68 フィッツジェラルド公爵からの手紙
ドルンを追い返して一週間経ったた日の昼下がり。
応接室に、私とアルフレッドが向かい合って座り、キースがアルフレッドの側で控えて立っている。
まあ、私の後ろに立たれても気持ちが悪いからそこは指摘しないでおく。
「それにしても参りましたね。まさか――ね」
アルフレッドが口にしてはいけない名前みたいに言っているけれど、私ははっきり言える。
「フィッツジェラルド公爵は、自分ならば娘の私を御せるとふんだってことね。そんな風に舐められたと思うとはらわたが煮えくりかえるんだけど」
「え? はらわた? 煮えくりかえるって……え? お嬢、ほんと、どこでそんな言葉を覚えてくるんですか」
「放っておいてちょうだい。それよりも、この手紙だけど」
まさかの実家からの手紙。
こんな辺鄙な開拓村に、仰々しい馬車で乗り付けた公爵の使者とやらが手紙だけ置いて、返事は受け取らないとばかりにそそくさと返って行った。
ゲルツ伯爵め!
使者が追い返されて面白くなかったのか、父親に連絡を入れやがった。
手を組んで生意気な小娘をギャフンと言わせてやろうぜって持ちかけたんだろうな。
私をへこませて、ついでに食料を奪うつもりなんだろう。
『辺境の開拓村で領主気取りをしているらしいが、基本的な社交すらおぼつかず、近隣の笑い物になっていると聞いた』
……あんのヤロー。
きっと周りくどく、でも確実に父親を苛立たせるように話を持っていったんだろうな。
それにまんまと乗せられたのか、それとも――。
『そこの開拓地は、本来ならば王都の食糧庫となるべく開拓をしていた村だ。どんなに僅かな量でも、収穫後の余剰分については報告があってしかるべきなのに、お前は一度も報告をよこさなかった。怠慢以外の何ものでもない』
あー。最後に会った時の顔を思い出す。へっ!
『余剰分については謹んで進呈すべきところ、その作法も知らず労力もないと聞く。お前の監督者である私の評判にも傷が付きかねないので、こちらから出向いてやろう』
……は? 余剰分を寄越せだと?
「何なのよ、これ。フィッツジェラルド公爵家ならお金に物を言わせて食料を買い占められるでしょう? ちっぽけな開拓村で収穫された食料を横取りして何になるの?!」
「まあ、そりゃあ、嫌がらせにはなりますね」
「ぐぅ……確かに」
そうか。嫌がらせか。
私の泣いて縋って謝る姿でもご所望か?
絶対にしないから!
「フン。受けて立とうじゃないの」
「え? いやいや。お嬢。何を物騒な方向にいってんですか。資金力から兵力から、もう何もかもが数十倍の相手ですよ。まともにぶつかったら勝てませんよ?」
それは認める。
でもまともにぶつかるつもりはない。
「正々堂々と真正面からぶつかったら、でしょう?」
「いやいや。そうではなくて。ぶつかることなく収める方向を考えましょうよ!」
「喧嘩売ってきたのは向こうよ? 私はただ買うだけ」
「だーかーらー! そういう発想は止めて、もうちょっと穏便に済ませられないものですかね。その無駄に高いプライドのせいで取り返しのつかないことになりかねませんよ?」
嫌だね。
「不吉なことを言わないでよね。とにかく(攻めて)来るっていうんだから、迎え打つ準備をしないとね」
「いや、ですから。丁重にもてなす準備をしてくださいよ。返信を持たせた使者を送るのが先ですけどね!」
使者なんて送ってどうする。
「正式に丁重な返事を書いて送り届けたとしても、気に入らない内容なら手違いで受け取っていないとか、なんだかんだで読んでいないと一蹴されるだけよ」
権力と財力のある厄介な男だよ。
「ねえ、それよりも。公爵にチクったのはゲルツ伯爵だと思うから、南から公爵が、西からゲルツ伯爵が同時に来たりしない?」
公爵がうちを蹂躙した後でおこぼれでも貰おうっていう算段かな。
食えないやつかも。
「辺境の地の案内役とか、そういう肩書きで同行することは考えられますね」
「だよね」
「お嬢。攻めてくるっていう妄想は捨ててくださいね。圧力をかけるために、それなりの人間を送り込んでくるとは思いますが、まずは話し合いのテーブルについてください。そして、相手の顔が立つ程度の土産を渡してください」
あぁん?
こちとら最終的には全員を道連れにして、あたりを火の海にしてしまうシャーロッテちゃんなんだぞ。
こんなところで屈せるかっつーの。
あー。私も屈強な兵が欲しいなぁ。
そんじょそこらの軍隊じゃ太刀打ちできないくらい強い私兵が欲しい。
武器も必要かなぁ?
備えあれば憂いなし。
よぉっし!
金はなくても、色々やれることはあるんだからね!
「アルフレッド。決めたわ。畑の増設はいったん中断して、迎撃準備に入るわ」
「……は?」
◇◇◇ ◇◇◇
無我夢中で小人どもを駆使すること五日。
最低限必要な措置は講じることができたと思う。
あとは領民の避難訓練とか、そういうことをしておきたかったけれど。
まあ侵入されなければいいんだもんね。
今日も朝からアルフレッドが嫌味ったらしく、私の前で「はぁ」とため息をついている。
せっかく食べた朝食が胃もたれしそう。
「あのね、いい加減、その――」
文句を言いかけた時、ドアの上に設置していた赤いパトランプが周り、警報音が鳴り響いた。
「お嬢! あのピロピロいう音と全然違うじゃないですか!」
「そりゃあそうよ。これは武装している者が近付いた時の警報音だもの」
「え?」
あの父親め!
この私のところに騎士という名の私兵を送り込んできやがった。
「行くわよ!」
◇◇◇ ◇◇◇
外に出てスクーターでブーンと防護壁に行き、急いで上り、出来立てほやほやの双眼鏡を覗くと、見慣れた公爵家の制服を着た騎士たちが隊列を組んでこちらに向かって来ていた。
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記憶喪失の主人公(前世コミュ障、現世では最強の魔女)が愛息との平穏な日常を取り戻すお話です。
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