75 食糧支援①
フィッツジェラルド公爵家の騎士団を返り討ちにしてから一月が経った。
その間、どこからも何の連絡もない。みんな辺境の地で起こったことなんて知らないのかな?
公爵家にしてみれば恥以外の何物でもないので、隠し通すことにしたのかもしれない。
ま、どうでもいいけどね。
――などと自室でベッドに転がりながらぼんやり考えていたら、初めてのアラーム音が聞こえた。
ピポピポピーン♩
ピポピポピーン♩
これは、防護壁に設置した監視カメラ映像に、武装していない人の姿が映った時に知らせてくれるよう設定しておいたもの。
玄関のチャイム音を参考にしてみた。
どれどれ。
私の部屋には監視カメラ映像をリアルに見れるモニター画面があるのだ。
ふーん。
『西3』カメラに映っているということは、ほぼ百パーセントゲルツ伯爵領から来たんだな。
「お嬢!」
またかよ。ドアをバーンからの「お嬢」。
「あのね、アルフレッド」
「何ですか、今の音は?! この前の音と違うのは何か意味があるんですか?!」
あっ、そうか。
応接室とダイニングルームにも音が鳴るようにしていたんだ。
領主館のどこにいても聞こえなきゃ意味がないからね。
「あー、来客を知らせる音よ。子どもに四六時中見張れなんて言えないから、代わりに休まず見張れる機械を設置しておいたの」
「お嬢……」
そうよ? 私は根にもつタイプなんだから。
「あ。そういうことでしたか。壁の上に変な物が等間隔に出来ているとはキースから聞いていましたが、そんな役割があったんですね」
「そうよ。そろそろ門の前まで来る頃じゃない?」
「あ! お嬢。門の前にはまだアレが大量に置かれていますよね? しかも最初の時よりも密に。もう誰も近づけないんじゃないですか?」
私を誰だと思ってんの?
あのへなちょこ女神からもらったスキルを、この私が前世の知識でもって何倍も有効に活用してんのよ?
まぁこの世界で生まれたアルフレッドには、そこら辺のことは分からないか。
「アレは武装している者には容赦しないけれど、ただの訪問者には手を出さないわ。ちゃんと道を空けて通すわよ」
「え? そうなんですか? ――って、いやいや! いったいどうやって?! 道を空けるなんて、そんな門番じゃあるまいし」
「私の魔法よ。うっさいなー」
キッとアルフレッドを睨みつけたら、門の赤いボタンが押された時の音が聞こえた。
ピロリロリ〜ン♩
ピロリロリ〜ン♩
「来た!」
「あ、この音は――」
「前にも聞いたでしょう? ちゃんと門までたどり着いたみたいね。さ、前と同じようにキースに対応させてちょうだい」
「そうですね」
◇◇◇ ◇◇◇
多分、キースはまたもや芝居がかった感じで、塀の上から偉そうに見下ろしながらの応対をしたんだろうな。
応接室に通してあげたのに、ドルンは渋い顔をしている。
それにしても、こいつな……。
よく来れたもんだわ。どの面下げてと思ったけれど、私を前にしても平然としている。
まぁ、もっと早く来ると思っていたけどね。
ゲルツ伯爵はフィッツジェラルド公爵に、うちが野菜が豊作だったと知らせて、奪取したらおこぼれを貰おうとでも考えていたんでしょ?
なのに私が騎士団を追い返したものだから、公爵に連絡を取るのも躊躇われて、私にも合わせる顔がなくて、この一ヶ月間、どっちにもいい顔をしようと言い訳を考えていたんじゃない?
「あなた――確かドルンだったわよね? ゲルツ伯爵はご自身ではなく商売人を使者としてよこされたのね」
「あ、はい」
最初に商売人のふりをしてうちに来たことを私が忘れているとでも?
「あの、実は、その――。私はゲルツ伯爵領で政務を担当しておりまして。最初にこちらを訪問した際は、なんと申しますか、その――。公爵令じょ――ええと、領主様がこのような辺境の地で慣れない生活をされているのではないかと我が主人が心配しておりましたもので――それを私が勝手に忖度して、直接この目で様子を伺うために参ったのです」
ドルンは薄い笑みを浮かべているけれど、私の釣り上がった目は下がらないよ?
「そう。それで、今日は? フィッツジェラルド公爵家の騎士団を退けたと聞いて、取り急ぎ謝罪でもして私の機嫌を取ろうと思ったの?」
アルフレッドが驚いて私を見ているけれど、こんなやつに貴族として丁寧に接するつもりはないからね。
礼儀なんかクソ食らえ。威厳も元々ないしね。
私の悪評が公爵家の評判を下げたって知ったこっちゃないし。
「コホン。ええと。公爵家と何かございましたか? 私どもは辺境にいるせいで社交もおぼつかず、情報が遅れておりますゆえ」
けっ!
『フィッツジェラルド公爵? え? 王都の大貴族様が何ですって? うちみたいな辺境の伯爵家なんぞが、そんな偉いお方とお近づきには、いやあ、無理無理。無理ですってー(えへっ!)』
――っていうことにしたの?
めちゃくちゃ無理があるんじゃない?
なんかムカついてきた。
舐めてんの?
「あら! 知らなかったの? 本当かしらねぇ……。確かめてもいいんだけど? もし嘘だったらどうしようかな。辺境には辺境なりのルールがあってもよさそうね。ふふふ」
私が公爵家の騎士団に勝ったことを忘れてんじゃないの?
ソファーにちょこんと可愛らしく座っているからって、私は見た目通りの幼女じゃないのよ?
「ど、どうでしょう? そういうことに関しましては私の担当ではないため、もしかしたら、そうですね、本当になぜかは分かりませんが、ひょっとすると伯爵家の中には知っている者もいたのかもしれませんが、定かではなく、今言えることは私が知らなかったということだけでして――」
あー、もう!
ぐだぐだとこねくり回してしゃべらないで!
「コホン。シャーロッテ様はお忙しいので簡潔に頼む」
おぉぉ。
アルフレッドが珍しく側近っぽい感じで、ドルンをたしなめてくれた。
まあ、アルフレッドに免じて、これ以上は追及しないであげるわ。
「も、申し訳ございません。その。実は、こちらの開拓村を領主様が治めるようになり、領地としての体裁が整ったと申しますか、その――隣接する領地同士、何かあった際は互いに助け合う関係を築けたらと、我が主人は考えておりますので、本日は主人の考えをお伝えに参りました。ご検討いただけますと幸いです」
ふーん。
相互に助け合いね……。
こちらが一方的に助ける未来しか見えないんだけど?
取り急ぎ食料を支援してほしいだけでしょう?
「そう。ゲルツ伯爵がこの私に助けを請うているのね」
「は? いや、それは――」
何よ。そっちの方が立場が上だとでも?
今回はたまたま助けてもらう立場だけど、どうせ次からはゲルツ伯爵の方が私を助けるに決まっているとでも思ってる?
あー。その顔は思ってるんだねー。
どうしよっかなー。
「じゃあ考えておくわ」
「え?」
「考えおくわ」
二度言わせないでよ。
私とアルフレッドが揃ってギロリと睨みつけたので、ドルンは開きかけた口を閉じた。
「で、では、良いお返事をお待ちしております」
ふん!
「アルフレッド」
「はい。私が責任を持ってお見送りいたします」
部屋を出るアルフレッドに、「うろちょろさせずに、ちゃんと門の外に放り出せよ」と目で伝えておく。
イラつくお隣さんだわ。
ゲルツ伯爵ってどんなやつなんだろう?
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