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01 - 始まりは唐突に

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 淑女決闘(レディ・デュエル)からこっち、あの電波娘(ラッヒェル)が出没しなくなった。

 素晴らしい!

 だが同時に最近、昼食時や裏山の時間にクリスティアナとアーネットが鉢合わせする様になった。


 2人は別段に喧嘩をしている訳では無いのだけど、何か微妙な空気なのだ。

 お蔭で俺は2人の間を取り持つ形で話を回す事になる。

 うん、大変だ。

 別に2人とも喧嘩腰だったり、敵対的って訳じゃないので、凄く大変と言う訳じゃない。

 2人の会話も、ノった時には感覚が合うのか盛り上がってたりするのだ。

 だけど何か微妙な感じだ。






 春の気配が深まる今は、身体を動かすには最適の季節だ。

 剣と剣で打ち合う。

 相手はシェン。持っているのは一般的な護身用で良く使われる、使い勝手の良い中型長剣(ロングソード)型の木剣だ。

 盾は持っていない。

 シェンが武を修めようとしてる理由は、独立商人として町や村を巡っている時の自衛の為なので、盾も防具も余り持ち歩いている時を想定していないのだ。

 長距離を歩く普通の旅人は、重たいので盾は当然、防具なども重たいので身に着けて居ない事が多い。

 後、防具は高いというのもあるかもしれない。

 特に金属製の防具は、魔法が掛けて無くても武器の一桁上の値段がするものも多いのだ。

 なので一般的な旅人が身に着けている、防具と呼べそうなものは精々が革のジャケットみたいなものなのだと言う。

 ここら辺の話はシェンの受け売りだけどね。

 対する俺は何時もの様に片刃曲刀(フォールション) ―― 刀紛いの木刀だ。

 防具はいつも通りに身につけていない。

 普通は、実戦の際と同じ重さの防具を付けて練習もしたりするのだけど、実家であるゼキム伯爵家は三頂五大(ジ・エイト)程の権勢は無いけど、それでも頂点側の金持ちなので、次男坊の俺にも魔法の掛けられた、まるで厚手の上着位の軽量で、しかし防御力は重甲冑(フル・プレートメイル)並の防具を与えてくれているのだから。


 この結果、俺とシェンの戦いは剣術主体となる。

 剣と刀で攻め合い、そして守り合う。

 単純な剣術だけであればシェンも相当に強い。

 1合。

 2合。

 3合。

 打ち合いは結構続く。

 シェンとの戦いで俺は魔法を使わない。

 俺はシェンには剣だけ勝ちたいんだ。




 勝った。



「俺の勝ちだな」



 シェンの喉元に木刀を突きつけて呟く。

 連続した打ち合いで、疲れの溜まったシェンの木剣を握る力が落ちた所を突けた。



「前は互角だったんだがな」



 シェンも降参すると、手を挙げた。

 大きく深呼吸をする。

 息を詰めて集中していた意識を緩める。



護符(アミュレット)のお蔭か?」



「かもな。どれだけ剣を振ってもまだ振り続ける事が出来るんだ。体力が付いたのかもな」



「羨ましいな」



 笑いながら水場へ行く。

 チョロチョロと水が溢れているので、杓で飲む。

 後、顔に掛ける。

 タオルで顔を拭く。

 気持ちがイイ。

 正にひと息つけた感じだ。



「黒茶でも飲みに戻るか」



「よ、両手に花の色男」



 休憩場所を目で促される。

 クリスティアナとアーネットが揃ってる。

 オリアーナさんが竈で、お湯を沸かしてる。



「そんなんじゃ無いって判るだろ?」



 止めてくれよと言えば、肩を竦められた。



「自分から引っ掻けた訳じゃないだろうってのは判るさ。だが結果として(・・・・・)引っ掛ってる(・・・・・・)からな」



「………」



「揃って来てる理由、判ってるんだろ?」



 凄く楽しそうだ。

 俺も楽しいよ、他人事ならな。

 自分の事だと胃が痛くなってくる。



「まぁ、な………俺だって木石って訳じゃないからな」



 それこそ漫画の鈍感キャラじゃあるまいし、2人から懸想されているってのは理解している。

 距離感がね、近いのよ。

 後、チャーミングさが所作からも見えるんだ。



「ん、じゃぁなんでそんなに腰が退けてるんだ。お前って婚約者も居なかったし、俺と違って恋人(パートナー)も居ないんだ。差し出された手を握らない理由は無いだろ?」



 2人とも魅力的だしと言われた。

 魅力的という部分には同意するが、とは言え簡単に手を握る ―― 花を摘む訳にもいかんのよね。



「何というか、勘違いがあると思うからな」



「何の勘違いだよ?」



「俺じゃ無くて彼女たちのな__ 」



 急場を救おうとされたので吊り橋効果を感じてるだろうクリスティアナと、子どもの頃からの付き合いの延長線上にあった関係が壊されそうになって焦っているだけのアーネット。

 恋とか愛とかに、恋い焦がれているだけに思えるのだ。

 親御さんが娘の暴走に気付いて止めるまでの、ある意味で青春(アバンチュール)だ。

 だからこそ(・・・・・)、触れる訳にはいかないのだ。



「そんなに止められるもんかな?」



 疑念の目で見て来る。

 何でだよ。

 貴族社会舐めるなよ。

 力関係とか勢力図とか色々とあるんだよ。



「止めるさ。フォルゴン公爵家からすれば、伯爵家とは言えそう大きい訳でも政治的影響力がある訳でも無いゼキム家の、それも次男坊に嫁入りさせて得られる利益は無い」



 宮廷で楽しく対立しているフォルゴン公爵家とダニーノフ伯爵家の2大政治閥と、われ関せずで戦争大好きの武閥を作っているリード公爵家。

 そんな、王家を除く3大派閥から距離を取った中立派(ノンポリ)なのがゼキム伯爵家なのだ。

 距離を取ったと言うよりも、取り込む価値が無かったのかもしれない。

 オルディアレス伯爵家の様に4つ目の独自勢力、海閥を作り上げようとしている訳でもない、薬にも毒にもならぬ、呑気に生きている家なんだしな。



「厳しいな、貴族社会って」



「そんな物だ」



 衣食住で他人様より楽が出来る分、面倒くさい部分も背負っている訳で。



「じゃぁレヴィンスク子爵家の方はどうなんだ?」



「あっちはもっと簡単だ。ヴァルカール商伯家と対峙出来る程に成長しているレヴィンスク商会(・・)の長女だぞ? やり手の頭取代行様を外に出そうとする筈がない」



「お前が婿入りすれば良いんじゃないの?」



「俺だって次男、嫡男の予備としての役割だってあるから完全な入り婿は無理だ」



 と言う訳で、2人の乙女が(アバンチュール)から目覚めるまでは、適切な距離感を維持するしかないのだ。

 一緒に居るのは楽しいから悪い事は無いんだけどね。

 手は出せないというだけで。



「面倒くさいな!」



「だろ? 時々、お前が羨ましくなるよ」



「なるか、独立商人?」



「育てられた家を出る程の不義理は出来ないよ」



「なんだかんだと言って、お前は義理堅いし真面目だよな」



「売れるものがそれしかないのさ」





 取りあえず、お茶をする。

 右の席にクリスティアナ、左の席にアーネット。

 そう言えばテーブルがいつの間にか4人掛けの丸テーブルから6人掛けの長方形型に変わってた。


 主たる話題は、学園の事その他。

 実に平和だ。

 平穏だ。

 後、シェンの喰ってるスポンジケーキが美味しそうだ。

 我関せずで1人美味しい思いをしてやがる。

 おのれ。


 かく言う俺は、2人に挟まれて会話を聞いている。

 乙女たちの砂糖菓子の様な会話。



「そう、商伯家が港湾を独占する事でそんな迷惑が」



「ええ、どうやったか判らないけどヴァルカール商会は港湾労働者組織まであの抑えられちゃって大変なのよ」



「商伯家の影響力ではなくて?」



「去年までは中立だったわ。忙しい時とかだと割高な料金を要求してくる事もあったけど、それでも仕事を拒否するなんて無かったわ」



 砂糖菓子の様な、乙女の会話? そう言えば砂糖は全量輸入だったし、2人が乙女である事に疑い話無いし。

 そう言えば流行の小物とかの会話で盛り上がる事って無いよね。

 流行は作る側だしね。

 売りたいモノを流行させたり、自分の目利きで一番良いものを選ぶ立場だものね。


 実利派というか実務家と言うか、そう言う部分を持ってる2人、仲が良い。

 政治とか経済ネタだと話が盛り上がっている。

 乙女としてどうかなぁとは思うけど。

 口には出さないけど。

 小物が似合うかとか、髪形が良いかとか、服の色がとか、下着がとかされても、本気で困るからね!



「酷い話ね」



「そうなのよ、ウィルビアも判るでしょ」



「いや本当に大変だね」



 すいません、でも学業以外の話題は困らないけど詳しくもないので、話を振らないで欲しい。

 割と真剣に。




「あらっ」



 メイドの鏡の様に、場の空気に徹するオリアーナさんが竈の所で声を上げた。

 見ると焔が竈から煙が噴き出していた。



「オリアーナ?」



「大丈夫ですお嬢様、ただ、火が__ 」



 消えている。

 この竈は、湯を沸かす様に俺が石で組んだ手製だけど、特に構造的に変な事はしていない。

 特徴と言うか、普通の竈と違うのは、火力調整をし易い様に燃料が魔力を充てんして燃えやすい様にした木材だって事だろう。

 本来は使う都度に周りの森から薪を拾って来てと言う使い方だったんだけど、クリスティアナが自由に火を使いたいからと家から魔力充てん材を持ち込んでいたのだ。

 少ない量で大火力、しかも長時間萌える魔力充てん材は、当然ながらも普通の薪よりも高い。

 具体的には普通の焚き物の1桁上の値段なのだ。

 そんなモノをポンポン使うんだから、ホント、フォルゴン公爵家って金持ちよね。


 とも角、そんな竈の火が消えた。

 何故。

 軽く調べてみるけど、壊れている風には見えない。



「何かしました?」



「いえ、何もしてはいないのですが………」



 薬缶の水が中に流れ込んだ風でも無い。


 と、森の気配が変わった。

 鳥のさえずりが消えた。

 風が止まった。



「ん?」



 何かが居る。

 何かが起きている。



「シェン!」



「応さ!!」



 打てば響くと言うのは気持ちがイイ。

 木刀木剣を手に取って周りを警戒する。


 気配。

 或は殺気。

 粘りつく視線。



「クリスティアナ、オリアーナさん、動く準備をして。アーネット、持って来てる(・・・・・・)?」



 俺とシェンの緊張感が伝わったのか、疑問を口にする事無く頷くクリスティアナ。

 オリアーナさん、その背を守る様に緊張した顔で顔で付いている。

 対してアーネットは油断の無い顔で答えてくれた。



「あるわ」



 上着の左胸から抜かれそれは生きる木刃(リビング・ブレード)陽の雌刃(アニムス)

 水と火の属性を持った使い魔(アガシオン)でもあり、並以上の魔法を操る力を契約者に与えてくれる。

 今、この場で最も高い戦闘力を発揮できるのはアーネットと言う事になる。


 とは言え、女の子。

 前線に立たせたくないって意地が俺にもある。

 アーネットもクリスティアナも、オリアーナさんも、怪我1つさせる事無く守りたい。



「<黒>が居るの?」



 緊張した声でクリスティアナが問いかけて来る。

 判らない。

 判るのは、居る(・・)というだけ。



「王都の真ん中に出るとは思えないわ」



 アーネットの言う通り。

 さて何がと思った時、森が揺れた。



「GuGoGoGoGoGo!!」



 咆哮。

 そして濃厚な何かが、森から溢れた。







イベントモード(難易度ハードモード)はじまりまーす。

一応、恋愛ゲームのイベント。

誰だ、こんな世界観で恋愛ゲームをしようと考えた奴は(すっとぼけ

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[一言] 久しぶりに読み返しました。この作品好きです。 いつか更新されることを祈って
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