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1人ぼっちの絶滅危惧種 第11話

やっとかなえが止まったのを遠くから見つけ、安心して息を吐く。…やっと届く……!


俺は速度を上げて、早く腕にかなえを抱こうと手を広げて後ろからかなえの名を――……



「お嬢ちゃん、乗ってくか?」



精霊がかなえに確認を取る声が聞こえる。心臓が凍り付くような感覚に大きく体が震えた。



――嫌だっ!!やっぱり行かせたくないっっ!!……もう、居なくなって欲しくない!!



向こうに俺も行ったって良いと思っていた。……だけど、それでは俺はかなえの役に立たないかも知れない。


それに……向こうに居るかなえの大事なにんげんに負けるかも知れない。


かなえはこの世界で俺の傍が安全だから俺と居てくれているけれど、向こうに戻ったら……俺の傍よりも安全だったら、もう俺とは居てくれないかも知れない。



何かを答えようと口を開くかなえに戦慄が走る。


……止めてくれ…………止めて……やめて、かなえ……っっ!!!



「かなえやめてえっ!!!」



悲鳴のように声を上げてかなえにしがみつく。


……離さない。もう二度とこの手から離しはしない。



力を込めてかなえを抱きしめると、かなえが鳴いた。かなえの背に顔を引っ付けた俺には、かなえがどんな顔で鳴いていたのかも分からず……ただ、俺の目の前で消えるかなえを想像して恐ろしい程体が震えた。



捨てないで、かなえ。俺、頑張るから。もっといっぱいかなえと喋れるように頑張るから。



心でいっぱいかなえにお願いした。捨てないでと。嫌いにならないでと。



段々とかなえが抵抗しなくなって安心し、腕の力を緩めようとした瞬間、ふっ……とかなえの温もりが消えた。


一瞬呆気に取られ、腕が何も掴んでいないと認識して大声を上げそうになった俺の視界に拳が映り込む。


そしてそのまま俺は避ける事も出来ず、動揺していたとはいえラーグリバットである俺が対応出来ない早さで何かに殴り飛ばされた。



地面に倒れ伏し放心した状態でやっと気付く。あれは精霊に殴られたのだと。



精霊は俺の時を止めて、その隙にかなえを引っ張り奪ったのだ。そうでもしないと俺からかなえを奪うのは不可能に近い。



初めて自分と同等の力で殴られた事により、驚いた俺の頭は予想以上に大きく揺れた。


ぐわんぐわんと視界が揺れる中で必死にかなえを探す。


……居ない……かなえ…………連れてかれる……かなえ……!!



すると後ろから俺を心配するかなえの声が聞こえて、俺は安心し大きく息を吸い立ち上がった。

……ああ……良かった、かなえは無事だ!


だけど振り向いて見えたものに、今度は怒りで体が震えた。かなえが精霊に手を掴まれているのが見えたからだ。



――かなえを連れて行く気か!!させるかっ!!



俺は精霊が力を使うより先に、精霊が身に着けているかなえとよく似たふくとかいう物の首近くを掴み上げて、ばすの壁に押し付けた。











俺はかなえに怒られた。かなえを助けたのに怒られた。



でもかなえがどんなに言っても俺は精霊を離すつもりはない。


だって、離した瞬間かなえを元の場所に帰そうとするかも知れない。そんな事をされる前に殺しておくべきだ。


……なのにかなえは俺の指を精霊から離させようとする。



……かなえは帰りたいのか?俺と居るのは、嫌?



悲しくなってくる。……でもそれもこれも精霊のせいだ!こいつが来なければかなえはずっと俺から離れようとしなかったのにっ!!



ギリギリと歯ぎしりして精霊を睨む。だがやはりこの森の主なのか、精霊は俺の威嚇に怯えもしないどころか逆に俺を挑戦的に睨みつけてきた。


俺はその表情に悪寒が走るのを感じた。生きてきて初めて別の生き物に委縮した瞬間だ。


……やはり精霊は……誇り高いラーグリバットの筋力をもってしても……勝てない……!



威圧を感じて俺の中の本能が退けと訴えかけるが、俺の手は本能の訴えに反して決して放そうとはしなかった。



このまま絞め殺せるだろうかと、荒い息を吐き出しながら思考を巡らせた瞬間、精霊が目を大きく見開いて、血管を浮かべながら我慢ならないように叫んだ。



……離さなければこのまま……かなえを連れて帰るぞ、と。






俺は急いで放した。もしかしたらかなえに触れなくても精霊はかなえを連れて行けるのかも知れないと思ったからだ。


離すと忌々しそうに睨まれる。かなえは青い顔をしてアワアワと震えていた。



「まったく…勘弁しろよなぁ…せっかく迎えに来てやったのにこれだぜ」



パタパタと見せびらかすようにふくを叩き、俺を挑発し言う精霊。その発言に俺の予想は確信に変わった。



やはり、かなえを連れて行く為に何度も現れていたのか…っ!!



血が出そうな程唇を噛む。睨まれた精霊はとても楽しそうにニヤニヤと笑う。下卑た笑い方だ。



「かなえは俺と暮らすから帰らないっ!!1人で帰ってろ!!」


「あ?お前が決める事じゃねえだろうが。そこのメスに聞いたんだよ。よそもんは引っ込んでな」



俺が二度とかなえに近付くなと意味を込めて近付くと、精霊は俺を手で払った後、腕を組み鼻を鳴らし優越に浸った顔で言った。



……メスじゃない、かなえだ。かなえの本当の名前も知らないくせに……まるでかなえが帰りたがってるから迎えに来たように言うな……かなえの事なんて、何も知らないクセに……!!



体が熱くなる程の怒りが、また精霊に手を伸ばそうと腕を持ち上げる。



……だが、俺の手が精霊を掴む前に、かなえが手を上げて何か鳴いた。


それに気を取られて顔をかなえに向けた瞬間、精霊は一瞬で逃げるようにかなえの真後ろに移動した。



……やはり本気でやり合っても、精霊には勝てない。


最悪、俺が負けてかなえはここに1人で取り残されるか、この場に俺の死骸だけが残されるだけだ。



理解して、かなえの傍に立った精霊を追いかけようとしていた足は不自然な格好で止まった。

それを一瞥した精霊は腹の立つ顔でため息を吐く。やっと分かったか、とでも言いたげだ。


そのままかなえは精霊と仲良く話し始めた。



……俺だって、かなえの言葉……分かるのに……。



精霊の方の言葉は俺でも理解できる。……けれど、どうしても精霊の言葉のようにはかなえの言葉は理解出来なくて……俺は背中を丸めてそのやり取りをただ見ているしかなかった。



――かなえは、精霊の方が良い?俺が、にんげんの言葉を喋れないから?



嫌な予感だけがぐるぐると回る。ただ待っているだけしか出来ない俺が、ひどく惨めで滑稽に思えた。


馬鹿、と言いぐりぐりとかなえの頭をを撫でる手を無言で叩き落とす。これぐらいしか俺は、かなえの役に立てない。



……だけど、かなえはそんな俺に嬉しそうに笑顔を向ける。かなえが嬉しいと俺も嬉しい。


同じ笑顔でかなえに笑いかける。かなえはそんな俺を見て頬を薄っすらと赤く染めた。とても可愛い。



機嫌が良くなって無意識に体が揺れた。俺は今まで気付かなかったけれど、かなり単純な性格をしているようだ。


するとかなえに何か言われた精霊が邪推したように俺とかなえを交互に見て笑った。……こっちの笑顔はどうしてこんなに気持ちが悪くて腹が立つのだろうか?不快でしょうがない。


そのままかなえの顔を下から覗き込むように笑い出したので、払い退けようと俺は手を



「何だ?若い男が好みってか?そりゃそんなガキに欲情してる奴にはおっさんだわな」



そう精霊が大声で言い笑った瞬間、かなえは火に炙られたように顔どころか全身真っ赤に染めて大声で精霊を怒鳴りつけ始めた。



……かなえは若いオスが好きなのか?



そんな暴れるかなえを見ながら呆然と考える。



俺の見た目はかなえよりも少し若いぐらいだと思う。本来はきっと、かなえよりもかなり年上だけれど。


かなえは若いオスが好きなら、俺は?俺がかなえより年上だと知ったら、かなえは離れていく?



本当はかなえとつがいになる少し前から、止まっていた体の年齢がかなえの年齢に合わせるように進みだしていた。


……だけど、かなえが年下が好きなら……このままの姿で止めなければ……。



俺が決意を新たにしていると、かなえが顔を押さえて俯いているのが見えた。精霊の言葉に心を痛めたらしい。



可哀想なかなえ。こんな奴ほっといて帰ろう?俺達の巣に。



そのまま手を引いて帰ろうとすると、精霊が俺を止めるようにかなえに言った。



「はぁ……っていうか、このガキも結構な歳だろ。ラーグリバットは歳が操作出来っから元が分かんねぇけど、まだ絶滅してねぇって事は700はいってんだろ」


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