74 巨人のお披露目
アルフレッドが部屋まで私を呼びに来たので、「よっこらしょ」と屋敷の外に出ると、領主館の前に村人たちが集まっていた。
私が姿を見せると、集団の先頭でかしこまっていたヒッチが一歩前に出て挨拶をした。
「シャーロッテ様。ご指示通り全員を集めました」
本当に全員来たらしい。小さな子どもも大人に手をつながれて立っている。
……あ。魔法のせいかも。
そういえば全員に『私が主人だ』と教え込んでいたんだった。
ある種の予備催眠(?)みたいなもので、ヒッチが声をかけたら一人も欠けることなく集まったんだな。
まあ、すぐに済むからいいか。
「コホン。今日集まってもらったのは、紹介したいものがあるからなの。私は教会で女神様から加護をいただいて特別な魔法が使えるようになったんだけど」
まあ、加護だとか魔法だなんていうのは貴族社会の話だから分からなくていいんだけど。
この前のフィッツジェラルド公爵家の騎士団との交戦時、あの大音響のせいで村人たちを不安にさせてしまったみたいだから、それのフォローも一緒にしておくとしよう。
「この前、大きな音が鳴り響いて、塀の外がピカピカ光っていたでしょう? みんな驚いたわね。あれはね、私たちに意地悪をするために王都から押しかけて来た人たちを私が撃退したときの魔法なの。ああ、もう心配はいらないわよ? この私が、女神様から授けていただいた魔法で追い返したから! この村は長いこと捨て置かれていたのに、ほんの少し野菜が収穫できた途端に奪いに来るなんて、酷い話よね。女神様もとても哀れに思われて、そんな私たちを救うために、更に私に力を授けてくださったの! 見て驚かないでね。私たちを守ってくれる女神様のお遣いなのだから。じゃあ紹介するわ!」
さすがに内容が内容だけに、ちょっとざわついているけれど、概ね趣旨は伝わったみたいね。
それじゃあ早速登場してもらいましょうか。
塀の外の四メートル級じゃなくて、その半分ほどの巨人を一体作って、屋敷の裏にしゃがませて待機させているんだよね。
いよいよ待ちに待った小人型の巨人のお披露目だ!
うっふっふっ。
「出ておいでー‼︎」
私が顔を向けた屋敷の角の方を、村人たちも注視している。
すぐにドスドスと歩いて来ると思ったのに足音は聞こえず、水色の巨大な三角帽子だけが壁からにょこっと出てきた。
「うわー!」とか「きゃあ!」という悲鳴が聞こえた。
あー。やっぱり怖い?
そうだよね。帽子にしては巨大過ぎるものね。あんなの見たことないよね。
「みんなぁ! 大丈夫だから! 私たちを守ってくれる女神様のお遣いよ!」
……効果なし。ちっ。仕方がない。
最初のうちは泣き喚いてもいいから、もう見て慣れてちょうだい。
「こっちにおいで!」
心の中で、強く「来い!」と念じると、巨人がすくっと立ち上がって、こっちに向かって来た。
まだ小さいので、足音はそこまで大きくなかった。
身長が二メートルあっても、歩き方はいつものおもちゃの行進みたいな足の運びだから、これっぽっちも脅威に感じない――よね?
でも顔や服装が小人仕様なのに、サイズが異様にデカいので、そのアンバランスさが恐怖を産んでいるみたい。
表情がよくないのかなぁ。モデルにしたあいつらは笑わないもんな。
「ぎゃー‼︎」
「わーん‼︎」
あちゃー。駄目だったか。
小さな子どもって、大きいものを怖がるよね。ぬいぐるみでもデカ過ぎると怖いっていうもんね。
二メートルでこれか。
ここに四、五メートル級を持ってきたらパニックになりそうだな。
「大丈夫よ! ちょっと大きいだけで大人しいんだから。一緒に遊んでいれば仲良くなれるはずよ。えーと。座りなさい!」
小人巨人は無表情で三角座りをした。
「触っても何もしないから、確かめてみて」
誰も動かない。もう!
小人巨人に、ここに集まっている人間たちに対しては怪我をさせないよう優しく接するようにと念じてから、私自らが見本を見せることにした。
「ちょっとだけ私を持ち上げてみて」
小人巨人にそう命じると、巨人は、湯呑みを丁寧に持つ要領で私の体を両手で優しく支えながら高く上げてくれた。
おぉぉ。なんかちょっと楽しい。
「下ろして」
下ろす時もゆっくりと下ろしてくれる。ふむふむ。合格だね。
「ぼ、僕もやりたい!」
好奇心旺盛な男の子が名乗りを上げた。
いいんじゃない。
「自分で頼んでごらん」
「はい」
男の子はテテテテと小人巨人に近づくと、もじもじしながらも、ちゃんとお願い事を言った。
「ぼ、僕も。高い高いしてほしい」
小人巨人はさっきと同じように男の子を手のひらの上に乗せてゆっくりと持ち上げた。
「うわぁー!」
男の子が嬉しそうに顔を綻ばせたので、それをみた子どもたちが一斉に小人巨人に駆け寄って、私も私もとせがんだ。
小人巨人が一通り子どもたちの相手をしたところで、続きを話すことにした。
「皆さん。この大きな小人さんは、これから私たちと一緒にこの村で暮らします。この子たちのお家はあの、壁の中なのです。小人さん。お家に入ってみて」
そう指示すると、小人巨人は壁の方へ歩いていき、自分で『二十』と書かれた扉を開けて中に入った。
一から十までは穀物倉庫として使うことにしているので、巨人の格納は二十からにしたのだ。
「小人さんたちは普段はお家で過ごしますが、もし悪い人たちがこの村に押しかけて来たら、お家から出て、やっつけてくれるのです。……あ! それと、さっきの小人さんは、いわば巨人の子どものようなもので、大人の巨人はもっと大きいので驚かないように。えーと。じゃあ、ちょっと入ってきて!」
離れていても私の命令は届くので、壁の外にいた四メートル級の小人巨人が自分で門を開けて入ってきた。
私の中に、「早く来い」という気持ちがあったからか、四メートル超えの体で領主館まで走って来た。
さすがに地面を叩きつける音と振動が伝わってくる。姿が見えないから余計に怖いよ。
すごいスピードで迫り来る巨体が見えると、辺りはまた阿鼻叫喚の地獄と化した。
女性や子どもだけでなく、成人男性も叫んでいるよ。
取って食う訳ないじゃないのに。
「味方だからー! 女神様のお遣いだからー!」
泣き叫ぶ声に負けじと私も大声を張り上げるけれど、ちっとも静かにならない。
到着した小人巨人は、確かにデカい。立ったままだと脅威に感じてしまう。
「うーん。正座してみようか」
お仕置きする訳じゃないけれど、へなちょこ感を出して怖さを半減してほしい。
「ねっ! 怖くないから」
半分くらいは泣き止んだかな。
「この子もさっきの子と同じように、普段は壁の中で大人しくしているから心配しないで。あくまでもいざという時の戦力だから。さっ。あなたもお家に帰りなさい」
そう言うと、小人巨人は立ち上がって壁の方へ歩いて行った。
ほとんどの人たちがポカンとした感じで、まだ飲み込めていなさそうだけど、まあ、慣れてもらうしかない。
「時々は村の中をあの子たちが歩くことがあるかもしれないけれど、その時はみんな仲良くしてね。今日は紹介したかっただけだから。はい! 解散!」
集合していた人たちが、わらわらと散って行く。
残ったのはアルフレッドとキースだけ。
アルフレッドは、やれやれと肩をすくめていて、キースは呆然としている。
そういえばキースもギャアギャア悲鳴をあげていたな。騎士なのに。大丈夫か?
「これで量産しても大丈夫ね!」
アルフレッドが呆れた顔で何かを言いかけたので、先回りした。
どうせ文句を言うんでしょ。
「あー、大丈夫。分かってるから。村の中でポコポコ作るんじゃなくて、防護壁の内側に作っていくから」
「たまに村の中を歩かせるようなことをおっしゃっていましたね?」
「それくらいした方が早く馴染めると思って。だっていざという時は、防護壁の扉が一斉に開いて、巨人が飛び出してくるんだから。心臓発作で死なれても困るじゃない」
「はぁ」
ちょっと! 頭を抱えないでよ!
「それもこれも、公爵のせいでしょ! これでも防御に回るだけの消去的な対応をしていると思うんだけど!」
「まあ、そうですね。あんなのを使って積極的に攻めていこうものなら反逆罪ですよ」
ちっ。うっさいなー。
「まあ、何もなければ使わないだけよ。文句ないでしょ!」
――とはいえ、せっかくなので四メートル級を一体だけ、北の壁の外に常設しておこうかな。
魔獣の群れを発見したらサイレンを鳴らして合図できるような機能を追加して。
ふふふ。
魔獣とどこまで渡り合えるかもみておきたいしね。
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