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外伝16‐1話 この漢、喧嘩番長!

 【サイドストーリー名 漢の最終幕(ラストステージ)火斑(かむら)の姫神子は炎泥(えんでい)に消えゆ~】

 サイドストーリーの解放条件

 条件1、炎の印と光の印を所持。

 条件2、神樹編、魔王の居城での増援到着までやっている。



 今から386年くらい前。その漢は日々喧嘩に明け暮れていた。

 こだわり抜いた派手派手しい一張羅を羽織り、数人のダチを引き連れ街道を行く。


不良A「おうおうおう! 道ぃ開けろや!!」

村人「ひいぃっ」

不良B「ひゃっほぅ」

セレーネ「うわっ。あからさまな不良ね」


 周囲の人々を脅し倒して道のど真ん中を突き進む一団。

 彼らはこのアギ村では有名な悪ガキどもだ。魔法で作り出した火車をかっ飛ばし、遠く離れたカヤの里まで行く事もある。だが、基本的な拠点はこの村であった。


不良C「おっ、姉ちゃん綺麗だねぇ。俺っちと遊ばねえ?」

セレーネ「は?」

不良B「ああん? なんだ、野郎もいるじゃねーか。ヘンテコな格好しやがって」

ラソン「なんだとっ」

リジェネ「まあまあ、落ち着いて」

不良B「黙れもやし!」

リジェネ「も、もやし……」


 本来の姿とは違って見える所為なのか、変な風に絡まれてしまった一行。それでもセレーネの事は美人に見えるらしく鼻の下を伸ばしてナンパしてくる。

 そんな連中の中心に立つ1人の漢。この中で最も才覚に優れ、先代から「喧嘩番長」の名と地位を受け着いた若造がいる。その漢とは――。


フランネル「テメェら、道草くってねぇで行くぞ!」

全員「へい、親分」

リジェネ「あれはこの時代のフランネルさん?」

リーヴェ「みたいだな」

セレーネ「あれはアレで派手だけど、顔はまんまね」


 そう、皆さんがよくご存じのフランネル。その幾分か若かりし頃である。

 武器を使う手下どもと違い、この漢の武器は強く逞しい己の拳のみ。これが先代から受け継いだ誓いと誇り。この当時はそう思っていた。


 誰もが遠巻きに歩き去っていく中、彼らの前に立ちはだかる人影が1つ。

 背格好は長身の女だ。短く整えた髪をゆらゆらとなびかせ、腕を組み仁王立ちしている。一団が、いや通りすがる人の誰もがこの人物をよく知っていた。

 安心する村人達とは別にフランネルが従える若者らは顔を引きつらせる。あの人は……。


フランジュ「まぁーたこんな事して。こんな所でナニ悪さしてんの!」

不良達「ひっ、精霊王だ」

フランネル「お、叔母ちゃんっ。どうして此処に」


 悪ガキどもに1人対峙するこの人こそ、当時の精霊王を務める人物・フランジュだった。そして、フランネルとは浅からぬ縁の持ち主だ。

 以前会った時とよく似た白基調のゆったりとした衣服を纏っている。


 彼女は般若の如き形相でこちらを睨めつけ、静かに燃え盛る気迫で群れる若造どもを恐れさせた。

 この光景はアギ村では至って日常だ。対峙する彼らも、傍観する者らも「またか」といった光景でしかない。とても見慣れている。


フランジュ「毎日のように騒音、暴力、大騒ぎ。いい加減になさい!」

フランネル「はぁ? お、叔母ちゃんには関係ねえーだろ」


 一瞬ビビりはするが、親分である漢は引き下がらない。


フランネル(こちとら後輩を連れてんだ。今度こそやってやるっ)


 全身全霊の気迫を相手に飛ばして必死に牽制する。

 後ろには何人ものダチ……後輩や同期が控えているのだ。一歩も引けるか。

 これは意地だ。意地でも前に出て売らなくてもいい喧嘩を売り飛ばす。生半可な奴なら、ちょっと睨んで脅せば引き下がる。

 だが相手はそんな奴じゃない。当然だがわかりきった答えが返ってきた。


フランジュ「まだ反省が足りないみたいね」

フランネル「あぁん? 反省する事なんざ、この俺様にゃあねえ!」

フランジュ「ふふふ……その変な言葉遣いもこの場で強制してあげるわ」


 静かに始まった戦闘。次第に激しく燃え盛る両者の闘士は凄まじかった。


不良A「ひいぃ、おっかねぇ」

不良B「誰か加勢しろよ」

不良C「バカッ! 下手に加勢してみろ。俺達が殺されちまうぜ」

不良D「親分は横やりされんの嫌うからなぁ」

不良B「けど、今回は相手が悪いぜ?」

リジェネ「喧嘩を始めちゃいましたよ」

リーヴェ「止めたほうがいいのか?」

アルマ「いいえ。もう少し様子を見ましょう」


 恐ろしくて遠巻きに見守るしかできない若者達。火花が散る度に震え上がり、どうにかしろよと仲間の尻を押し合う。

 しかし、誰も加勢どころか近づく事さえできない。見事な腰抜けっぷりだった。


 いいや、違う。今対峙している2人が強過ぎるのだ。

 精霊王であるフランジュは当然だが、相対するフランネルも非凡な才能を持っている。

 周りの人々からも将来有望だと言われているくらいなのだ。問題児なのがもったない、と。下っ端でも耳にした事があるくらい有名な噂だった。

 そんな2人を止められる奴なんて此処にはいない。そう、此処には……。


???「2人とも、こんな所でなにを騒いでいるんです?」


 ピキンッ、と2人の動きが止まった。

 唐突に響いた声。予想だにしない方向から聞こえた声に皆が振り向く。

 一瞬で人々の注目を集めた声の主は、女性に見間違うくらい美形の男性だった。いや、精霊人だから明確な性別がある訳じゃない。ただ体格や声音は若い男性のものだ。


セレーネ「えっ、ナニ。誰?」

アルマ「あの方は……」

リーヴェ「知ってる人なのか」

アルマ「少しね。これならもう大丈夫よ」

リーヴェ「ん?」


 そういうアルマは複雑な表情を浮かべていた。

 切ないような、懐かしむような、なんとも形容し難い顔だ。どうしてそんな顔をするのか、リーヴェ達にはわからない。

 彼女の想う所など露知らず、目の前で繰り広げられる物語は進んでいく。


村人A「姫神子様だ」

村人B「火斑(かむら)の姫神子様だ」

フランジュ「り、リズ兄さん。ど、どどどうしてこちらに?」

???「見てわかりませんか。ちょっとそこまで買い物に出ていたんです」


 そうしたら騒ぎが聞こえるじゃないですか、と彼は悩まし気に言った。

 この男性の名はリズリット。聞いての通りフランジュの兄的な存在で、火斑の姫神子と呼ばれている人物である。

 本人が言う通り、彼の手には小袋が握られていた。


 正直にいってフランジュとはそこまで似ていない。

 だが、どちらも目を奪われる程の美人。女性的な顔をもつ彼は、長い白金の髪を首の後ろで束ねていた。毛先にかけて朱色や黄色のグラデーション。

 瞳の色は右が紅色で左が橙色のオッドアイ。また瞳には、右が薄紫で左が空色の輝きが金粉の如く内包されていた。


 彼が身に纏うのは和の雰囲気がある衣装。こちらも白から桜色への見事なグラデーション。桜色の部分にはうっすらと七宝つなぎの模様があり、模様のない白地には桜の刺繍が施されている。

 身長はフランジュより少し低かった。フランネルと並べばもっと小柄に見えるだろう。神秘的で儚げな印象を受ける人だ。

 彼の姿を遠巻きに見ていた人々、特に女性らが黄色い悲鳴と視線を上げている。


リズリット「フランネル、なぜ固まっているんです。さあ、帰りますよ」

フランネル「は、はいっ」

不良達(あっ……終わった)


 この人物の登場で戦いは強制終了だ。そして強制的にこの場は解散である。

 どうあっても彼にフランネルは逆らえない。だってこの人物、リズリットは親分にとって何にも代え難い間柄……育ての親なのだから。本人的にも大好きな人である。

 急に従順な態度になった理由を、この場にいる誰もがとうに知っていた。


 その人の傍だとフランネルは形無しであった。

 急に幼くなったように顔を赤らめ、ぎこちなく手足を揃えて横を歩いていく。初めからそうインプットされていたかの如く一切の口答えをしない。

 見られたくないと所を見られてしまった、というのもあるだろう。恥ずかしい秘密を知られてアタフタする少年のようだ。この場をごまかすのに余念がない。


フランジュ「ちょっと待ってリズ兄さん」


 歩いていく彼らの後をフランジュが慌てて追う。

 そして、3人は並んで帰路についた。正確には1人だけ帰る場所が違うのだが、途中までは方向が一緒なのでお供をした。

 置き去りにされた一同は唖然としたままその背中を見送る。


リズリット「それにしても……あれだけ喧嘩はいけないと言っただろう?」

フランネル「…………」


 帰り道、ふと隣に言葉をかけるリズリット。視線は前を見据えたままだ。この人の声音はいつでも優しい。穏やかな気性が声にそのまま表れている。怒っている時でも。

 フランネルは視線を下げて隣をついて歩く。言葉をかけられても、適切な返事なんて思い浮かばなかった。何を言っても嘘になる。言えばまた困らせるだろう。


 守れない約束をするつもりはない。返事だとしても言いたくなかった。

 自分はやりたい事をやっているだけ。心の底から悪いとは思っていないから謝るのも変だ。いや、少しは悪いと思っているがそれはリズリットに対してだけだ。村でしている行為自体の事じゃない。

 すぐ横で深いため息がひとつ零れた。リズリットのものだろう。


リズリット「聞こえているのかい? 黙ってないで答えて」

フランジュ「そうよ。もっと言ってやって兄さん」

リズリット「お前にも言っているんだよ」

フランジュ「えっ?」

リズリット「えっ、じゃないでしょう。一緒になって喧嘩して」


 ただ、妹に対してだけはちょっとだけ強く言うのだ。そこも変わらない。

 いつもはお淑やかなほうである彼女も、兄の前では結構なお転婆娘だった。とぼけて、頬を膨らまし、懸命に言い訳をする。

 喧嘩ではなく躾だと言い張るフランジュに彼は苦笑いを浮かべた。


リズリット「私はね、ただ暴力を振るうだけの喧嘩は嫌いです。喧嘩をしてお前達が怪我でもしたら悲しい」

2人「…………」

リズリット「何かのために戦わねばならない時があるのは知っている。でも、喧嘩は違うだろう?」


 2人を言葉で諭しながらリズリットは前を向いて歩く。

 どんな理由があっても喧嘩は喧嘩だ。止める側まで同じ行為に走っては躾にならないだろう、と注意されているのをフランネルは横で聞く。

 注意している時でも柔らかい声音。どこまでも優しさの込められた言葉を聞き続ける。


リズリット「はぁ……本当に誰に似てしまったのだろうね」

2人「…………」


 最後にぼそりと零された呟きにはどちらも答えられなかった。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆



 【タルシス辞典  リズリット】

 性別  不詳  身長 167.0cm 体重 55.0㎏ 年齢4191歳

 フランジュの兄であり、フランネルを育てた親。外見年齢は20代後半。

 火斑の姫神子と呼ばれ、数少ない浄化の炎を操る才覚を持っている。一時期は守護者の代理も務めた。

 炎精人種の中でも希少な水に強い体質の持ち主で、そのため水に打たれて心身を清め鍛えるのが日課。また妹以上に器用で様々な炎を操る事ができる。



         ☆    ☆    ☆    ☆    ☆

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最新お疲れ様です。 [一言] 一触即発!かと思いきや、リズリットさんの鶴の一声で喧嘩終了。 ヤバイですね、この回だけでリズリットさんがもうステキ過ぎます! これからも応援してます!…
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