外伝16‐3話 共闘
ランパード「指導なら貴殿がやればいいだろう。フランジュ姐さんもいるんだからよ」
リズリット「あはは……それがね」
頬を指で搔きながら苦笑いを浮かべている。
彼の地では姫神子と呼ばれるこの御仁は指導者としても経験豊かだ。浄化の炎に関しては大勢の生徒を見てきた事だろう。
そんな人が若者1人に手こずっているというのか。ランパードは疑問に思った。
ランパード「ナニか問題があると?」
リジェネ「ええ。あの子はちょっとやんちゃが過ぎる時があって」
ランパード「ほう」
リズリット「妹のほうも力が入り過ぎてしまい、まさに火に油。気づけばあちこちに引火している状況で……」
要するに互いともエキサイトしてしまうのか。手がつけられない程に。
フランジュとつき合いの長い身としては納得できる話だ。普段こそお淑やかに見える彼女だが、その実はかなりの激情の持ち主だ。一度爆発すると熱血なんてものじゃない。
その癖腕っぷしも強いほうだから手が出た際には大惨事を招く。アネルセリア相手に一歩も引かない戦いをして見せたくらいなのだ。
ランパードとしては、アネルセリアよりもフランジュがキレた時のほうが恐ろしかった。
ランパード「惨状が目に浮かぶな」
リズリット「はい。幸い2人とも聞き分けはいいんですが」
毎回止めるのも大変なのだと彼は言う。まあ、そうだろうな。
いや、むしろ大乱闘になった両者を止められるこの御仁が凄のか。毎回アレとやり合っているのなら若造も相当の能力を持っている。まず並みの者では歯がたたない。
聞き訳がいいから彼が言えば聞くかもしれないが、無理強いしても何の意味のない事だ。育ての親としての情が混ざってあまり厳しくできないともあった。
リズリットとしては、ただ叱るというのも好きになれない。子供や若者にダメだダメだと強要するのは違う気がする。注意する事はあってもあまり強く言えないのだ。
ランパードは息子の事になると甘くなるこの人に苦笑を向けた。
そして今、やんちゃが過ぎる若者の存在に頭を悩ませながら通路を進む。生徒が待っている筈の部屋の前まで来て、ランパードは一度呼吸を整えた。そっと扉を開ける。
ランパード「…………またか」
扉を開けて中に入ると、そこに目的の人物の姿はなかった。
またしても逃げられるとは。毎度来る前に手を打ってくるのが忌々しい。
ランパード「あのバカ造、せいぜい覚悟しておけよ」
沸々と沸き起こる衝動を堪え静かに怒気を放つ。
眉間に深いしわを刻んだ彼の様子に通りすがった神官らが怯えた。
幾度注意しても懲りない若造。叱るばかりでは成長がないと知りつつも怒りを抑えきれない。そしてフランネルが故郷に帰る日もまた遠のいていく。それを当人は知らぬ。
まったくいつになったらまともに指導を受けるのか。頭痛を覚える毎日であった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
時は戻って戦闘中。順調に魔物を倒し、残る2体と対峙する2人。
マナで生成した弓矢で的確に敵を射抜くアナ。フランネルは援護しながらそんな彼の姿を観察していた。思っていたよりもやる。いや、かなり強い。
もっと苦戦するかと思っていたが意外にもあっさり決着がついた。当然勝ちだ。
アナ「はい、終わったよ」
フランネル「おう。……てか、お前なかなかやるじゃねぇか!」
アナ「まあ一応精霊王だからね。これくらいお安い御用だよ」
フランネル「…………へっ? ええっ!?」
さらっと言い放たれた一言に驚く。危うく腰を抜かす所だった。
フランネル「あれぇ、聞き間違いか? 今精霊王って聞こえたぜ」
アナ「だからそうだって言ってるじゃないか」
フランネル「そ、そんなバカな」
こんなのが精霊王だと。誰が、このキラッキラ野郎がか?
見た感じだと歳も、多分自分とそう変わりない。おそらく1000歳は越えていない気がする。
フランネルは改めて相手の姿を上から下までしっかりと見た。何処からどう見ても普通の光精人種だよな。特別な力を持っているようにも……いや、大分変な事を言ってたっけ。
フランネル(ん? 光の精霊王って確か叔母ちゃんが……)
フランネル「そういや親父達が、最近光の精霊王が変わったって話してたような」
アナ「そう、ソレ。やっとわかった?」
フランネル「おう……つまりまだ新米なんだな」
アナ「うん。ひよこちゃんみたいで可愛いでしょ」
フランネル「ひ、ひよこ?」
唐突に何を言い出すんだと眉根を寄せた。
だがアナはやっぱり気にした風もなく、眩しいくらいの笑顔を浮かべたままだ。
アナ「家にも最近生まれてさ、すっごく可愛んだ」
フランネル「家にいるのか?」
アナ「うん。他にも猫とか馬とかいるよ。今度牛を1頭譲って貰う事になったんだよねぇ」
楽しみだなぁ、とアナは言う。
彼の話を聞きながらフランネルは疑問に思った。
王の精殿ってそんなだったか。コイツ、牧場と勘違いしているのでは?
猫とひよこまではまだ納得しよう。だけど、さすがに馬とか牛はないだろう。いやでも馬は足代わりに飼っているのか。うーん、わからん。
フランネル「やっぱりコイツ変だ」
精霊王なのを抜きにしても……。
つーか、いろいろと設定を盛り過ぎじゃねーか。
なんなんだよ。精霊王で、おそらく若くて、家が牧場っぽい。おまけにキラッキラで爽やかスマイルを絶やさない。更に意味深な事まで言ってきやがる。
大混乱する思考の中で、ある意味に的確な分析をしていた。こんなのツッコまざるを得ない。
アナ「あっ、そういえば何の話をしてたんだっけ」
フランネル「はあっ!?」
アナ「だって用があるから出て来たんだよね」
フランネル「お前、知らずについて来てたのか」
アナ「うん。楽しそうだったから」
フランネル「…………」
設定追加だ。光の精霊王はヤベェー奴だ。間違いない。
とりあえず相手の力量はわかった。新米でも精霊王なら強さは問題ないだろう。失礼な事とか、変な事とか言うのがちょっと気にかかるがまあいいか。
なにより自分が知る精霊王の中では一番気が知れそうな気がした。肩っ苦しくないし、あまり煩くもなさそうだ。ここには他にダチもいないしちょうどいい。
アナ「どうしたの。大丈夫?」
フランエル「おう。よーし、お前ついてこい!」
アナ「うん!」
彼らは一緒に歩き出す。アナが横から「それで何処行くの」などと聞いてくる。
それに対してフランネルは「んなもん適当にブラつくだけだ」と答えた。行き先なんてこれから考えればいい。いつもその場の気分で決めているしな。
そうして彼らは、帰った後仲良くお説教を食らうのである。
アナが時々通ってくるのはとても楽しかった。
たまにつき合いが悪いけど一緒に遊んでいて楽しい。悪戯もたくさんした。意外にも発想力が凄くて、引っかかった神官がアタフタと驚くのは見てて気持ちいい。
腕っぷしもセンスがあるので喧嘩のともにも最適だ。まず負けねえ。けど、まだ親友と呼ぶまでには至っていなかった。
フランネル「お前、最近おっさんの菜園に行ってるよな?」
アナ「うん。ガーデニングにハマっちゃってさ」
フランネル「ふーん。面白いのかソレ」
うん、と元気よく頷くアナ。
完全に影響を受けまくってるな。本当にコイツは何にでも興味を示す。
フランネルの戦闘スタイルをマネて派手なアクションをした事もあった。さすがにもとが弓使いだった彼には厳しかったらしく断念したが、ある程度近づいて攻撃する時が今もある。
おかげで技のレパートリーが増えたと喜んでいたっけ。
アナの畑を作った云々の話を聞きながら今日もブラつく。
光の力が加わってパワーアップした自慢の火車をかっ飛ばすのは最高に気持ちいい。
神官達は授業を受けろと口煩いが、コイツは今まで一度もそんな事を言っていない。だから気が楽だ。おっさんの授業を素直に受けている日があるのは少し癪だけど……。
あんなおっかなくて、肩っ苦しいのと一緒って楽しいのか?
フランネル「俺様にはわかんねーな」
アナ「えっ、なにが?」
フランネル「なんでもねぇよ」
不思議そうに首を傾げている。まったく変わった奴だ。
アナ「あ……アレはっ」
フランネル「今度はどうした。また例の好奇心爆発か?」
アナ「違うよ。向こう側で何かあったみたい」
トロアの里の街道を歩いていた2人。なにやら奥が騒がしい。
ひょっとして喧嘩か。そう考えると、フランネルは嬉々として首を突っ込みに行った。その後をアナも続く。自然と心が高鳴った。
現場に駆けつけると、その先に見えたのは魔物の群れと不思議な一行。
フランネル「喧嘩は何処だぁ! ……って、魔物かよ。つまんねぇ」
アナ「そんな事言ってる場合じゃないよ。助けないとっ」
必死に説得するダチと、だるそうに首や肩を回す番長。
魔物相手にやる気は出ないけど仕方ない。自分に気合いを入れるために拳を強く打ち合わせた。
フランネル「しゃぁーねえ。この喧嘩番長様が手伝ってやらぁ」
アナ「うん。2人で行こう」
フランネル「しゃあ――っ。速攻で決めるぜ!!」
リーヴェ「えっ……あれは!」
フランネルとアナが一行の戦闘に乱入。
敵はガイアリンクスとアーススピリッツの混成。かなりの数がいる。まずは近場の7体から討伐だ。内訳はリンクスが4とスピリッツが3である。
開幕早々にアナがスキル「予言の加護」をフランネルに使う。リンクを付与だ。
フランネル「漢の正拳突き」
セレーネ「うっわ。ださ……」
フランネル「んだとゴラッ。漢のネーミングセンスにケチつける気か!」
セレーネ「ひっ、聞こえてた!?」
即行で攻撃を放ったのはフランネル。強烈な拳の一撃が命中。セレーネよりも一撃の重さがあるようだ。連続攻撃も鋭い。
咄嗟に口を突いたらしい失礼な感想に相手を睨み返す。すぐ喧嘩を売りにくる漢の姿勢。この場にニクスがいたら、無駄口を叩くなと叱責が飛んできそうなやり取りだった。
アナ「僕も負けないよ。ミラージュ・プリズン」
魔物「――ッ!?」
アナ「そして! アサルトアロー」
魔物「ガアァァァッ」
敵1体をマナで生み出した鏡で取り囲んで惑わし、確率で混乱させつつ防御力と精神力をダウンさせる。その後見事なアクロバット射撃で的確に射抜いた。
射程が短いが近距離からでも打てる貴重な技だ。近づかれたら終わりなんて言わせない。
アルマ「さすが精霊王たる者の実力だな」
ラソン「頼もしいぜ」
正確にはまだ1人精霊王じゃないのだが実力は確かである。
アナ「ラル、右」
フランネル「おう」
魔物「グルルッ……」
唐突にもたらされた啓示に従い、華麗に回避し、その動作の中で反撃まで繰り出す。
この時点で既に慣れた様子の連携プレイ。幾度となく戦闘をともにしている証拠だろう。
アナ「次は後ろ!」
魔物「グガァァァッ」
フランネル「はんっ。背後をとろうってか」
癇に障る野郎だ。死角からコソコソとなんて漢の戦いじゃねえ!
背後から迫った敵に対して鬼気迫る一撃が炸裂。気迫が多分にこもっている所為か恐ろしい威力だ。うっすらと煙が出ているようにさえ見える拳。視線に宿る殺意が尋常ではない。
フランネル「いい気になるなよ。この程度で俺様が倒せるわきゃねーだろ!」
フランネルは魔物の群れに向かってそう叫んだ。




