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追放された悪辣幼女の辺境生活 〜チート魔法と小人さんのお陰で健康で文化的な最高レベルの生活を営んでいます〜  作者: もーりんもも
第二部

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70 【騎士団長視点】追放された幼女

「あのシャーロッテ様を脅す日が来るなんてなあ」

「自分の意見が通らないと分かった時の顔が見ものだぞ!」

「ああ。見下していた俺たちに命令できないどころか、逆にあれこれ指図されるんだぜ? 癇癪を起こしても無視していいんだよな? 睨んだところで言いつける相手もいないしな! スカッとするぜ!」

「あっはっはっ。ほんと、いい気味だぜ!」


 出発の準備をしている騎士たちは一様に明るい。

 そして追放されたシャーロッテ様に対する不満を隠すことなく言い合っている。

 公爵が縁を切って追放したと聞いた時には耳を疑ったが、王女殿下に対して不敬を働いたと聞いて納得した。

 あの性格だ。さもありなん。



 公爵家に採用される騎士たちは、皆それなりの爵位を持つ家の子息なのに、シャーロッテ様は自分のメイドと同じ一介の使用人と思っているようだった。

 我が儘放題に育ったのに、突然公爵の後ろ盾を失って家を追い出されてしまった。

 そういえば屋敷を出ていく直前に訓練場にやって来て、なぜか気が合ったらしく、変わり者のアルフレッドを連れて行ったのだった。

 アルフレッドから離れないキースまでもが随行したが――今頃どうしているのだろう。


 使用人どころか、身の回りの世話をする侍女もいない辺境での生活。

 王都の屋敷とは比べるべくもない粗末な家。

 落ちぶれた暮らしぶりに耐えられず、毎日泣き喚いて過ごしているかもしれない。

 ドレスも新調できず、洗濯すらままならないのではないか?

 貴族令嬢が生活できるところではない。

 辺境の地への追放という処分がどれ程厳しいものかを身をもって経験していることだろう。



「まあ明日には会えるだろうから久しぶりに話をしてみよう」



 北方の開拓村までは馬を替えながら走り通しても丸一日かかる距離だが、今回はそこまで急ぐ必要はないため各自の馬を休ませながら進み、途中大きな町で宿屋に宿泊することにしている。

 これが戦なら何日も野営することになるのだから、騎士たちにしてみれば、ちょっとした遠出か、せいぜい進軍の演習くらいにしか思えないのは理解できる。


「まあ、シャーロッテ様に苦言を呈するだけなのだからな」


 手紙を出すなり使者を送るなりすれば足りるだろうに、騎士団を差し向けるとは……。

 あんな辺鄙な場所に追放した娘に、今更権力と財力の差を思い知らせて何になるというのだろう。


 公爵からの命令は、公爵に謝罪をさせることと、保管してあるらしい野菜を持ち帰ることだ。

 シャーロッテ様が直々に謝罪をしたいと申し出れば連れて帰るよう言われているが、それだけはごめんこうむりたい。

 騎士に護衛されながら屋敷に戻ると勘違いして、あれこれと我が儘を言うに決まっている。

 要求が通らなかったり少しでも遅かったりすると、近くにある物を手当たり次第投げる癖はなおっていないだろう。

 

「何も額面通り伝える必要もないか。『謝罪文をお書きください』でいいな」 


 本来なら家令の仕事なのだ。荒事を担当している我々に命令する方が間違っている。




 それにしてもシャーロッテ様は強運の持ち主だな。

 国内の大半が野菜の出来が悪く、小麦も不作になりそうだと不穏な空気が漂っているのに、あの辺境の村では他領に売るほど野菜が有り余っているらしい。

 あくまでも噂なので、真偽のほどは不明だが。


 それでも支援がない中、食料の心配がないというのはシャーロッテ様にとってはありがたいことだろう。

 今年は良くても次の年がどうなるか分からないのが農業だ。

 余剰といっても辺鄙な村でのこと。たかがしれているだろうに。

 それを取り上げるのはただの嫌がらせだろうな。


 年を越せたところで、秋の収穫まで持たないようなら、父親に頭を下げて支援を頼むことになる。

 あのプライドの高いシャーロッテ様にできるとは思えないが。

 歯を食いしばりながら頭を下げる様子を見て、公爵は溜飲を下げるのだろうか。


 あの父親にしてあの娘だ。はあ……。

 親子喧嘩は当人同士でケリをつけてほしい。




「団長! 出発の準備が整いました! いつでも行けます!」

「そうか。では行くとしよう。お前らも今日の夜が楽しみなのだろう?」

「バレてましたか! あははは」

「あまり羽目を外すなよ」

「はっ!」


 いくら性格が悪いとはいえ、子どもを泣かせるのは気が進まないが命令は命令だ。

 さっさと済ませてしまおう。



   ◇◇◇   ◇◇◇



 宿屋では隠れて酒を飲んだ者もいたようだが、節度を保っていたので見て見ぬふりをしてやった。

 しっかりと英気を養ったようで、出発時刻のかなり前に全員が揃った。


「よしっ。少し早いが出発するとしよう。村での用を済ませて早々にここに戻るとしよう!」


 全員が声を揃えて、「はっ!」と返事をして進み始める。

 気の進まぬ仕事など、とっとと終わらせて帰るに限る。



   ◇◇◇   ◇◇◇



 何もない平野を進んでいると時間の感覚がおかしくなる。

 案内役もいないため、辺境の開拓村までの距離も不明だ。

 方角だけを頼りに進んでいると妙な物が見えてきた。

 すかさず副団長が馬を私の横につけた。


「団長。あれはなんでしょうか? 斥候隊を出しますか?」


 公爵閣下にはゲルツ伯爵から情報提供があったと聞いたが、あのような塀があるとは聞いていない。

 黒光りする塀と、その手前にはおびただしい数の――何だ? 黒い巨石群?

 閣下が隠す理由もないので、おそらくゲルツ伯爵が故意に伏せたのだろう。喰えぬ奴だ。


「戦いに行くのではないぞ。不要だ」

「はっ」


 副団長は元の位置に戻ったが、進むに連れて少し後悔した。

 近づいてようやく点在している物が分かったのだ。



 尋常でない数の熊が――小さければぬいぐるみにも見えそうな黒い石像? が見渡す限り一面に不規則に設置されている。

 いったい全部で何体あるのだろう?

 職人が作るとなると何十年とかかるはず――間違いなく魔法で作られたのだ。

 アルフレッドとキースではない。

 となると、これはシャーロッテ様の? 八歳を迎えられて『見極めの儀』で特別なスキルを授かったのか?



 ……それにしてもおぞましい。

 どういう精神状態で魔力を行使するとここまでになるのだ?

 というか、これは何の属性の魔法なのだ?

 魔法で巨大なおもちゃを作ったなどという話は聞いたことがない。


 シャーロッテ様は膨大な魔力量をお持ちだった。

 そんな子どもがブチギレるとこうなるのか?



 まずい。落ち着け。

 騎士たちも異様な光景に隊列を乱している。

 声をかけるべきだろう。だが何と言う?


 あそこまで広範囲に巨体な熊の像を置いている理由は何だ?

 訪問者を壁に近づけさせないためか?

 立てこもっているつもりなのか?


「皆! よいか! シャーロッテ様はお屋敷にいらっしゃった頃とは比べ物にならないほどの癇癪を爆発されたようだ。石像を倒したり破壊したりすると手がつけられなくなるだろう。面倒だが間を縫って進むのだ! 各班から一人ずつ出して三方から進入せよ!」


「はっ」


 騎士たちは剣技だけでなく攻撃魔法も使えるが、村を制圧しに来た訳ではないのだ。

 騎乗したまま進めるか様子を見ることにした。

 馬が、巨大な熊に見下ろされて躊躇しているように見受けられたのだ。




 三人の騎士たちが熊の像を通り過ぎた時、それは起こった。

 聞いたことのない不快な音があちらこちらから一斉に鳴り始めたのだ。


 ブォッ! ブォッ! ブォッ! ブォッ!

 チロンチロン! チロンチロン!


 馬が一斉にいななき、騎士たちを振り落とそうと暴れ出した。

 人間ですら恐怖を覚えるような不気味な大音響だ。繊細な馬が耐えられるはずがない。


 ……どうする? いったん引くか?

 いや、それはできない。

 どこで鳴っているのだ? は? 熊の像からか? どういう仕掛けだ?

 この音を何とかしなければ。


「像を壊せ! 破壊を許可する! そうすればこの音も止むはずだ! 壊して進むのだ!」


 馬車は横転し、狂ったように逃げ出す馬に踏まれている騎士もいる。

 隊列は崩れ怪我人も出ているが退却はできない。

 かろうじて騎乗している騎士が数人、熊の像に向けて至近距離から火魔法を放った。

 それにつられるように、馬上にいる騎士だけでなく、落馬した者たちも動ける者は皆本気で攻撃を始めた。

 風魔法や水魔法など、そこら中で攻撃魔法が乱れ飛んでいる。

 これでは相打ちの危険があるが、リスクを考慮している場合ではない。

 全壊には至らずともヒビが入るなり、とにかく損傷させれば音は止むだろう。


 ……は? なぜだ?

 どの攻撃も効いていない。傷一つついていない。

 そんなことがあるか? たかが石像だぞ!

 いくら大きいとはいえ、あの者たちは岩に亀裂を入れることができるくらいの魔力の持ち主だぞ!

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逃げた馬はお家に帰れるのかな?
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