筆します。




