76 【ゲルツ伯爵視点】追放された小娘風情がっ!
ドルンが隣の辺境村から戻ったというので執務室に呼ぶと、人が変わったように青ざめて肩を落としている。
「おい、どうしたというのだ。情けない。まさか小娘にいいようにあしらわれたんじゃないだろうな?」
「あれは――いけません」
「は? 何だと?」
「怒らせてはいけません! 絶対に!」
「誰に向かって言ってるのだ!」
「はっ。あ、す、すみません。申し訳ありません。行ってみてよかったです。この目で確かめておいて正解です。あの辺境の村はすっかり変わっておりました。フィッツジェラルド公爵家の騎士団が返り討ちにあったというのは事実だと思います。フィッツジェラルド公爵家の令嬢は癇癪持ちで有名でしたが、八歳になり魔法を操るようになって手がつけられない状態なのだと思います。狂気に拍車がかかって凶暴さを増しているのです!」
ドルンはこんな風に、興奮して感情的に話すやつではなかったと思うが、どうしたというのだ?
「まあ確かに、『フィッツジェラルド公爵令嬢は幼いながらも魔力量だけは桁違い』という噂だったな。だがお前の報告では土魔法だったのでは? どうせ魔力量にものを言わせて壁を作りまくったんだろう。騎士団としては、小娘が癇癪を起こして作った壁を、労力をかけて破壊してまで侵入するつもりがなかっただけのことではないか。大袈裟過ぎるぞ」
ドルンは何かを思い出したらしく、頭を抱えてブルブルと震え出した。
「お、おい! どうした?!」
「そんなものじゃないんです! 悪魔を召喚するスキルでも授かったんじゃないでしょうか。巨大な石像が私を睨みながら動いたのです‼︎」
「もういい。下がって休め。後のことは事務方と相談して決める。フィッツジェラルド公爵が、このワシに屋敷まで来て直接謝罪するようにと言ってきたのだぞ! こんな面倒なことになるとはな。ああ、下がる前に一つだけ聞くが、お前は、ワシが公爵家に情報提供をしたことについてはしらを切り通したんだろうな?」
「え? あ、はい」
「それと、相互支援の話はしたのだな?」
「は、はい」
「返事は?」
「……あ。その、考えるとだけ――」
「はあ!? なんだと! あんな辺鄙な村に支援してやると言ったのだぞ? ちっ。プライドだけ高い馬鹿な小娘とまともに話をしようと思ったワシが間違っておったわ!」
「あ、あの。そうではなく――」
「もういい。下がれ」
「……かしこまりました」
ドルンには、小娘に、このワシが公爵家を唆したと思われると面倒なので、騎士団が派遣された件については知らぬ存ぜぬを通せと命令したが、それを黙っていたくらいで、あんなにショックを受けて腑抜けになるものなのか?
それともいい返事を持って帰れなかったことを気に病んでいるのか?
公爵家の令嬢だけあって、もしかしたら八歳の小娘でも、相当な威圧を発揮できるのかもしれんな。
◇◇◇ ◇◇◇
ドルンが帰って来て二週間経っても、小娘から返事が来ない。
「誰かおるか!」
「はっ。ここに。何でございましょう?」
「ああ、お前か。ドルンの話だと、例の小娘は、食糧支援については、『検討する』と言っていたそうだが、その後返事は来ておらんのか?」
「相互支援の件ですね。」
……! わざわざ言い直すとは! 事務方のこういうところが我慢ならないのだ。
どうせこちらが食料を分けてもらう話なのだから、字面などどうでもいいだろうに。
「ああ、それだ。領主の使者と面会しておきながら、二週間も梨の礫とは、失礼極まりない! いくら子どもだといっても領主と名乗っているのなら、社交マナーを知らなかったでは済まされんぞ!」
「……かしこまりました。大人の務めとして、幼い領主に社交マナーを教示されるのですね。ドルンはまだ使い物になりませんので、他の者を使者として遣わせましょう」
「頼んだぞ。ちょっとくらい脅してでも食糧を手に入れるのだ。そろそろ食糧を調達しないと、限界が近いのだろ? ワシが食べるものに不自由するなんて許さんぞ!」
それにしても、あの辺境の村が豊作なのに、どうして我が伯爵領は不作なのだ。
生意気な小娘が領主ごっこで住人を脅して働かせたのか?
「あの娘は公爵家を追放されたのであろう? 公爵はフィッツジェラルドを名乗ることをまだ許しているのか? 公爵家の人間でなかったら、もう少し手荒な真似ができるのだがな」
「正式に貴族籍を剥奪された訳ではありませんから、まだフィッツジェラルド公爵家の令嬢です。他の貴族たちも、親子喧嘩の末にお仕置きされたくらいに受け止めているようです」
「ふん! 馬鹿馬鹿しい話だ。それより早く返事をよこせと催促して来い!」
隣の領地との付き合い方も知らん小娘の相手をするのは、ほとほと疲れる。
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