1人ぼっちの絶滅危惧種 第13話
……それにしても、かなえはどうしてこう何度も攫われそうになるのだろうか?
俺が何度助け出してもかなえは何度も攫われ怪我をして帰って来る。もう巣からかなえを出さないようにした方が良いんじゃないだろうか?
でも誰かのつがいを他のオスが攫ったとなれば、森中の生き物から迫害されるのでさしたる問題ではない。最悪食用に攫われなければ大丈夫だ。
……だが精霊は別だ。
精霊は誰も手出しが出来ない。……勿論、俺も。
別の世界にでも飛ばれたらもう取り返せない。だから他の誰よりも精霊だけはかなえに近付けないようにしなければ……。
そう思い匂いを付けるようにかなえの肩に顔を擦り付けていると、精霊はいきなり地面に突っ伏して喚きだした。
気味が悪かったがそれよりも俺は、俺を凝視するかなえに目が釘付けだ。
かなえの目は真っ黒で夜みたいだ。それが光でキラキラ輝いてて、俺はずっと見ていられる。
見ているとまたかなえに触れたくなった。でも、伸ばしかけた手はかなえを引き寄せて、甘い香りを放つ首筋に誘われるように……俺はいつの間にか舌を這わせていた。
舌に俺が噛んだ痕が当たる。そこをくすぐるように遊ぶと、かなえは前に一度聞いたきりの甘い声で一瞬鳴いた。
その声は好きだ。もっと聞かせてくれ、かなえ。……もっと。
そう思い、首筋から下へ無意識に降りて行こうとしていた俺の舌は……かなえに剥がされた事で終わりを告げた。
驚いたのは一瞬。次の瞬間にはたぶんかなえが俺を引き剥がす原因となったであろう精霊に強い怒りを向けていた。
一体何度邪魔すれば気が済むんだ!!せっかくかなえと水入らずで毛繕いしていたのに!!!
もう我慢ならず追い返してやろうと歯を剥くと、精霊が放った言葉で空気が凍った。
「お前のそれ、首のやつ。それがつがいの証だ。それを付けられてたら元の世界には二度と帰れねぇんだよ。この世界の住人って事になるからな。前の龍のつがいのメスもそれで帰れなかったしなぁ。あーあ、可哀想になぁ?」
スーッとかなえのつがいの印をなぞる精霊に怒が湧いた。勝手に俺のかなえに触るなと。
……だが、それよりも硬直したまま動かないかなえに、ある可能性を感じて恐ろしい程の恐怖を感じた。
――まさか……かなえは、俺とつがいになった事を……知らなかったのか?
そんな。と考えて思い至る。
……そもそも……かなえの世界に……つがいなんて物は……あったのだろうか?
そうだ。かなえはここでの食べ物にいつも怯えていた。もしかしたら食べ物と一緒で文化だって違うのかも知れない。
それに最終的にはかなえが自分で選んでくれたとはいえ、印で元の場所に帰れなくなるなんて思わなかった。分かっていたら俺だってもっと安心していた。
どうしよう……絶対にかなえが帰れないという事は嬉しいけれど…………怖い。かなえが見れない。
そっぽを向いて知らないフリをする。
するとかなえはもっと怒りだした。……一体どうすれば良いんだ……。
俺はかなえに怒られるのが嫌で、ひたすらかなえから目を背け続けた。
――――…………
俺が頑なに無視するとかなえも諦めてくれた。良かった……!
でも諦めたというより後回しにされた感じだ。…………怖い。
その後かなえは一言、二言何か精霊と話すと、ばすと精霊から離れ、帰るのを見送った。
その背中が少し頼りなく……いつもよりも小さく見え、俺は消えそうに儚く揺らぐかなえの背中をそっと抱きしめた。
俺を振り返るかなえの瞳には悲しみと寂しさが滲んでいた。……俺を選んでくれたとは言っても、そう簡単に割り切れる物では……無いのだろう。
俺にはもう随分昔から仲間も家族も居ない。
だからかなえの気持ちは、分からないけれど……かなえが心の底から悲しんでいるのは、俺にも分かる。
そんな顔をしないで欲しい。かなえは、笑ってる方が似合うから。
そう心で呟くと、答えるようにかなえが俺の手をぎゅっと握った。小さな弱い手が、俺を離すまいと掴むのを見て、ごくりと唾を飲む。
何だか……堪らなくなる。飲み込んでも飲み込んでも唾が溢れる。
息も段々と荒くなり、気付けば俺はかなえの頬を執拗に舐めていた。
自分の行動に思わず自分で驚いた。どうしていきなりこんな行動に出たのかと考えて、すぐに結論に至る。
ああ……そうか、俺は…………かなえと、子作りがしたいのか。
また知らない感覚だ。これが子孫を残そうとする衝動という物か。
一族の死と共に消えようと思っていた俺は、子孫繁栄なんて考えた事も無かった。だって、この世にはもう俺しかラーグリバットは居ないから。
でも、今。俺はどうしてもかなえと子作りしたくて堪らない。
俺は本当にどうしてしまったのだろう?
舐めても嫌がるそぶりを見せないかなえに期待が募った。くすくすと笑うかなえにどこかが疼く。
――でも、またしても精霊にやられた。精霊がばすにのって遠くから何か叫ぶとかなえは狂ったように暴れ出した。本当に二度と来ないで欲しい。
その後暴れるかなえを無視してひたすら舐め続けると……かなえは倒れてしまった。
俺が血相を変えて急いで巣に戻し寝かせると、俺に引っ付くようにしてかなえはすやすやと寝息を立て始めた。
俺はかなえが来てから何度目か分からないため息を再び吐いて空を仰いだ。……どうして寝てしまうんだ、かなえ……!!
幼子のように安らいだ寝顔に毒気が抜かれる。
この顔を見て無理やり事に及ぶことも出来ず……俺は眠れぬまま夜を明かした。
――――…………
朝、やっとかなえが起きた。
さぁ、昨日の続きを……と、思ったが何故かかなえがあからさまに無視をしてくる。
俺が何度もかなえの視界に入って名を呼んでも、考え事をしていますよ。という気配だけを漂わせてオドオドと俺から逃げる。
きっと何事も無かったかのように過ごして、倒れる前の出来事を無かった事にしていつも通りに過ごそうとしているのだろう。
だけどそれをされては困る。
せっかく心も通じ合えたのだから、体もしっかりつがいとして通じ合いたい。
俺は使命に燃え、かなえのふくに手を掛け思いきりまくり上げた。
すると案の定かなえは騒いでごめんと言ってきた。やっぱり故意だったようだ。
かなえの顔は可哀想な程真っ赤になって、濃い甘い香りを周囲に振りまいて震えていた。
……きっと、その気が無い訳ではないが怖いのだろう。
俺は仕方なくきょわちゃんの鱗を取に洞窟の奥に向かった。
きょわちゃんの鱗を使うのは少し可哀想だが……まぁ小さなかなえの体を思えば使った方が安心なのかも知れない。
俺は大量にかなえが貯めていた鱗に若干引きつつも、その中から1枚だけ取り出してかなえに渡した。
砕いて俺が食べてみせると、かなえも疑う事を知らないからかすんなり食べてくれた。
……俺はかなえが心配だ……。
美味しかったのか笑顔で口の中で鱗を転がすかなえに、精霊がかなえを馬鹿だと言っていたのを思い出す。
…………俺がしっかり見ておかないと……!
俺は精霊に反論出来ない程のかなえの馬鹿さ加減を改めて認識した。このままでは頭が悪くて死んでしまいそうだ。
俺に頭の心配をされているとも知らず、おかわりが欲しそうに俺を覗き込むかなえに早く教えておこうと、俺はのしかかるようにかなえに馬乗りになった。
驚き硬直していたかなえだったが、徐々に鱗が効き始めたのか段々と息が荒くなってきた。
それに自分で驚いたのかかなえは周囲を見渡して騒ぎ始め、俺はそんなかなえの鳴き声を止める為に両手が塞がっていた事もあり、口で押さえつけた。
前にかなえの口を舐めた時に静かになった事があるので、これがにんげんの生態なのだと思う。
やはり今回もかなえは静かになり、体がふわふわするのか暴れていた上半身も少しずつ動きが鈍くなってきた。
俺も鱗の効果か時間が経つにつれて息が上がり始めて、かなえを呼ぶ色の滲んだ自分の声に驚いた。
自分からもこんな声が出るのかと面白くなって少し笑うと、俺の座っているかなえの腰がぶるりと震えた。
その振動に思わず舌なめずりすると、かなえは驚愕を顔で表してパクパクと口を開閉して真っ赤になる。
ああ、やっぱり大人しくしているかなえは珍しくて良い。触りやすい。
するりと顎を撫でるとまた震える。抵抗出来ないらしいのがとても面白い。
真っ赤な顔で左右に顔を振るかなえに、俺の欲はさらに膨らんだ。
……そして、白い……まだ見た事のない首の下へと興味を惹かれて、かなえのふくを押し退け舌を這わせると、かなえは俺の頭を掴んで力一杯叫んだ。
「キョワチャンノバカヤロオオオオッッ!!!!セワシタキュウリョウガビヤクッテ、バカニシテンノカアアアアッッ!!!!」
――そして、俺達は本当の意味でつがいになった。




