77 食糧支援②
自室でゆっくりお茶を飲んでいたら、呼んでもいないのにアルフレッドがやって来た。
バーンとドアを開けなければいいって訳じゃないのよ。
ノックすればいつでも部屋に入れて自由に私と話せると思ってるの?
「お嬢! 聞きましたよ! 本当にゲルツ伯爵に会いに行くんですか? 使者が持ってきた催促の手紙一つであんなにブチギレていたのに?」
「うっさいなー。だからよ。いったいどんなやつなのか、この目で確かめてやろうと思ってね。それに言いたいことは面と向かって言ってやった方が面白いじゃない」
「……え? 『面白い』の意味を詳しく。どういう話をするつもりなんです? お嬢がゲルツ伯爵を怒らせてニヤニヤ笑っている光景が目に浮かぶんですけど?」
あぁん?
何を勝手に想像してんのよ!
「昨日、伯爵領までつなげた抜け穴を使って、ブレッツにこっそり様子を見に行かせたら、酷いことになっていたのよ」
「……! まさかの人道支援?!」
「いいかげんに黙らないと口を縫い付けるわよ!」
「そんな魔法なんて聞いたことないですけど」
黙る気がなさそうなので、スリッパを投げつけたら見事に避けられた。
ちっ。軽くてスピードが出なかったせいね。
「とにかく近々出発するつもりだから、ヒッチに伝えて準備を始めなさい。そうそう。馬がいらない荷馬車もどきを四台ほど作るから、合計で馬車六台分の荷物を用意するようにね」
「はいはい」
みんなが、「『はい』は一回!」って怒っているのが身にしみて分かった。
「はいはい」って言われると、ほんとムカつく。
「御者台にはできるだけ大勢乗ってほしいから、ゲルツ伯爵領から逃げてきた大人たちを招集するようにね」
◇◇◇ ◇◇◇
その日のうちに、取り急ぎ訪問する旨の手紙をゲルツ伯爵に送ると、手紙を持って行ったキースが返事を持って帰ってきた。
伯爵が返事を持って帰ってほしいとのことで、キースはかなり待たされたらしい。
「普通、使者を待たせるなら、それ相応のもてなしをするべきだと思うのですが。食糧難を理由にお茶が一杯出ただけでした」
第一声がそれ?
騎士が、茶菓子が出なかったと文句を言うとは。
「それにしても、訪問日を早めてくれだなんて、随分じゃない? 茶菓子も出せないんだから、そこを察してくれってことなの?」
「え?! そのために私はあんな塩対応を受けたのですか?」
知るか、馬鹿!
「まぁ、いいわ。いつでも来てくれて構わないってあるから、明朝出発しましょう。私は朝食を取ってから、ゆっくり地下の通路を通るから、あなたたち馬チームは荷馬車と一緒に先に出発してね。地下通路から出たところで待ち合わせましょう」
キースが反抗的な目で文句を言った。
「ええ! あの動く石像の間を通るんですか?! 無事に通り抜けられるんですか?!」
通れるに決まってるでしょう!
こいつ、マジでムカつく。
「当たり前でしょう。あなたの顔は認識しているはずだから大丈夫よ」
「ほ、本当ですよね?」
「私が大丈夫って言っているでしょう!」
「で、でも――」
ムキーッ!
「アルフレッド! 従者の教育がなってないんじゃないの!」
「まあ、確かにそうですね。今のはキースが悪いですね」
今のは? はあ?
――などということがあり、若干イライラしたままゲルツ伯爵を訪問することになった。
◇◇◇ ◇◇◇
私が小人に命じて製作した荷馬車もどきは、もちろん自走できる。
一応、全体のフォルムは本物の荷馬車にできるだけ似せて作った。
車輪の形や大きさもパッと見じゃ気づかないくらい頑張らせた。小人たちに。
御者台には、馬が引く本物の荷馬車の荷台に引っ掛けているように見える、大きなフックを付けてみた。
まあよく考えたら山盛りの食糧を積んだ荷台を二つも、馬が一頭で引けるはずがないんだけどね。
でも『食糧』にしか目がいかないだろうから、馬車がおかしいなんて思う人はまずいないはず。
野っ原のどこが地下からの出口かわからないだろうから、優しい私がちょっとだけ先に行って待ってあげていた。
「お嬢! 早かったですね。いやあ、いくら小さくても、草しかない平原だと遠くからでもよく見えますね」
あぁん?
チビってディスってる?
「ご覧の通り荷馬車には大人が三人座っているので、お嬢は私と一緒に馬に乗ってください」
「わかったわ。あ、ちょっと待って。みんなに言っておくことがあるの。こっちに集まってくれる?」
事前ミーティングを簡単にしておこう。
「あのね、門を通ったらまず――」
◇◇◇ ◇◇◇
「…………お嬢」
「ん?」
「…………恥ずかしいんですけど」
「は?」
「よくそんな笑顔で手を振れますね」
「当然でしょ? 私は称賛されていいはずよ?」
「わかります。素晴らしい慈善活動です。でも、こんな風に大々的に吹聴しながら練り歩く必要がありますか?」
もちろんある。
ゲルツ伯爵が腹黒そうだから、手柄を取られないためにやっているのだ。
「隣の開拓村の領主である心優しいシャーロッテ様が、皆さんの状況をお聞きになり、心を痛められ、村にある食糧を全部持って来てくれました!」
「隣の開拓村の領主である心優しいシャーロッテ様は、『大勢がお腹を空かせているなんて。聞いた私までもが辛くなるわ』とおっしゃって、こうやって自ら食糧を持って来られたのです!」
――そう。連れてきた領民たちにセリフを覚えさせて、大通りをノロノロと進む間、私が支援しに来たことを高らかに叫ばせているのだ。
私のイメージアップキャンペーンのために連れて来たんだもの。
どこを通れば効果的にアピールできるかは、ブレッツに任せてある。
最終的には伯爵領のシンボル的な噴水のある広場に行き、そこで荷物を下ろすことにしている。
一応パニック的に食糧を奪い合うことのないよう、騎士服を着ているキースを置いていく。
そして私とアルフレッドがゲルツ伯爵と面会する予定。
騒ぎが伯爵の耳に入る前に会いたいから、パレードの途中で私たちは別行動をとった。
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