第134話 暗黒界の乗り物
ラソン「マジかよ!?」
その一言に思わず言い返す。とうとう問題解決か、と思える程に唐突な情報獲得で拍子抜けしてしまう。ずっと問題だった神樹が復活すれば大きな進展になる。
しかし、本当に可能なのかはわからない。神々の力が行使できると言っても、どうやったら神樹復活に繋がるのかが不明なままだ。しかも本来の使い方ではないという話なら、使い方もわからない事になる。
リーヴェ「肝心の能力を使う方法はどうしたらいいんだろうな」
セレーネ「その剣って他に特徴とかないの?」
リジェネ「えっと。確か、王族しか使えないとか資料に載ってたような……」
ラソン「王族ってのはやっぱ天空人のって事になるだろし。だとすると」
この中で使えるのはリーヴェ、リジェネ、アルラートの3人か。更に言えば、フェラーノや国王夫妻なども使える筈だがこの場にいないので論外。
そこまで考えてもう1つ疑問が浮かぶ。
クローデリア「剣と言う事はリーヴェさんしか使えないのでは?」
ラソン「だよな。オレも今思ったぜ」
リジェネとアルラートは剣を装備できない。普通だったら使用者として不適切だが。
アルラート「神滅剣は特別な剣だからね。王族なら誰でも使える筈だよ」
言ってしまえば、武器ではなく貴重品扱いだから装備の縛りに入らないだけだ。
次に気になったのは剣単体で神樹復活までできるか、である。しかしこの問いに答えられる者も、推測できる者もいなかった。この疑問はもう少し調べる必要がありそうだ。
雑談を交えながら移動を続け、主都の議事堂近辺まで来た一行。比較的に安全な場所を探して進んだから若干大回りになってしまった。
ニクスの提案ですぐに首都を離れるのではなく議事堂内を探索する。まだこの辺りまで火の手は回っていない。議事堂の近くにはオアシスがあるし、周囲の通りも幅広い造りになっているから火の回りは遅いのだろう。
屋内をくまなく探してある物を発見する。見た事もない機械だ。
セレーネ「これは何?」
ラソン「変な形してるな」
アルラート「見ようによっては馬っぽいね」
彼の愛馬、ラペーシュが聞いたら腹を立てそうな発言をした。
発見した機械の正体はニクスが知っている。彼の説明でそれが乗り物であると知り、上手く利用できれば移動時間を大幅に短縮できるという。
乗り物の名称は「ホバーホイール」と呼ばれている。暗黒界では珍しくもない乗り物だ。
外観はバイクと車の中間でかなり独特の形をしていた。上から見たら三角形の本体には車輪がなく、操縦席はバイク寄り。後部に座席が横に並んでいる。乗れる人数は3人。
屋根は後部座席に折り畳み可能な天幕がついているのみ。動力は当然、マナ結晶を用いている。
ニクスが乗り物の点検を行う。
低い機械音が響き渡り、ブワッと風が波紋を描く。まだ浮かせていないのに髪や衣服が風に舞い上がった。見ているだけで「凄い」と言葉が零れる。
彼は平然としているが、機械に慣れていない一行は全然扱える気がしない。コレちゃんと乗れるのか、動くのだろうかと様々な不安が過った。
ラソン「この謎な物体に乗れるのか?」
セレーネ「不安でしかないわ」
アルラート「けど、こいつが使えれば移動が楽になるのは確かだよ」
3人乗りの乗り物だから、使う事さえできればリジェネ達は騎乗して飛んで行ける。操り手とは別に2人は龍と天馬に乗れるしな。
できるだけ手早く状態を確認したニクスが頷く。
ニクス「異常なし。乗れるぞ」
ラソン「マジか~」
セレーネ「腹をくくって乗るしかないわね♪」
重量を考えて、ホバーホイールに同乗するのはラソンとクロ―デリアになるだろう。得体のしれない物体に乗らなくて済んだセレーネは調子よくからかう。
他人事だと思って、とラソンが睨み返す。しかし彼女は気にしない。一方でクロ―デリアは未知の物体に興味津々で、さっそく乗り込んでいる。
ラソンは機械とか玩具っぽいのに憧れる割に、いざ使うとなるとビビるほうだった。前に使ったスイッチとは訳が違う。アレは押すだけ=触れるだけでよかったからな。
セレーネに急かされ、それでも躊躇うのでニクスにまで急かされる。
ようやっと全員が乗り込んだのを確認して出発する。ホバーホイールが低空に浮き上がり前進を始めた。その様に歓声を上げてしまうラソン。
ラソン「凄ぇー、どうなってるんだコレ!」
ニクス「おい、身を乗り出すなよ」
ラソン「おう。わかってるって」
さっきまでの様子が嘘のように興奮し始めた彼に釘を射す。
ニクスは飛ばされないように帽子を取ってしまい、代わりに砂避けのゴーグルを装着。
今まで殆ど隠れていた彼の髪が露になる。漆黒の髪はよく見れば艶のある光沢を持っていた。風でふわふわと揺れる感じから硬そうな印象は受けないが、普通の髪とは違う感じがした。
また、実はリーヴェも帽子が飛ばないように対策していたりする。
発進時もなかなかで、徐々に速度を増していくホバーホイールに乗り砂上を進む。後方には巻き上げられた砂が舞い、前方から吹きつける風にラソン達は目を細める。
ホバーホイールは龍や天馬に負けない速度を出していた。否、最高速度を出せばもしかしたら――。
しかし、急ぎつつも最低限の安全を保障して運用する。今まで通って来た景色が凄い速さで横を流れていく。これはなかなかに気持ちいい。
ラソン「ヤッホーッ」
クローデリア「危ないですから、はしゃいではいけません!」
ラソン「悪い。こんなの初めてだから、つい……」
今の状況も忘れて、つい年甲斐もなく叫んでしまった。さすがに今は不謹慎だろう。急に恥ずかしくなって身を縮めるラソン。怒られた子犬みたいだ。
彼の叫び声は上を飛行する2組にも聞こえていて、思わぬ視線を集めてしまう。
初めて乗ったホバーホイールは、ラソンにとって感極まる乗り心地だった。デザインも意外とカッコよくて馬も繋いでないのに速度が凄い。むしろ馬車より速い気がする。
このツルツルしたボディも心をそそられた。世の中にはこんなとんでもない物が存在していたのか。
ラソンの表情から考えを察したクロ―デリアがクスクスと笑う。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
道中で一度だけ野営を行い目的地に到着する。目立たない場所にホバーホイールを停車させた。
リーヴェ「…………ふぁ」
欠伸をしかけて飲みこむ。
眠い。昨晩はいろいろとあって寝不足だ。他の皆は平常通りに元気である。首を振ったり頬を軽く叩いて眠気を飛ばす。
気を引き締めないと足元をすくわれる。
ラソン「お前、大丈夫か?」
リーヴェ「う、うん。少し眠いだけだ」
リジェネ「姉さん……」
リジェネが暗い顔をする。そんな顔をする事じゃないだろう。
リーヴェ「本当に寝不足なだけだ。そんな顔するな」
リジェネ「はい」
ニクス「リーヴェ、これをやる」
リーヴェ「これは……」
ニクスが持っていた水筒を差し出す。中身は今朝淹れたコーヒーらしかった。準備のいい事だ。有難く一杯頂いく。よし、眠気は完全に消えた。
彼に礼を言って、口をつけた部分を拭き取ってから水筒を返却する。
気を引き締め直して神殿跡に続く道を睨む。ここに突撃するのは2度目だ。今一度皆の顔を見回して意思を確認した後、前方を見据えて口を開く。
リーヴェ「皆、行くぞ!」
全員「おお」
一行は臨戦態勢でアートルム神殿跡に突入した。
内部にはコボル郷配下の兵士らが各所に待機している。全員を漏れなく蹴散らす、という事はないが必要に応じて各個撃破を行う。倒した後は拘束しておくのも忘れない。
ここでの戦闘でラソンがLv43になった。
一度来ている場所なので道順には困らない。だが、敵の数が以前よりもずっと多かった。力を温存するために戦闘を回避するのも大変だ。
暗黒人兵「いたぞー!」
ラソン「また敵だ」
セレーネ「面倒だけどやってやるわ」
リジェネ「行きます」
何度目かの戦闘が始まる。
敵「コボル郷配下の兵士」×3「コボル郷配下の学者」×3が出現。
兵士「おらぁっ」
リーヴェ「っ、せいっ」
剣がぶつかり合う。力はやや向こうが上だが防げない程じゃない。今まで戦ったどの暗黒人兵士より力は弱いようだ。
兵士の基本兵装は剣でバランスのいい戦闘力を持っている。魔法は使えない。
代わりにデバフ効果のある攻撃技を使用してきた。威力は高くないが確実に弱体を狙ってくるのが厄介だ。ここはできるだけ回避を試みて対処。
リーヴェ「セイクリッド・バスター」
兵士「ぐっ」
ラソン「そこだ。精風刃」
上手く攻撃を繋げて各個撃破していく。
一方で学者のほうはというと――。
学者「ふっふっふ、そーれっ」
セレーネ「うっわ。危ないじゃない!」
リジェネ「ぎゃあぁぁ! な、何か零れた薬品から変な物がっ」
学者が投げつたフラスコを見事に避ける。フラスコは地面に落ちて内部の液体が零れた。液体がみるみると形を得る。見た目は完全にスライムだ。
学者「さぁ、行きなさい!」
魔物「ぼよよーん♪」
セレーネ「うげ、気持ち悪い」
決して喋る訳ではない謎の動く物体。一応「魔物」という事にしておく。
学者本人はそれ程強い感じではない。ただ状態異常や、魔物に変化する薬品を使って妨害してくる。逃げ足は意外と早くて追いかけっこになりがちだ。
フラスコに当たっても割と痛いので気をつけないといけない。
飛び道具で攻撃するメンバーで動きを止め、隙をついて回り込む。学者相手ならこのほうが楽だ。フラスコ攻撃も中距離、遠距離から攻撃すれば怖くない。
魔法は効き辛いようだったので、射撃ができるメンバーとリーチの長い槍使いで応戦した。
ポジションの入れ替えが激しく起こる。
アルラート「貫け! ブラックレクト」
学者達「があぁぁっ」
ラソン「翼閃斬」
リーヴェ「フォトンブリッド」
兵士「ぎゃあっ」
次々と攻撃が命中して敵を撃破していく。
この戦闘も大した時間をかけずに終了した。




