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外伝16‐2話 予言と運命の出会い

 それから数日が経ったある日。


フランネル「ぬおぉぉぉっ!!」

リズリット「力任せではいけません。もっと己の内に語り掛けるように」

フランネル「ぐぬぬ……ぐはぁっ」

リズリット「だから力任せはダメだと言っているでしょう。精神を安らげ、祈るように灯すのです」

フランネル「…………ふぅ」


 家の傍に設けた修練場にて浄化の炎を扱う術を学ぶ。

 リズリットは才能があると言ってくれるが、当のフランネルは別段そうは思わない。

 自分に才能があるだって? そんなの何かの勘違いだろう。まさにそんな気持ちだ。けれど、信じてくれる彼の指導を無下にもできなかった。


 距離を取った所で悪戦苦闘する彼を見守るリズリット。

 そんな彼のもとにフランジュがやってくる。彼女は兄の傍らに座し、目の前で鍛錬に勤しむ若造を見やって口を開く。


フランジュ「調子はどう? 成果は出たの」

リズリット「いいえ。まだまだですよ」


 これはまだかかりそうだと言う。

 フランジュはそんな兄と、奮闘する甥っ子を羨まし気に見つめた。


フランジュ「ホント、余計な寄り道ばかりするんだから」


 せっかく才能があるというのに……。

 それなのに、くだらない悪さばかりしているから一向に上達しないのだ。

 生まれた時から彼を知る者は言っている。潜在的な能力は精霊王にも匹敵する逸材だ。浄化の炎を操る稀な才まで持っていた。現状でも十分な強さを持っているだろう。

 でも、まだまだ未熟者だ。外見的な強さではなく内面の強さが特に。


 ただ無茶苦茶に力を振るうばかりで繊細さの欠片もない。

 ちょっとした刺激で意地になり、すぐ暴力になる強さでしかないのだ。誰かを守るための、救うための力が宿る土台がまだできていないと言えた。

 経験の差もあるだろうが、なによりも悪ガキに混じって暴走しているばかりじゃ話にならない。


フランジュ「はぁ、あの子とそう歳の離れてない子が最近精霊王になったのに……」

リズリット「それって例の預言者ですか?」

フランジュ「ええ。まだ1000にも満たない歳の子よ」


 精霊人にとって300~400歳など大した歳の差には感じなかった。

 何故あんな風に育ってしまったのか。それとも男の子特有の通過儀礼みたいなものだろうか。彼らに性別はないのだが、それと似た感覚を感じる時くらいはあるものだ。

 2人で話していると、修練していたフランネルが気づいて歩み寄ってくる。


フランネル「叔母ちゃん。何しに来たんだよ」

フランジュ「あら、来ちゃ悪いっての? 妹が兄の家に来るのは普通でしょう」

フランネル「ふーん」

フランジュ「可愛げないわねぇ。ついでに貴方の調子も見に来てやったのに」

フランネル「そいつは余計だっつの!」

リズリット「はぁ……会えばすぐこれだ」


 リズリットは呆れた様子で深く息を吐きだす。

 フランジュも甥っ子が可愛いクセについ力が入る。それがわかっているから見ているほうは肩を落とすしかない。

 しばらく賑やかな会話が続く。そこに若者が来て、フランネルが飛び出していくまで……。



 また時が経ち、ある日の事だ。

 いつものように喧嘩して帰った翌日、フランネルはリズリットに連れられて地の精域まで足を運ぶ。数日間歩き続けて地の精殿を訪れる。

 確かここには叔母の古くからの知り合いがいるんだったか。そんな事を考えながら殿内に入った。


 整えられた一室に通され、しばらく待つと1人の男が入ってくる。

 ランパード……地の精霊王だ。彼はリズリットと親し気に話す。初めて見たなとか、厳ついおっさんだと何ともなしに思う。そんなフランネルにチラリと視線を向ける男。


ランパード「こいつがお前んトコの問題児か」

フランネル「あん?」


 ケチをつけられた気がして眉根を寄せ、キッと睨みつけた。

 すぐ隣で潜めたため息が零れるのを聞く。その後これまた控えめな声音で嗜められた。何故かリズリットが謝罪している。


フランネル(んだよ。人のコト見て問題児だとか抜かしやがった野郎にっ)


 正直にいって第一印象はよくなかった。両者のどちらから見ても。

 どうしようもなくムシャクシャして「ふんっ」と視線を逸らす。こんな調子の若者に2人は各々に胸を痛めた。

 一方は心底申し訳なさそうに、そしてもう一方は腸が煮えくり返りそうな困惑顔だ。怒りと頭痛が同時に襲ってきそうな予感が今からしていた。


リズリット「……まぁ、見ての通りです」

ランパード「は~ん。大体わかった」


 妙な具合に意思疎通が叶っている2人。

 フランネルは自分が預かり知らぬ内に話が進んでいた事をまだ知らない。自分を置いて彼が返っていくのを見るまでは――。

 否応なく状況を突きつけられた時、問題児である彼の絶叫が響いたのである。



 フランネルが地の精殿に預けられて1ヶ月くらいが経った頃。

 その日も彼は抜け出していた。恐ろしくしんどい授業から……。


フランネル「へへっ、ちょろいぜ。俺様の自由は誰にも奪えない!」


 いつものように秘密の抜け道を使い外へ出る。バレないよう思考を凝らした罠や、複数個所に設けるなどをしていた。

 肩っ苦しいおっさんとマンツーマンで指導を受けるなんて御免だ。あんな肩が凝る授業を回避するためならどんな労力も厭わない。それだけあの人とは根本的に相性が悪かった。


 ランパードを待つ間の僅かな時間を利用して脱走を決行する。毎回そんな調子である。

 現状を知っている神官らは、その効率が悪い労力のふり方に呆れるばかり。中には諫める者も当然いたが彼は丁重且つ大胆に却下した。彼らに対しては比較的にまともな態度であたる。

 そして、何度目かの逃亡の先でフランネルは遭遇した。


アナ「君が今預かってるっていう問題児かぁ」

フランネル「あぁん? 問題児だとぅ、テメェ喧嘩売ってんのかっ」

アナ「うわぁっ、ごめん。別に貶すつもりはなかったんだ。ただ、もっと怖い感じを想像してて……」


 これが2人の出会いだった。無駄に眩しい笑顔の爽やか野郎だ。妙にキラッキラしたオーラを放っていやがるぜ。そんな第一印象を目の前の男から感じた。

 最初の声掛けを失敗したアナは、案の定というかガッツリ睨まれてしまう。それでもめげずに容赦なく歩み寄っていく。正直にいってずっと前から興味があったのだ。

 だから此処に来る日がきて、ワクワクとドキドキが収まらなかったともいえる。


アナ「でも思ってたより怖くないかな。ふーん、なるほど」

フランネル「んん?」


 アナはじっくりと相手の顔を見て言った。

 なんなんだコイツ、急に神妙な顔をしやがってとフランネルは思う。この場の雰囲気には微妙に合わない光精人種の青年。そもそもなんでこんな所にいるんだろうか。

 まだ名前すら知らない光の若者は、顎に手をやって眉間にしわを寄せていた。


アナ「君には悲痛な運命が待ってる。心を抉るような辛い運命が……」

フランネル「んだと?」


 またまた聞き捨てならない言葉を吐きやがったぞ。

 その所為で一度は緩めた視線をまた鋭くする。だが、相手はまったく気にもしていない。


アナ「だけど挫けないで。その先に確かな光も見えるから」

フランネル「……意味わかんねぇ」

アナ「今はね。それより、君とは仲良くなれそう。自己紹介しようよ」

フランネル「はぁ? 何処からそんな流れになった」


 コイツ、まさか人の話を聞かないのか。

 とんでもなく面倒な奴に掴まった気がしてきたぞ。などと自分の事を棚に上げて一方的に思っていた。傍から見たら彼も似たようなものであるのに……。

 心中で不審がっている事など知らず、アナは「僕の勘って結構当たるんだ」なんて言いながら勝手に自己紹介を始めた。仕方がないのでこちらも名乗ってやる。


アナ「フランネルだね。じゃあ、フーちゃんかな。それとも……」

フランネル「ああん? 何言ってんだテメェ」

アナ「もちろん愛称だよ。うーん、イメージ的にはラルって感じかな」

フランネル「なんでもいいっつーの! おっと」


 ちょっとばかり声を張り上げてしまい慌てて口を塞ぐ。

 誰にも見つかってないよな、と1人でに警戒し辺りを見回した。目の前のコイツ以外に誰もいないのを確かめてひとまず安堵する。


フランエル(とにかく移動したほうがいいな)

アナ「アレ、何処行くの?」


 そそくさと移動を始めた彼に、キラッキラ野郎が怪訝な顔を浮かべてついてきた。まったく声を潜める様子のないこの野郎に「しーっ」と合図を送る。

 まったくもって厄介な奴に出会ってしまったものだ。しかもついてくるとか質が悪い。


フランネル(こんな目立つ奴連れてたら見つかっちまう。なんとか巻かねぇと)


 だが、どういう訳か引き離せなかった。

 何故だ。何故、こいつは今も後ろにいるのか。|光精人種(ヤツ)ら特有のナニかなのかと疑う。けれど魔法の類を使っている素振りは全然ない。

 まさか純粋な身体能力でついて来ているのだろうか。だとしたらますます面倒だぞ。


フランネル(ぐぅ……おっさんも神官連中も楽勝だったのに……)

アナ「ねえねえ、これから何処行くの? 何か楽しい事かな?」

フランネル「黙ってろ」

アナ「うん」

フランネル(どうする。こんなひょろっちそうなのを連れて喧嘩は……)


 いや、待てよ。そもそもコイツはどうやって精殿まで来たんだ?

 考えてみたら変だ。1人で来たのか、それとも連れがいたのか。でも連れがいるのならソイツをほっぽって来るかどうか。

 なら1人で……もしもそうなら、このキラッキラ野郎は意外とやるのかもしれねえ。フランネルは瞬時に考え行動に移した。要は試せばいい事だ。


魔物「ギャアァァァッ」

フランネル(ナイスタイミングだぜ)

フランネル「ちょうどいいカモがいんな。おい、倒してこい」

アナ「えっ、でも……」


 躊躇っている様子にフランネルは「ははん」と勘ぐった。


フランネル「お前まさかアレか。お坊ちゃんだから戦えねえってヤツ?」

アナ「いや、お坊ちゃんじゃないし。護身の術くらいは一応心得ているけど」

フランネル「じゃあ問題ねぇな。行け、援護くらいしてやっから」

アナ「わかった」


 じゃあ行くよ、と急にやる気を見せて弓を構える。

 それを見て「へぇ、こいつは弓使いか」などと思った。それよりもコイツ、何処から弓を出したんだろう。一見して携帯しているようには見えなかったが……。

 この2人だけで挑む戦闘。対する魔物は「アーススピリッツ」が4体だ。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 時間は少し遡り、ランパードは自室で書類整理をしていた。

 ふと手を止め時刻計を確認する。そろそろ指導にあたる時間だ。今度こそ大人しく待っているといいが……。そんな事を考えながらある日の会話の内容を思い出す。


ランパード「貴殿とこの若造を指導するだと?」

リズリット「はい。フランネルと言います」


 これまた面倒な事を頼んできたものだ。当時はそう思っていた。

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