1人ぼっちの絶滅危惧種 第14話
朝、俺はまだ眠っているかなえを起こさないように気をつけながら狩りに出かけた。
疲れているかなえに食料をたくさん持ってくるために、毎朝早くに出かけるのはもう慣れた。
かなえは子作りを始めた初日からいつもと変わらずとても元気だ。するすると動けるので逃げそうで困る程に。
ラーグリバットのつがいになって体が丈夫になったらしい。
……だが正直……寝ててほしいと俺は思っている。
外に出ると、まだぐれくんがかなえを狙ってる。迫害されてでもかなえが欲しいらしい。
外に1人で出せばぐれくんが飛んできそうなので、本当は外に出て欲しくないのが心情だが……。
無理だろうな。と自己完結して深いため息を一度だけ吐き、俺はかなえの為にそろそろまた森に戻ってきたであろうリリーティンクを罠にかける囮の餌を置いて空を睨んだ。
……かなえが子を孕めるのか分からないという事もあり、あれから毎日子作りに励んでいるが……かなえは一向に慣れる気配がない。
大人しくて可愛いのでそれは良いのだが、どうしてかなえは拒否するのだろうか?
何度か試してみたが、かなえも別に嫌がっている訳ではないみたいだ。だけど……頬を舐めるとピシリと固まってブンブンと顔を左右に振るのだ。
結果としては別種でも子作りの行為が行えるという事は実証出来た。
だからかなえもどこかが痛い訳でも無さそうだからこれからも行っていこうと思っているが……どうしたものだろうか……。
無理やり事に及んでも、かなえは大人しくされるがままで甘い声で鳴くのでそこまで問題では無いが……どうしてかなえがそこまで嫌がるのか、俺には分からない。
もしかしたらかなえの種族は子作りを頻繁に行わない種族なのだろうか?
それを言えばラーグリバットだってそんなに子作りを行わない種族ではあるが、どうも俺は他のラーグリバットと比べるとどこかおかしいようだ。
他種族をつがいにしたのも俺だけだし、俺はかなえと毎日だって子作り出来る。
一族の繁栄に努めているのだろうかと思ったりもしたが……それが無くても……かなえが子を孕めなくてもその行為をしたいと思うのは、やっぱり俺がおかしいのだろうか?
いつもギャーギャーと暴れるかなえは、あの瞬間だけはピタリと大人しくなって固まる。
それが面白いし、顔が真っ赤に染まる瞬間を見るのも楽しい。
……それに、かなえがいつもより近くに感じられて……俺は、あの時間が大好きだ。
かなえに配慮するべきだと分かっていても、何故か気付けばかなえを押し倒している自分に呆れてしまう。
俺は結構我慢強い方だったと思ったのだが……。
悶々と考えてしまう自分の頭を横から殴りつける。こんな事を考えながらもまたかなえと子作りしたいと考える自分に心底呆れる。
そんな俺が今1番怖いのが、ぐれくんがかなえと同じ姿に変身する事だ。
ぐれくんももう少ししたらかなえと同じような容姿になる事も出来るだろう。
そうなったらかなえもにんげんと姿の近いぐれくんが良いと行ってしまうのではないかと日々怯えている。
考えてみれば毎日盛っているオスがつがいなど、かなえだって嫌だろう。現に嫌がられている。
ぐれくんなら、木の実をかなえに貢ぐ所から始めるような奥手そうなオスなので安心するのではないか……と考えて、毎日不安で仕方がない。
かなえの気持ちが分からない。
分かってあげたいのに、分かってあげられない。
つがいなのに……と呟いて、片手でヘルハウルに風穴を開ける。
魔石を取り出して頭を軽く振り払ってから、今日の収穫物を腰に下げ浮かない気持ちでかなえの待つ巣に戻る。……今日は、嫌がられないといい。
どんよりとした気持ちと、早くかなえに会いたいという浮き立つ気持ちを両方胸に抱いて、早いのか遅いのか分からない速度で巣への道を歩いた。
巣の付近に来ると、大きな地響きが聞こえた。
それに俺はまた不安を抱き、胸にじわりと不快感が滲むのを感じた。
――また来たのか、ぐれくんは……。
何とも言えぬ気持ちになり、思わず顔を顰める。この一途さが俺はとても怖い。
他にメスを見つけてくれれば良いのに、どうしてかぐれくんはかなえばかりを狙う。
両親に怒られて死にかけても他のオスのつがいを狙うのは相当だと思う。
……でも、そう考えるとこの龍も俺によく似ている。
ぐれくんの執着は、俺がかなえに向ける執着によく似ている。
そう考えて安堵した。ラーグリバットとしてはおかしいけれど、オスとしてはおかしな事ではないのかも知れない。俺が、かなえとずっと引っ付いていたいと思うのも。
納得して少し安心した直後、巣の奥からかなえの絶叫が聞こえた。
っ!!……かなえが何かに襲われてる!!?
先程まで考えていた事全てを吹っ飛ばし、俺は入り口を塞いでいたぐれくんを急いで叩きのめして鳴き声を上げるかなえのもとへ向かった。
「かなえっっ!!」
血相を変えて奥に入ると、かなえは俺を見て安心したように笑った。
それを見て何事も無かったのかと俺も安堵し、笑顔を返してかなえを腕に抱こうと…………した所で気付いた。
「何でまたお前が居るんだっ!!」
「ひでぇ言い草じゃねえか。精霊様だぞ?精霊様。崇めろよ」
勝手に巣に入ってきたであろう精霊はニタニタと気色悪い笑みで図々しく巣の奥で寝転がっていた。
かなえはそんな精霊から逃げるように俺の隣に並んで精霊を指差し何かぴーぴーと鳴いて俺に訴えかける。虐められたようだ。
「おい。かなえを虐めるな。早く出ていけ」
「虐めてねぇわ。そいつがえらい色んな奴に好かれてっから寝技があんのか聞いただけだっての」
「寝技なんかあるか!!かなえは寝転がってるだけだ!!」
噛みつくように怒声を飛ばすと、ひゃっひゃっひゃ!!と嬉しそうに笑い出す精霊。
かなえは俺の言った事が分からないらしくて目を点にして呆けている。
それにしても本当にこの精霊は気に入らない。
自覚が無いのか知らないが……かなりかなえを気に入っているように見える。
精霊はまだつがいなんてものが無いだけマシだ。……だけど、この精霊を見ていると、ぐれくんとはまた違った焦りを覚える。
かなえも別にこの精霊が嫌いではないらしい。
うざい?とは思っているとこの間言っていた。……うざいとは何だろうか?
それにかなえには精霊がにんげんと近い姿で見えているらしい。かなえは懐かしかったりするのだろう。
……嫌だな。かなえが俺を嫌になるのは……。
俺じゃないオスが良かったと思うのは……。
何も言い返さなくなった俺に精霊が笑うのを止めた。
そして俺とかなえを交互に見ると鬱陶しそうに息を吐き出し頭をぼりぼりと掻いた。
「はぁー……お前ら、うまくいってねぇんだろ?」




